ドクターサロン

池田

食道裂孔ヘルニアというのはどのようなものなのでしょうか。

矢野

食道裂孔という孔が横隔膜にありますが、それが加齢とともにだんだん広がり、主に胃が縦隔のほうに飛び出てしまう病気です。

池田

ということは、若い人はあまりいないのでしょうか。

矢野

はい。若い人はあまりいなくて、腰の曲がった高齢の女性が多いです。男性ですと、太られた、腹圧の高い方が多いイメージですが、男性で胃が半分以上飛び出すことはまれです。

池田

食道裂孔が経年的に広がってきて、そこで腹圧が高くなって上に押されてというイメージでしょうか。

矢野

腹圧が高くなって広がるのか、広がっていて腹圧で上がっていくのかわかりませんが、そういうイメージです。

池田

高齢の腰が曲がった女性、男性だったら太った人ということですが、症状はあるのでしょうか。

矢野

症状は胃が半分以上上に上がってしまった症例では、飲み込みにくい(嚥下困難)や、時に吐いてしまったり、胸が痛くなったり、食事をすると心臓を圧迫して苦しくなってしまうことがあります。また、肺も圧迫しますので、歩いていると苦しくなるという患者さんもいます。

池田

最初の、胃が圧迫されて食べにくいというのはわかりますが、ほかの、食道や胃の症状ではないものは、なかなか食道裂孔ヘルニアの診断に至らないと思います。どのような経緯で診断されるのでしょうか。何か症状があって内科医を受診するのでしょうか。

矢野

多いのが、歩いていて苦しくなって長く歩けない、食事をすると胸が苦しくなるなどの症状で内科を受診し、そこで心電図を撮っても心臓に異常はない、胸のレントゲンを撮ると胃泡といって、胃の中の空気が縦隔内にあって、食道裂孔ヘルニアと診断される方もいます(図1)。

池田

消化器系以外の症状は、名づけられているのでしょうか。

矢野

食道外症状と言っていますが、食道内のものが逆流して喘息のような咳を起こしたり、誤嚥したりすることがあります。例えば慢性的に誤嚥を繰り返していて、採血をすると、軽い炎症反応の上昇がみられる方もいます。

池田

なかなか自覚症状からは想像ができない感じですが、診断はどのようにされるのですか。

矢野

診断はだいたいCTで行っています。

池田

CTによって横隔膜を超えて上がっているのがわかるとのことですが、重症度や病形などはあるのでしょうか。

矢野

食道裂孔ヘルニアは大きく分けて4つのタイプがあります(図2)。TypeⅠは滑脱型といって、上にだけ出るタイプ。TypeⅡは傍食道型といって、食道胃接合部の位置は通常の位置にありますが、その横から出てしまうタイプ。TypeⅢは混合型で、上と横に出てしまうタイプ。TypeⅣは、胃以外の臓器、一番多いのは横行結腸ですが、横行結腸や大網、ひどくなると脾臓、すい臓が出てしまうものもあります。

池田

ほとんど、裂孔というか、完全に横隔膜を押しのけて上がってしまうというイメージですね。そうなると、通過障害が起こって食べ物は下に行かなくなるのですか。

矢野

行きにくい状態です。胃が逆立ちしてしまうような、Upside-down stomach(図3)という名前がついていますが、そういう症例はやはり流れにくいので、通過障害が出ます。

池田

アップサイドダウンとなると、変な捻転をしていますよね。そうすると、胃などの臓器は虚血状態になるのでしょうか。

矢野

数年前に、食後に胃がパンパンに張り、嵌頓(かんとん)して虚血になった方がいらっしゃいました。その方は夜中に緊急手術をしたのですが、胃に穴が開いていて、虚血によって胃穿孔を起こし縦隔炎になっていました。

池田

ではもう緊急手術ですね。4つの病形で、単純に最初は少し上がるようなかたちであるけれども、先生もご経験されていないと思いますが、病形をずっと追っていくと、Ⅰ型からⅣ型に移っていくのでしょうか。

矢野

実際には経験していないのですが、Ⅰ型の小さなヘルニアがだんだん大きくなって胃が上に上がっていきⅢ型の胃が大きく出てしまうようなタイプに移行したと記載のある論文を見たことがあります。しかし、そのような症例はまれだと思います。

池田

質問にもありますが、外科的治療の適応はどのようなものですか。

矢野

胃が半分以上出てしまうと、やはり嵌頓するリスクがあります。私も経験がありますが、食事をした後に心臓を圧迫して心停止になってしまった患者さんもおり、そういうリスクを考えると、私はすべて手術適応になると思います。

