山内
百日咳の注意点についてご教示くださいとのことです。現時点(2025年6月5日収録時)でも百日咳ははやっていると考えてよいですか。
古市
そうですね。かなり患者さんが多い状況が続き、高止まりから、西日本ではややピークが落ちてきた印象です。
山内
それにしても、例年に比べるとものすごい数です。
2025年の大流行の背景として幾つか挙げられていますが、まず一つ、コロナ後の集団免疫の低下ではないかということです。ただ、そうであれば、ほかの感染症も増えているのではという疑問はありますが、いかがですか。
古市
そうですね。時期を変えてですが、A群溶連菌の感染症がすごく増え、マクロライドも耐性菌を含めて、マイコプラズマ肺炎の流行もあったと記憶しています。
山内
海外でも同じような現象は見られていますか。
古市
そうですね。百日咳に関しては、2023年、24年頃から中国や米国で増えていると報告されています。
山内
やはり集団免疫が落ちていることに絡むものは見られるのですね。
古市
そう思います。
山内
2つめの背景として、耐性菌が増えているという話ですが、実際、耐性菌の割合はいかがですか。
古市
マクロライド系抗菌薬が第一選択ですが、やはり話題になっているのはマクロライド系抗菌薬の耐性菌です。第5類感染症は全数報告になってはいますが、すべての菌株が解析され、結果が公表されてはいません。ただ、国立感染症研究所などへの報告を通じてフィードバックされている情報では、東京の小児病院では、6分の5はマクロライド耐性菌で、大阪からも、半数以上が耐性菌だという報告があります。
重症患者さんが小児病院に集まる傾向があるので、その割合がそのまま市中かということではないとは思いますが、実際はそのような数字が出ています。
山内
確かに重症化した方からまたほかに感染していくことを考えると、耐性菌の問題は大きいと考えてよいですね。
古市
そうですね。耐性の有無によって感染力が変わるわけではないのですが、百日咳自体の基本再生産数(1人の感染者が何人に感染させうるか)が、はしかと同じくらいで、16~20を超えるといわれているので、かなり感染力が強いです。
山内
もともと強いのですか。
古市
はい。なので、拡がりやすい感染症です。コロナやインフルエンザだと、基本再生産数が2~4で、5以下ぐらいでとどまっているので、百日咳はかなりの感染力の強さだと思います。
山内
3つめの背景として、ワクチン効果がだんだんと薄れ、20歳前ぐらいまでにはワクチンの効果が低下するようですが、免疫効果の低下が早まっているということは実際にあるのでしょうか。
古市
ここ数年でワクチンの問題で何かが変わってきているということではないと思います。3種混合、4種混合、今は5種混合ワクチンになりますが、効果の持続年数はだいたい7~14年、10年前後といわれています。5歳、6歳、7歳ぐらいになってくると、0歳、1歳で打った4種混合ワクチン、5種混合ワクチンの効果が下がってくることは以前から知られていました。
日本小児科学会では、2018年頃だったと思いますが、5歳、6歳のとき、小学校へ入学するタイミングで3種混合ワクチンをもう一度、任意接種で打ちましょうとか、11歳、12歳で2種混合ワクチンを定期接種で打ちますが、その代わりに3種混合ワクチンを任意接種で打ちましょうという声明が出ています。もともと効果の持ちがいいワクチンではないのです。そこにコロナの対策もあって罹患者が減ることによってブースターがかからなくなり、より一段と効果が下がるようになった。そして今があるということです。
山内
ただ、大人の百日咳は以前からわりに軽症が多いということから、ワクチンをもう一度接種しようという気分にならないかもしれないのですね。
古市
そうですね。大人に対してワクチンを打つのは、コロナでもそうだったと思いますが、重症化が少ないと行動変容には結びつかない一面があると思います。
山内
大人の場合、今年はマイコプラズマもはやりましたので、これと咳の関係で混同されてしまい、知らない間に蔓延していたような印象もありますね。
