ドクターサロン

 医療現場でLADと言えば冠動脈のleft anterior descending artery「左前下行枝」のことですが、最近では日本でもLos Angeles Dodgersとして認知されてきています。元々はNew YorkのBrooklynを本拠地としていたDodgersですが、その名称はBrooklynの人たちがstreetcar/trolley「路面電車」をdodgeよける」必要からTrolley Dodgersと呼ばれたことに由来します(ボールを「よける」球技であるdodgeballと同じdodgeです)。そしてこのLADがWorld Seriesを「連覇」した際によく使われていたのが“The Los Angeles Dodgers won back-to-back World Series titles.”という表現です。このback to backとは「隙間なく背中を合わせた状態」というイメージの表現で、そこから「隙間なく」や「連続で」という意味で使われています。このようにスポーツの文脈では身体に関する英語表現が数多く使われているのですが、このback to backのように日本人にはわかりにくいものが数多くあります。
 日本語では投球機能を語る際に、「肩が強い」や「肩が弱い」のように「」を使って表現しますが、英語ではstrong armweak armのようにarmを使って表現します。ですから「球が走っていますね」なども“He’s got a live arm.”のように表現するのです。2025年のWorld Seriesでは山本由伸投手が素晴らしい投球を見せましたが、その投球の素晴らしさも“Yamamoto showed he’s got one of the best arms in the game.”のようにarmを使って表現されていました。
 “He’s got good hands.”と言えば、「ボールさばきが上手い」という意味になり、“He’s got soft hands.”と言えば、「ボールさばきが繊細である」という意味になります。バスケットボールでは“He’s got the hot hand tonight.”という表現がよく使われますが、これは「シュートがよく決まる絶好調の状態」を意味します。そして“He’s a safe pair of hands in goal.”と言えば、「ゴール前で信頼できる」という意味になります。このa safe pair of handsはサッカーのゴールキーパーに対してよく使われる表現ですが、“The project will be in a safe pair of hands with Dr. Smith.”「そのプロジェクトはスミス先生に任せておけば安心です」や、“In the operating room, you want a safe pair of hands at the table.”「手術室には信頼できる執刀医にいてほしいものです」のように、皆さんの日常会話でも使うことができます。
 俊敏な選手は“She’s got quick feet.”と表現され、身のこなしが軽い選手は“She’s got light feet.”と表現されます。逆に動きが鈍い選手は“He’s got slow feet.”のように表現されます。これと似たような表現としてflat-footedというものがあります。これはスポーツの場面では“The boxer looked flat-footed in the ring.”のように動きの鈍さを表現する際に使われるのですが、比喩的に「不意を突かれた」という意味で“We were caught flat-footed by the new regulation.”のようにも使われます。そして“She’s heavy on her feet.”と言えば「動きが鈍い」や「キレがない」という意味になりますが、“She’s got heavy legs.”と言えば「疲れて脚が重い」という意味になり、疲労のニュアンスが強くなります。さらに疲労が進んで「足がついてこない」状態になると、“His legs are gone.”のような表現が使われます。サッカーのロスタイムなどでは“You can tell his legs are gone. He’s struggling to get back on defense.”のような表現を耳にします。こうなってくるとベンチから元気な選手を投入する必要がありますが、そのような選手は“They brought on some fresh legs late in the game.”のようにfresh legsと呼ばれます。
 その昔、香辛料のnutmegナツメグ」の貿易では「偽物のナツメグを送る」という行為が横行していたことから、nutmegという表現には「だます」という意味があります。またCockneyのスラングとしてnutsは「」を意味します。これらの理由からサッカーの中継で“Messi nutmegged the defender.”と言えば、それは「メッシがディフェンダーの股を抜いた」という意味になるのです。このnutmegはサッカーの世界では相手選手をhumiliate「おちょくる」「バカにする」プレーとして広く認知されています。また“ankle breaker”は、バスケットボールで「ディフェンスをかわす際に相手の足首を砕くようなフェイント」を意味します。