ただし、患者さんには、たまに症状がない方もいます。そういう方は「何で症状がないのに手術が必要なのでしょうか」という質問をしてくる方もいらっしゃいます。

池田

でも突然、嵌頓してしまうことを考えると、やっておいたほうがいいという説明をされるのですか。

矢野

それもあります。あと、「食後に胸が苦しくなりませんか」とか、「最近、歩いていて呼吸が苦しくなりませんか」などとよく話を聞きますと、「そういえばありますね」とおっしゃることもあります。気づいていないけれども、そういう症状がある患者さんもいます。

池田

そういう方は、やはり手術したほうがいいという話になるのですが、具体的な手術手技はどのようにされるのでしょうか。

矢野

まず、縦隔内に上がっている胃をおなかの中に戻すのですが、やはり胃は、かなり縦隔内に癒着しています。それをすべて剝がして胃を腹腔内に戻します。そして縦隔内にヘルニア囊という胃を包んでいる袋がありますので、その袋を剝がし除去します。その後大きく開いている食道裂孔を縫い縮めます。それから胃の穹窿部を食道に巻きつけて、逆流を予防するための噴門形成術を行います。さらに、胃がもう上に出ないように胃壁と腹壁を固定します。

池田

胃を腹壁と固定してしまうので、また上に行くことはなくなるのですね。

矢野

そうです。でも100%なくなるということはありません。たまに大きな咳で腹圧を急にかけてしまうと、その反発で再発してしまうことがありました。でも、胃腹壁固定を始めてから再発する患者さんは減ってきました。

池田

固定する前はけっこう再発したのですか。

矢野

はい。食道裂孔を縫縮した後に、そこを補強するためにメッシュを置いたり、いろいろやってきました。メッシュを置いて補強し、それでも再発したので、さらに胃腹壁固定を加えたら再発が減ってきたので、今はメッシュをやめて、胃腹壁固定だけにしている状態です。

池田

そういった仕組みをずっと行われてきて、今、胃腹壁固定に落ち着いたということですね。

矢野

そうです。

池田

胃を固定すると、胃の蠕動運動などに障害はないのでしょうか。

矢野

障害はないのですが、手術をして3カ月ぐらいの間は、食べ物を食べると胃に蠕動運動が起きますので、それによって引きつれておなかの痛みを訴える患者さんが多いです。

池田

訴える患者さんには、「何カ月かすると良くなるから」と伝えるのですか。

矢野

3カ月くらいで感じなくなってきますので、手術前に術後3カ月間は落ち着かないですよと伝えてから手術をします。

池田

胃を腹壁に固定するというのはどのようなイメージですか。

矢野

胃の前壁、小弯側に3針かけています。大弯のほうが蠕動が大きく、引きつられる感じも強くなると考えて、蠕動の少ない小弯側にかけています。実際には、腹腔鏡で胃壁にZ縫合をかけ、体表から糸を把持できる棒を直接刺して、その糸を体腔外に誘導します。体表で糸を結ぶと腹壁に固定されるので、最後に結び目を皮下に埋没させます。

池田

前側ですね。

矢野

前側です。

池田

そこで3針かけるのですね。

矢野

もっとがっしりかけている施設もありますが、うちの施設ではそうしています。

池田

がっしりするのとしないのというのは、何か差があるのでしょうか。

矢野

うちの施設では3針でヘルニアの再発が少ないので、そこまでやらなくていいかと思います。がっしりやってしまうと、たぶん蠕動でもっと痛みが出てくると思います。

池田

そういった危険もあるのですね。でも、メッシュはもういらなくなったということで、その分だけまた手術時間も短くなるのですね。

矢野

そうです。あと一番大事なのは体内に異物を入れないということです。

池田

異物反応がないのですね。入院、手術のスケジュールはどのようになっているのでしょうか。

矢野

手術の前日に入院していただいて、翌日手術、手術後7日目に退院です。

池田

手術自体は内視鏡ですか。

矢野

腹腔鏡でやります。

池田

それは患者さんにとって侵襲は少ないということですね。

矢野

そうです。

池田

その辺がたぶん患者さんの、手術を受けるかどうかの選択基準の一つでもありますね。

矢野

あとは開腹だと、縦隔なので直視できません。カメラでないと入っていけないのです。

池田

カメラで見ながら、その癒着を取ったり、けっこうたいへんな作業ですね。

矢野

はい。慣れないうちは5~6時間くらいかかっていましたが、最近は4時間を切るぐらいになりました。

池田

内視鏡の技術が上がってずいぶん短縮されたということですか。

矢野

そうですね。拡大視されますので、非常に見えやすいです。

池田

胃の固定術もすべて内視鏡でやるのですね。

矢野

はい。

池田

それを聞くと、やはり患者さんたちも安心ですし、開業医師も専門医に診ていただくというのも、非常に来やすいと思ってうかがいました。ありがとうございました。