池脇
咳受容体感受性の亢進とカプサイシン、クエン酸についてです。新型コロナの影響もあって長引く咳、慢性咳嗽が増えているように聞いています。呼吸器内科を受診する方の多くは咳で来ていますか。
斎藤
そうですね。はっきりと調べてはいないですが、呼吸器内科を受診する新患の半分ぐらいは咳をしている人ですね。咳というのは、短い期間で治ってしまう人もいれば、長く続く人もいて、新型コロナを含め多種多様な原因で咳が長引くため、外来を受診することになるかと思います。
池脇
長引く咳の診断の一助として、咳受容体感受性試験を行われていますが、気道に咳受容体が存在するのですね。
斎藤
そうですね。咳というのは、普通の生理現象で本当は正常に起こることであり、異物や分泌物を出します。ただ、それが異常に反応してしまうと病気になってしまいます。慢性咳嗽の場合でいうと、レントゲンで異常がある人などを除くと、その原因としては、基本的には喘息(咳喘息)や鼻の疾患(鼻副鼻腔炎、後鼻漏)、胃食道逆流症(GERD)、あとは咽頭の辺りのアレルギーであるアトピー咳嗽や喉頭アレルギー、感染後の咳が多いです。
このような病気を考えてみると、いろいろなところに咳の原因があるので、いろいろなところに咳の受容体があると考えていただければと思います。言い換えますと、咳受容体は喉や気道にも多いのですが、食道や耳にもあるのです。健康な人でも耳かきをすると咳が出るというのは、その咳受容体を刺激して、咳が出るということです。
池脇
気道や耳にも咳の受容体があって、それが求心性神経で延髄の咳中枢に信号が送られるということで、いろいろな受容体や求心性神経があるのですね。
斎藤
そうですね。基本的には、気道や食道などにある咳受容体に何か異常が起こると、そこの受容体から迷走神経の求心路を介して延髄の孤束核にある咳中枢に刺激が行って、コホッと咳が出るのです。
ただ、咳というのはおもしろくて、延髄の孤束核から反射的に出る咳と、大脳にさらにその刺激が伝わって、大脳皮質のところが興奮して咳が出るというメカニズムもあります。我々が人に「咳をしてください」と言って、自発的にコホッと出るのは、大脳からのメカニズムで咳が出ているということで、非常におもしろい回路になっています(図)。
池脇
延髄を介する咳は条件反射で自分ではコントロールできないということですか。
斎藤
そうですね。
池脇
そのために困っている、持続する咳ということですね。質問は咳受容体の感受性が亢進しているかどうかを調べる検査についてですが、カプサイシンを使うのですか。
斎藤
そうですね。カプサイシンというと、聞き慣れないかもしれないですが、唐辛子に含まれる辛味の成分ですので、それをすごく低濃度から高濃度まで段階的に、1分ごとに吸ってもらって、どれくらい咳が出るかを診る検査があります。
池脇
低濃度から段階的に上げて、一番最初のところがその人の咳に対しての感受性ということですね。
斎藤
方法は世界共通で決まっています。低濃度から吸わせて、2回咳をした濃度と5回咳をした濃度を比較して咳の反射が亢進しているかどうかをみようというのがこの検査の特徴です。
池脇
質問には、カプサイシンとクエン酸とあります。クエン酸はいわゆる梅干しの酸味ですが、これも咳を誘発しそうな印象です。一般的にはどちらを使われていますか。
斎藤
基本的に日本で咳受容体感受性試験を行う施設は非常に少ないのですが、ほとんどの施設はカプサイシンを用いていると思います。
池脇
咳受容体感受性試験で感受性が亢進している場合、咳喘息を考えるのですか。
斎藤
そうですね。先ほどお話ししましたように咳の主要原因としては咳喘息、鼻副鼻腔疾患、GERD(胃食道逆流症)、アトピー咳嗽、あとは感染後咳嗽です。咳喘息は、咳受容体感受性がある程度亢進しているのですが、とても亢進しているというわけではないのです。
一方で、鼻副鼻腔疾患とか胃食道逆流などはけっこう亢進していることから考えると、完全に疾患特異的ではないのですが、咳喘息かそうではないかは、ある程度このカプサイシン試験を行えば予測がつくというのが今の私の印象です。
池脇
咳受容体ですが、カプサイシンのTRPV1という受容体以外にも幾つかあるので、ひとつの受容体の感受性だけでは咳の感受性は推測できないような気がしますが、どうでしょうか。
斎藤
そうですね。主に迷走神経が知覚神経を司っているのですが、その末端にはいろいろな咳受容体があります。先生が言われたようにTRPV1、トリップV1といいますが、そういった受容体のほかにもP2X3受容体や、酸に感受性のあるような受容体もあります。想像しやすいのはいろいろなところに穴が開いていて、その穴にピタッとはまる剣を刺したときにポンッと黒ひげの人形が飛ぶゲームですね。そういう感じでシグナルが中枢のほうに伝わっていくのです(図)。
例えばTRPV1というのは、先ほどお話ししたカプサイシンに特異的な受容体になります。ほかには、P2X3受容体はATPに対する特異的な受容体で、クエン酸は特異的な受容体がなくて、非特異的にいろいろな受容体に作用することになります。このように、外的刺激や内因性の気道炎症による刺激でオーバーラップはしますが、どの咳受容体の反応が亢進するかということになります。ただし、咳という症状は同じですので、なかなか区別することは難しくて、患者さんによって薬の反応が様々なのは、そのせいかと考えます。
池脇
今の先生のお話で思ったのは、気道に複数の受容体が存在しないといけないのは、気道に入ってきた異物や病原体をきちんと排泄するという防御機構があるともいえるわけですね。
斎藤
はい。まったく先生のおっしゃるとおりで、人体にはそういった防御機構のためにいろいろな反応が出る受容体があります。おそらくクエン酸というのは、例えば異物が入ってきたときや胃酸の逆流などで酸が入ってきて、刺激があったときなどに、排除するためにすぐに反応してしまう。そういったものにより近い刺激を起こすような検査が、クエン酸を伴う咳受容体感受性検査と考えていただければと思います。
池脇
咳の患者さんに鎮咳剤を処方しますが、効果不十分なことがあります。鎮咳剤は中枢性、非中枢性とありますが、咳受容体に作用する薬があればいいなと思っていたら、最近日本で発売されたのですか。
斎藤
そうですね。今までおそらくリン酸コデインやデキストロメトルファン、エプラジノン、ジメモルファンなどは中枢の咳を抑える作用で、末梢の咳の受容体を抑える薬剤は今までまったくなかったのですが、2年くらい前から世界で初めての非特異的末梢性鎮咳薬であるP2X3受容体拮抗薬が処方可能になりました。
池脇
慢性的に咳で苦しんでいる方にとっては、この薬はありがたいですね。
斎藤
そうですね。慢性の咳を見ていると、どのような治療をしても今までまったく咳が止まらなかった人が少なからずいます。そのような患者さんにとっては咳が改善する可能性を考えると期待できる薬剤だと思います。
池脇
少し手強いくらいの咳でも使っていいのですか。
斎藤
咳はいろいろな病気が原因で出ています。例えばがんや結核でも出ますので、ひととおり咳の原因に対する検査、治療をして、それでも良くならないといった人に使うのがいいのかなと思います。
池脇
咳受容体感受性のお話から新しい鎮咳薬のお話まで、ありがとうございました。