多田
肺癌は小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分類されていますが、この理由を教えてください。
栁谷
肺癌の組織型が小細胞肺癌と非小細胞肺癌に分類される理由は、癌の特徴や治療方法に大きな違いがあるからです。小細胞肺癌は、非小細胞肺癌と比べて増殖速度が速く、転移や再発をしやすい腫瘍です。治療法も異なります。手術や放射線治療などの適応にも違いがありますし、薬物療法においても小細胞肺癌と非小細胞肺癌ではレジメンが異なります。非小細胞肺癌では、遺伝子変異を調べて、そのドライバー遺伝子変異が陽性であれば、そちらをターゲットとした分子標的治療薬を最優先とします。実際に非小細胞肺癌では保険承認されている分子標的治療薬もたくさんありますが、小細胞肺癌では現状、実臨床で行える分子標的治療薬はありません。そのため、遺伝子検査も小細胞肺癌では基本的には行っていません。
多田
さて、肺癌の10~15%を占めるといわれる小細胞肺癌ですが、小細胞肺癌の診療において、その診断と治療の概略を教えてください。
栁谷
まず診断方法としては、非小細胞肺癌と大きな変わりはありません。確定診断のためには組織検査が必要で、主に気管支鏡検査で生検することが多いです。肺の原発巣から、TBLB(経気管支肺生検)のほか、小細胞肺癌では縦隔や肺門のリンパ節の腫大を認める症例が多いので、超音波の機能も有する気管支鏡であるEBUSで生検することも比較的多いと思います。
気管支鏡検査での生検が難しい場合には、鎖骨上のリンパ節の生検や、胸水の細胞診やセルブロックから診断することもあります。また、小細胞肺癌は遠隔転移しやすいという特徴もありますので、肝転移などの転移巣から生検して診断することもあります。
そして、組織診断と同時に行うこととして、ステージング(病期診断)のための全身検索があります。主に胸部と腹部の造影CT、脳転移を調べるための脳MRI、そして全身を見ていくPET-CTは必須の検査だと思います。このように、組織診断とステージングの終了後に治療方針を決定していくことになります。
小細胞肺癌の場合は進行が速く、早期から遠隔転移をきたしやすいという特徴があるので、治療の主体は薬物療法になります。
多田
薬物療法が比較的効きやすいけれども、再発もしやすいという話も聞いています。小細胞肺癌は、内科的な治療としては放射線を使ったり薬物療法など、選択の幅がありますが、実際、小細胞肺癌に関して限局型のあまり転移していないタイプと進展型に分類されて、治療が展開されるということですが、まず限局型の場合の治療法について教えてください。
栁谷
小細胞肺癌の場合は薬物療法が中心となりますが、そのほかにも手術や放射線治療などの方法も局所治療を行う限局型の場合にはあります。一方、進展型では薬物療法のみで治療を行います。ですので、質問いただいた限局型については、その中でも本当に早期のⅠ期や、リンパ節転移がまったくないN0の症例については手術も適応になります。また、手術の適応にならない症例であっても、限局型といわれる根治照射が可能な範囲の病変であれば、放射線治療も適応になります。
しかし、そうは言っても、手術と放射線治療も、基本的には化学療法を一緒に行う、もしくは追加することで根治率を上げることがわかっていますので、手術の後に術後補助化学療法として抗がん剤を行う、もしくは放射線治療の場合には、根治照射と同時に抗がん剤を行います。
多田
今いろいろな治療法が進んでいますが、その辺りも教えてください。
栁谷
最近、新しく承認された治療があります。これまでは先ほどのような放射線化学療法を終了した後は、通常は予防的全脳照射を25Gy行って、いったん治療終了となっていましたが、2025年、つい最近の話ですが、大きな治療変更があって、追加の治療ができるようになりました。
その治療というのは限局型の小細胞肺癌の症例において、放射線化学療法後、そして全脳照射を行った後に免疫チェックポイント阻害剤であるデュルバルマブによる維持療法を行う方法で、このたび標準治療として認められました。
多田
大きな進展ですね。
栁谷
はい。非小細胞肺癌では、PACIFIC試験の結果から同じような治療がされていましたが、小細胞肺癌では今までは承認されていない治療でした。
多田
普通の抗がん剤を使うよりも、患者さんに対しての侵襲が少ないということでしょうか。
栁谷
