ドクターサロン

多田

1998年には、肺がんが胃がんを抜いてがん死亡率の第1位となりました。その後も死亡率は高まり、2020年には約7万6,000人が肺がんで亡くなっています。そして、また新たに診断された肺がんの罹患数も年々増加しているようです。

中山先生は日本肺癌学会における肺がん検診委員会の委員です。2022年に「肺がん検診ガイドライン2022」が発表されていますが、そこに書かれている「検診ガイドライン」と、いわゆる疾病として捉える「診療ガイドライン」の違いは何でしょうか。

中山

検診の評価というのは非常に難しくて、例えば10年20年かかってしまうことに加えて、精密検査などにより体や精神的な負担が大きいです。検診というのは、1,000人やって1人見つかるかどうかというところなので、受診した大半の人にとっては実は利益はないけれど、精密検査が必要かもしれないと言われてショックを感じる、といった不利益があるということになります(表1)。実はあまり利益は大きくなくて、不利益は非常に大きいかもしれないので、検診ガイドラインというのは、判断をするためにできるだけ不利益を与えない保守的な判断をせざるを得ません。それから、更新に非常に時間がかかるという点で、診療ガイドラインとは違ってきます。

多田

2022年にガイドラインが出ましたが、さらに最近では、肺がん検診ガイドラインの更新版が出るという話も聞いています。これに関して、お話をしていただければと思います。

中山

国立がん研究センターで「有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン(https://canscreen.ncc.go.jp/guideline/haigan.html)」というものを定期的に出しているのですが、肺がん検診に関して、2025年4月25日に新しい肺がん検診ガイドラインを公開しました(表2)。

これは以前のものに比べて画期的な推奨になっています。胸部X線検査に関しては、以前と同じように実施を推奨することになっていますが、今回、低線量CT検査に関しては、重喫煙者に対して年1回の低線量CT検査を推非奨するというかたちで出しています。

多田

頻度は年1回ですか。

中山

年1回です。現状は非喫煙者が非常に多いのですが、これに関してはまだエビデンスがなく、放射線被曝や過剰診断の問題が多くあるので、非喫煙者に対しては低線量CT検査は推奨しないことになっています。 

多田

過剰診断の問題もあるのでしょうか。

中山

そうですね。

多田

でも、実際に低線量CT検査はどこの施設でもできるわけではないですよね。

中山

日本で今販売されているCTは、設定ボタンを押せば低線量CTは必ず撮れるようになっています。撮影の仕方については放射線技師も、一定の研修を受けていれば皆さん理解されていると思います。かつては線量を抑えると画質が低下すると思われていましたが、今はそれを補正するAIのソフトが一般的に使われていますので、かなりいい画像になっています。

多田

浴びる放射線量は、普通のレントゲン写真、XPのだいたい20倍ぐらいですか。

中山

そうですね。かなり線量を抑えていて、実は普通の単純X線と変わらないぐらいのものも開発されてはいますが、一般的にはまだ10倍、20倍というものもあります。ただ、その辺は技師が撮影の仕方をうまく行えば、かなり線量を抑えて、いい写真が撮れるようになってきています。

多田

レントゲンの場合、結核では一人の医師で診断せずに、ダブルチェックをするということが広がりましたが、肺がんにおいても同じようなシステムを取るのですか。

中山

そうですね。特に単純X線は一人だとどうしても見落としがあり得ますので、ダブルチェックは必須となっています。

多田

CTの場合はどうですか。

中山

CTに関しても、今のところはダブルチェックでいこうというかたちになっています。これから一人でやったらどうなのかという精度の研究結果が公開されてくることになると、一人でもいけるかもしれませんが、まだ放射線科も経験が乏しいという問題があるかと思います。

多田

ここでエビデンスを捉えながらということですかね。

中山

そういうことになりますね。

多田

高リスク群を捉えてということがありますが、肺がんの場合は喫煙がその一つだと思います。あとは何か高リスク群として捉えているものはありますか。

中山

やはり一番大きいのがたばこをたくさん吸ってきたかどうかになります。1日に20本以上のたばこを30年以上続けて吸っていたという人がハイリスクだと定義されています。

多田

喫煙以外にはありますか。アスベストも一時は騒がれましたが、今はそれほどではなくなってきたということでしょうか。

中山

曝露している方たちが高齢化してきたということと、その人たちには別の検診が提供されていて、年に2回ぐらい受けている方も多いと思います。

多田

そうしますと、高リスク群としては喫煙者が中心ということですが、肺がんの検診の実態においても新しいガイドラインでは普通のレントゲンとCTがメインで、喀痰細胞診はもう検診項目としては入ってこないのですか。