古市
そうですね。マイコプラズマもそうですし、ここ1、2年で普通の風邪をひく機会が本当に増えたと思うのです。咳をしているお子さんは増えています。その中で、大人が咳だけで病院受診をするかといわれると、なかなか難しいです。
ただ、百日咳は咳が出始めてから1、2週間の感染力が最も強いといわれているので、風邪かな、ちょっと長びいてるなという間に感染を広げてしまっているのが現状かと思います。
山内
通常の感染と違って、大人が媒介してしまっているところがなきにしもあらずですね。
古市
そうですね。
山内
最初の質問ですが、ワクチンの接種者と未接種者で症状、経過に差があるのかということについてはいかがでしょうか。
古市
今、4種混合、5種混合ワクチンの定期接種の接種率は99%近くありますので、私たちが、ワクチン未接種者の症状を診る機会がないのが現状です。
ワクチン未接種者とは混合ワクチンが始まる前、生後2カ月未満のお子さんはワクチン開始前なので、その年代の方はワクチン未接種で百日咳を発症しています。
乳児期早期のお子さんは、咳が続くなどの典型的な症状というより、無呼吸で発症したり、無呼吸からの顔面蒼白、チアノーゼ、またはけいれんなどで発症様式が異なっています。
山内
重症化しているということですね。
古市
そうですね。
山内
2番目の質問に関して、マクロライド系抗菌薬への耐性菌の問題ですが、それでもまだマクロライド系抗菌薬が現時点でも第一選択薬と考えてよいですか。
古市
市中でマクロライド耐性菌がどれぐらいの割合を占めているか、現状、はっきりしたデータはないですね。マイコプラズマのときもそうだったと思いますが、マクロライド耐性菌は病院で解析をするとそれなりに割合は高いのですが、市中の外来ベースで測るとそれほど高くないというギャップがあります。おそらく百日咳に関しても同じようにギャップが存在すると思いますので、アジスロマイシンやクラリスロマイシン、エリスロマイシンを使う、今までの治療法でよいと思います。
山内
これは通常の治療量ということで、基本的に期間としてはどのぐらいが目安でしょうか。
古市
アジスロマイシンであれば、国際的な治療期間は5日間となっているのですが、日本では3日までしか保険適用となりません。アジスロマイシンではなく、実際の診療の中ではクラリスロマイシンの7日間や、エリスロマイシンの14日間を処方される医師が多いのではないかと思います。
山内
通常はこれで少し下火になっていくと考えてよいですか。
古市
そうですね。症状がピークを超えてきてくれるといいなと思います。
山内
これであまり切れ味が良くないケースが耐性菌かということになりますか。
古市
そうですね。やはり考えなければいけないかと思っています。
山内
その場合はどういった薬になりますか。
古市
症状が長引いている方に、ルーチンに処方しなければいけないわけではないですが、例えば家庭内に新生児や免疫不全者の方がいるとか、百日咳の重症化のリスクが高い方がいる場合はST合剤が一つの選択肢になると思います。
山内
どのくらいの期間でしょう。
古市
ST合剤に関しては、治療期間は14日間が推奨されています。
山内
これは保険診療は可能ですか。
古市
現時点では保険適用外だと私は認識していますので、注意が必要かと思います。
山内
アレルギーなどがあり、使用できない場合の対応はいかがでしょう。
古市
かなり難しくて、マクロライドが耐性である場合、ST合剤以上の薬は残念ながら今はほかにありません。検査上で感受性があると示されているものは幾つかありますが、臨床的なエビデンスがついてきていないので、ST合剤を超えるものはないです。
どうしても使えない場合、例えばその方が重症化するリスクがあるかどうかを重要視して判断するのがいいかと思っています。
山内
かなり専門的になるということでしょうね。
古市
はい。もし地域に感染症の専門医がいれば、ご相談いただけるといいかなと思います。
山内
どうもありがとうございました。