池田
アルポート症候群という疾患について質問が来ていますが、どのような疾患なのでしょうか。
新田
アルポート症候群とは、もともとは1902年に『The Lancet』に発表されたもので、アルポートさんが見つけたからではなく、アルポートさんがある程度の体系立てをしたのでアルポート症候群という名前が付いています。進行性の遺伝性腎炎に難聴を伴う症候群がこの疾患の特徴です。大部分はⅣ型コラーゲンの遺伝子変異によるもので、Ⅳ型コラーゲン遺伝子変異が証明されれば家族歴や難聴が診断の必須ではありません。
昔はよく難聴がないとアルポート症候群とはいわないのではないかなど、いろいろな議論がありました。しかし今は遺伝子解析が進化してきて、Ⅳ型コラーゲン遺伝子変異が原因で何タイプかあるものの約80%がX連鎖型で、約15%が常染色体劣性型、常染色体優性型が約5%という感じです。
池田
X-linkedですと、例えばお父さん側から来て、そして男児へということだと思うのですが、最初に変異が入った場合、家族歴はないのですね。そのときはどのような症状で疑うことになるのでしょうか。
新田
そこが昔から議論があるところです。男児に血尿を認める場合、アルポート症候群を疑う一つのきっかけになることが多いです。特に、家系の中に血尿がある場合に遺伝性の血尿を伴う疾患ではないかと疑うことになるのですが、アルポート症候群かどうかというのは、その時点ではわからないのです。遺伝子変異を証明しなければ、今はアルポート症候群という診断がつけられないので、これが厄介です。
外部委託でお願いするか、よく我々は神戸大学の腎臓グループの医師にお願いして遺伝子解析していただいていますが、やはり幼児の頃は血尿以外に何も症状がないということが多く、7~10歳ぐらいになって初めて両側性の感音難聴が出てきて、これはアルポート症候群だなと、その時点でわかるのです。
昔は良性の家族性血尿といういい方をしていたグループがありました。良性と付いていますから、血尿がずっと続くけれども、腎臓は悪くならない、腎不全にならないという一つのグループがあって、これは糸球体の基底膜が薄い、thin membrane disease(菲薄基底膜病)という病気もアルポート症候群と混同されていた時期がありました。ただ、これは進行しないものなので、ある意味では経過を診ているだけでいいのですが、アルポート症候群は進行します。
池田
最初は単純に血尿ということでわかるのですね。
新田
そうです。
池田
いわゆる肉眼的血尿でしょうか。それとも顕微鏡的血尿なのでしょうか。
新田
顕微鏡的血尿がほとんどです。
池田
健診で見つかるようなパターンですね。
新田
はい。学校健診で見つかったりすると思うのですが、だんだん年長児になってきて難聴が出てきたり、あるいは蛋白尿を伴うようになったりします。IgA腎症というポピュラーな腎疾患も同じように血尿とタンパクが絡むので、IgA腎症を疑っていたのにアルポート症候群だったということもあります。
池田
お子さんが小さい場合は血尿しか症状がないので、多くは経過観察になるのでしょうか。
新田
経過観察されていることも多いです。
池田
難聴が7~10歳ぐらいで発症するとおっしゃっていましたが、蛋白尿はいつ頃から出るようになるのですか。
新田
少し経ってからなので、年長児になってです。症状が血尿単独の小さい男児は腎機能も正常なので様子を見ていることが多いです。
池田
腎機能が正常で、血尿だけだったら幼い子どもだし、経過観察ということですね。
新田
そうなってしまいますね。ところが、家族歴をしっかりと調べるようになってからは家系の中に慢性的な血尿を起こしている方がいたり、中には腎不全になっている方が出てきたりすると、これは良性の家族性血尿ではなくてアルポート症候群が混じっているかもしれないと思うのです。
そうなると、確定診断は皮膚科の医師が皮膚の生検で、Ⅳ型コラーゲン異常を見つけられますが、実際は小児の腎専門医に腎生検で電子顕微鏡で見ていただき、基底膜に特徴的な所見があるかどうかを調べます。
今はモノクローナル抗体ができて、Ⅳ型コラーゲンのα鎖に対するモノクローナル抗体があるので、それを染色して、何か変だとなったら電子顕微鏡と蛍光抗体法の両方でサンドイッチし、これはアルポート症候群だろうと、ほとんど診断ができるようになってきています。
池田
診断の順番ですが、いわゆるⅣ型コラーゲンのα鎖の異常を組織学的に診るのが先なのでしょうか。それとも、一気に遺伝子診断をしてしまうことが多いのでしょうか。
新田