そうですね。一般的には、細胞障害性抗がん剤よりも免疫チェックポイント阻害剤は副作用が軽いといわれています。ただ、特徴的な副作用があるのでもちろん注意は必要ですが、放射線化学療法後に免疫チェックポイント阻害剤を行うことで、全生存期間と無増悪生存期間が有意に延長したというADRIATIC試験の結果がこのたび出ました。こちらを基にそういった治療が承認されました。
多田
あと、限局型では、初回の治療に奏効しても、大部分でまた再発したり増悪したりするといわれています。その場合の対処法を教えてください。
栁谷
確かに、残念ながら再発してしまう場合も往々にしてあるのですが、その場合は進展型と同じ薬物治療を行っていくことになります。進展型と同様ということは、プラチナ製剤とエトポシド、免疫チェックポイント阻害剤を併用して治療していくことになりますが、再発してしまうと、基本的には小細胞肺癌は根治を目指せないので、薬物療法の目的自体が症状緩和と延命ということになります。
多田
アントラサイクリン系の薬を使うこともあるのですか。
栁谷
そうですね。初回治療に関しては、今は免疫チェックポイント阻害剤との組み合わせの問題で、プラチナ製剤とエトポシドという2剤の組み合わせはほぼ固定なのですが、この初回治療終了後に、再発が見られた場合には、二次治療としてアムルビシンという薬の治療法があります。
多田
ありがとうございます。次に進展型の治療法も教えてください。
栁谷
進展型の場合には、放射線治療や手術は選択肢に入らなくなりますので、薬物療法単独の治療になります。その薬物療法としては、シスプラチンやカルボプラチンのようなプラチナ製剤と呼ばれる薬物と、エトポシドを併用する化学療法、それから2019年以降に承認された免疫チェックポイント阻害剤の3剤併用を行います。
こちらは20年以上、標準治療に変化がなかった小細胞肺癌の領域において、非小細胞肺癌のほうからは少し遅れてではありますが、免疫チェックポイント阻害剤が使用できることになったということは非常にインパクトの大きいものでした。
多田
3剤の併用を行うということですか。たいへんな進展ですね。
栁谷
そうです。今までは長らく2剤併用でしたので。免疫チェックポイント阻害剤が併用されると、もちろん奏効の期間が延びる、予後が改善される、もしくは維持療法を続けることで早期に再発してしまっていた初回治療が比較的長く継続できる方もいらっしゃることになります。
多田
非小細胞肺癌の場合、様々な治療薬が広がっていますが、小細胞肺癌の場合はまだそこまでは広がっていないようです。今後の治療方針の展望について教えていただきたいと思います。
栁谷
非小細胞肺癌は、近年大きな治療の発展を認め、目を見張るものがある一方で、小細胞肺癌の治療はやや後れを取っている感じがありました。
しかし、6年前に進行・再発の小細胞肺癌領域で免疫チェックポイント阻害剤が臨床導入されましたし、2025年は限局型の症例に対しても放射線化学療法後に、先ほど申しましたようなデュルバルマブが承認されて、小細胞肺癌の治療にも光が差してきたかと思っています。
また、もう一つの大きい変化としては、既治療の進行・再発の小細胞肺癌に対しても、この4月からタルラタマブという新規の治療薬が実臨床で治療できるようになっています。その薬物はこれまでの薬剤とまったく異なるタイプのもので、二重特異性T細胞誘導、BiTEと呼ばれる免疫腫瘍療法になります。
T細胞膜上のCD3と小細胞肺癌の腫瘍細胞膜上のDLL3の両方に結合することで、細胞傷害性CD8+またはCD4+T細胞を特異的に誘導し、抗腫瘍効果を示すという仕組みになっているものです。こちらは2024年12月に販売承認を取得しましたが、実際に薬価が付いて使えるようになったのは2025年4月で、今まさに実臨床で使えるようになったという新しい薬剤です。
ですが注意点がありまして、タルラタマブはサイトカイン放出症候群、発熱、味覚異常や食欲の低下、疲労や無力症といった副作用が知られています。特に初回投与等ではこういった副作用が出やすいので、厳密な管理の下、副作用対策をすることが大事かと思います。
多田
癌細胞を異物質として捉えて、そこにTリンパ細胞を持ってきますから、いわゆるサイトカインの嵐が出てくるということで、このチェックとコントロールも大事ということですか。
栁谷
はい、そうです。こちらは今まであまり私たち呼吸器内科医が慣れていなかった領域の副作用ですので、経験値を積んでうまく対処していくことが必要になると思います。
多田
最先端の治療法の紹介も含めたいへんわかりやすい話をありがとうございました。