 ダルビッシュ投手がRangersに所属していた際、「首を寝違えて登板を見送った」ということがありましたが、英語圏のメディアではこれを“Rangers ace Darvish scratched with neck stiffness.”のように報道していました。これは報道での表現ですが、日常会話で「変な寝方をして首を寝違えた」と言いたい場合には“I’ve got a crick in my neck from sleeping funny.”と表現しましょう。このcrickとは「一時的な筋肉のこわばり」であり、sleep funnyとは「変な寝方をする」という意味です。とても自然な表現ですので、例文ごと覚えておくと便利です。
 LADのDave Roberts監督は、メディアの前で選手を称える際に“I like the head, the compete.”という表現をよく使っていますが、皆さんはこの意味がわかるでしょうか? この場合のheadは「判断力」や「理性」を意味します。スポーツの場面では“Keep your head in the game.”という表現を耳にしますが、これは「試合に集中しろ!」という意味になるのです。同じような意味で“Keep your mind on the game.”という表現も使われますが、このmindは「意識」や「気持ち」という意味を持ちます。ですから“Get your mind right.”と言われたら、それは「気持ちを整えろ!=気持ちを切り替えろ!」を意味します。通常competeは「競う」という動詞として使われますが、スポーツの場面では「戦う姿勢」を意味する名詞としても使われます。ですからRoberts監督の“I like the head, the compete.”という表現は、「判断力戦う姿勢も素晴らしい!」という意味になるのです。
 このようにheadには様々な派生表現があります。“He’s young, but he’s got a good head on his shoulders.”と言った場合、このgot a good head on one's shouldersは「頭がちゃんと自分の肩の上に乗っている=冷静かつ理性的に考えられる」を意味するので、「彼は若いけどしっかりしているね」という意味になるのです。またサッカーやアイスホッケーなど、周囲の動きを360度把握する必要のあるスポーツでは、“Keep your head on a swivel.”という表現がよく使われます。直訳すると「頭を回転軸の上に置いておけ」という意味になるのですが、スポーツの場面では「常に首を振って周囲の状況を確認しろ」という意味になるのです。これ以外にも“head-to-head”は「直接対決」、“bang one's head against a wall”は「何度やってもうまくいかない状況に苛立つ」、“off the top of my head”は「思いつきで言う」など、headを使った慣用句は数多くあります。ちなみにサッカーの「ヘディング」は、英語ではheadingではなくheaderという表現になり、“Ronaldo jumped higher than the defense and powered the header into the corner.”のように使われます。
 スポーツの場面では「冷静でいる」ということは極めて重要です。「冷静でいろ」というのをheadを使って表現すると、“Keep your head.”や“Don’t lose your head.”のように表現できます。また「冷血」を意味するcold-bloodedには「冷静沈着」というイメージがあるため、「冷静沈着な点取り屋」は“He’s a cold-blooded finisher.”と表現されます。またプレッシャーに強い選手は、このcold-bloodedと同様に「血の中に氷が流れているように冷静である」というイメージから“He’s got ice in his veins.”のように表現されます。
 そしてこの冷静さは神経を意味するnerveを使っても表現され、「冷静さを保つ」ことはkeep one's nerveと、「冷静さを失う」ことはlose one's nerveと表現されます。また冷静でいるためには「神経が図太い」ことが必要ですが、これを英語ではnerves of steelと言います。同じような表現でhave a lot of nerveというものもありますが、これには「図々しい」や「厚かましい」というネガティブな意味があり、“You’ve got a lot of nerve showing your face here after what you did.”「よくもあんなことをしておいてここに顔を出せたね!」のように使われます。
 冷静な選手は「勝負強い」選手とも言えますが、そういった選手のことを英語ではclutchclutch playerと呼びます。このclutchとはマニュアル車の免許を持っている方にはおなじみの「クラッチ」なのですが、元々は「しっかりと握る」を意味する動詞でした。そこから転じて「重要な瞬間をしっかりと握ることのできる選手」という意味で使われるようになったのです。そしてこのclutchはスポーツの場面以外でも使われます。“She was clutch during that code blue.”や“She’s a clutch surgeon.”と言えば、「緊急時でも冷静な対応ができる」や「重圧の中でも動じない」という意味になります。医療現場でも使える便利な表現ですので、皆さんもぜひ使ってみてください。