中山

前は、喀痰細胞診で見つかるような太い気管支にできるがんが多かったのですが、かなり減ってきて、無気肺と呼ばれるX線の所見は20年ぐらい前からほとんど病院でも見なくなってきました。喀痰細胞診を用いた検診で、実は全国で20例ぐらいしかがんが見つかっていないというぐらい減少しているので、もうさすがに検診には使えないぐらい患者さんが減っているということです。

だから検診は画像診断に特化して、喀痰細胞診は痰が出ているような方に外来で使うのみというかたちにするべきだということです。

多田

むしろ、検診というよりも実際的な診療の中でチェックしていくということですか。

中山

そういうことになりますね。

多田

あと、がん検診におきまして、肺がんというのは時間がたつと進行して、死亡に至るという前提の中に置かれていますが、直接死亡につながらない病変が見つかることも多く、検診に伴う過剰診断ということも外国ではけっこう懸念されているようです。この辺りの先生のご判断、ご意見をいただきたいと思います。

中山

X線で見つかるがんで、それほどゆっくりしたがんはほとんどなく、おそらく2%ぐらいといわれていますが、CTになると、かなりたくさん進行しないがんが出てきます。

そういう方については、日本の外科医も、あまり大きくならないということが理解されてきているので、半年後にもう一度、というかたちでゆっくりとしたフォローをするのですが、一部の患者さんはびっくりしてしまって、「先生が切ってくれない、私は死んでしまう」と言って大騒ぎする場合があります。フォローをしてあげたほうがいい場合があることをご理解いただきたいと思います。

多田

それは患者さんによく話していくということですか。

中山

そういうことです。

多田

私も現役の頃は肺に小さい占拠性病変が見つかったとき、細胞診が必要ですから外科的に取ってもらいなさい、と言っていましたが、そうではなくて、経過を見ていくことが非常に大事だということですね。

中山

そういうことになります。切らない医師のほうが実は名医だという時代に変わってきています。

多田

切ると、結局、肺機能が落ちますからね。

中山

そうですね。

多田

あと偽陽性、つまりはスクリーニングで陽性と判定されて、その後、数回受診したり、CTを撮ってもなかなか診断がつかないという状況が、患者さんにとって精神的にも肉体的にも経済的にも不利益が生じることがあります。こういうことに対してご意見をうかがいたいと思います。

中山

皆さん同じではなく、ナーバスな方がいますので、そういう方にとっては、偽陽性になると、私はがんに違いないと思い込んでしまって、「私はがんだと言ってほしい」というような話になってしまいます。そういう方になると、「これはがんじゃないよ。肺炎の痕だよ」といくら説明しても、信用できないからほかの医師のところへ行くという、ドクターショッピングが永遠に続きます。こういう方がいるので、あまり不用意にがんの疑いをかけないほうが実はいいと思います。

多田

大事なところですね。かえって病気を作ってしまうことになるのですね。

中山

そういうことです。

多田

今の話を踏まえて、肺がんの検診の最新情報について改めて教えていただきたいと思います。

中山

これからも胸部X線による検診が主体ですが、一部のたばこを吸う人に対しては低線量CTを行うことになります。ただ、それができる施設がまだ足りないですし、たばこを吸う人は「肺がんの疑いだ」ということを言われたくないので、怖くて検診に行きたがらないと思います。できるだけ医師からそこを勧めてほしいと思います。

多田

検診は、今どのような組織で行っているのでしょうか。

中山

やはり医師会で行っているところが多いと思います。

多田

我々は一般医家としてもそういった情報網を持って、どこで検診を行っているかをチェックして患者さんに勧めていくということですが、偽陽性の判定もあるという認識も含めて、患者さんを追い込まないようなかたちで検診を勧めていくことが大事だということでよいでしょうか。

中山

そうお願いしたいと思います。

多田

ありがとうございます。あと、最後に付け加えることなどありますか。

中山

肺がん検診もこれからは変わってまいります。特にAIがこれからどんどんサポートをしてくることになると思いますので、X線の写真の機械を持っている方は、まずはデジタルに変えていただきたいと思います。アナログではAIのサポートはまったく受けられないので、投資ということをぜひお考えいただきたいと思います。

多田

どうもありがとうございました。