遺伝子診断ができる施設が限られていて、我々の大学にも遺伝子解析グループがあるので、そこにお願いしたり、そこが忙しい場合は神戸大学の遺伝子解析グループに依頼して検体を送っていますが、そう簡単にできる解析ではないので、我々としては腎生検をして、所見を見つけたらほぼアルポート症候群だろうという診断をします。最近は皮膚科もⅣ型コラーゲンのモノクローナル抗体で染めてわかることもありますから、チャンスがあれば皮膚科の医師に生検をしていただく。それで確定してしまえば、無理をして腎臓に針を刺すのはやめようというケースも出てきています。
池田
なかなか診断も難しいということになるのですが、診断がついたとして今度は治療ということになりますね。治療は今どのようにされているのでしょうか。
新田
昔からレニン-アンジオテンシン系の阻害薬ですね。ACE-IやARBという薬を使って蛋白尿が出てきた患者さんの腎保護がうまくいったという報告が増えたり、あるいは少数例ですが、アルドステロン拮抗薬がいいという症例など、そういう2種類の薬を使った報告が増えてきました。
しかし、これぞという治療法がなく、結局のところは透析をするか移植をするかという方向に追い込まれてしまいます。本当ならば、遺伝性の腎炎なので遺伝子をうまく操作できればいいのですが、それがまだうまくいっていないです。
池田
質問にもありますが、腎機能の障害が進んで移植や透析が必要になる年齢というのは何歳ぐらいなのでしょうか。
新田
一般的に、女性の場合はあまり進みません。女性を診て診断が付いても、経過を診ていくと、腎不全になるケースは少なくて、やはり男性が多いです。男性は先ほど申し上げた遺伝子解析で3つのパターンがあります。truncatingと、splice siteに異常がある、あるいはミスセンスという3パターンがこの遺伝子の異常にあるのですが、それぞれ重症になっていくのは、例えばtruncatingの場合は25歳ぐらいから重症化しやすく、splice siteの場合は28歳ぐらいからです。ミスセンスでは37歳ぐらいで、末期腎不全になって透析か移植になっていくというように、この3つのパターンで重症度をある程度予測しています。
池田
それは変異によって遺伝子産物の性質が変わってくるということなのですね。
新田
変わってくるのでしょうね。前は伴性劣性と言っていましたが、今はこのX連鎖型と言うようになり、それが一般的で、パターンが多いものの15%ぐらいは常染色体劣性のタイプもあって、これが一番重症化しやすいのです。男女とも20歳前に腎不全になって、透析か移植を行わざるを得ないことがあるので、遺伝子の型を特定するのが非常に大事です。
池田
ある程度の遺伝子系と予後が相関しているということなのですね。
新田
はい、そのとおりです。
池田
今後のことになるかと思いますが、将来的には遺伝子治療を含めて予想されていることはあるのでしょうか。
新田
今、苦しいところで、小児科で腎臓を専門としている方々がかなり頑張っていますが、ガイドラインを作るときに、期待が持てる治療は現在のところないという表現をされており、辛いところですね。
我々としては、お子さんがだんだん大人になり腎不全になって、我々が透析で診るケースもパラパラとあり、なぜこんな若い方が透析しているのかと思うと、ほとんどがアルポート症候群だったりします。でも、親御さんは、透析を週に3回、4時間ずつするのはきついから、何とか移植したいと来られる方もいる。
もちろん家系の中に病気を持っている方がいたらまた発症するので、ドナーの選別を厳しくしないといけない。発症はしていなくても、特に女性、母親の場合は発症しないので、遺伝子異常を持っていても40歳までに発症していないケースもあります。もちろんその母親は腎生検をするしかなく、あとは遺伝子解析をしてまったくアルポート症候群ではないと判明しなければ、移植してもまたその腎臓は発症してしまうという問題があります。ドナーに関しては本当に気をつけて移植をしないと、せっかく一つの腎臓をもらったお子さんが長い間、普通の生活ができるものが、また腎不全になってしまうというケースが前にはありました。遺伝子解析ができない時代は、親御さんから「発症していないから」というので、移植したら進行しだしたというケースもあって、非常に悲しい思いをしました。
池田
今後は遺伝子診断ができる施設を増やしていくのですか。
新田
はい。増やさないといけませんね。
池田
それから家族も一緒に調べて、少なくとも家族間の生体腎移植を安心して受けられるような状態にすることですね。
新田
そうですね。スクリーニングができれば、簡単に移植も進むと思います。
池田
どうもありがとうございました。