ドクターサロン

池脇

2019年に「耳鳴診療ガイドライン」が出て、耳鼻科医はどう診療したらいいのでしょうかという質問です。

私も内科医として高齢者を診ていると、たまに耳鳴りの訴えがありますが、年のせいでごまかしてしまって申し訳ないと反省しています。内科医にとっても、先生のお話はたいへん有意義なものになると思います。耳鼻科を受診する患者さんの頻度の高い訴えが2つあって、一つが難聴、もう一つが耳鳴りですね。

神﨑

難聴の患者さんの半分あるいはそれ以上の方で耳鳴りがあるといわれており、耳鳴りをメインに訴える患者さんも、最初に聴力検査を行います。もちろん難聴を主訴とした方も聴力検査を行いますが、難聴にはあまり気づいていなくて、耳鳴りを強くおっしゃる方もいるので、やはり陰に難聴がないかを確認する必要があると思っています。

池脇

難聴と耳鳴りは、密接に関係しているのでしょうか。

神﨑

はい。難聴の多くは、中耳炎や内耳の疾患などいろいろありますが、その原因として一番多いのは内耳という聞こえのセンサーで、音のエネルギーを電気に変えて脳に送っている臓器の障害です。

内耳の障害が起こると、そちらよりも中枢側、脳に近い側の神経の興奮が起こります。おそらくこれは神経を衰えさせないために、脳に近い中枢側の神経が興奮しているという防御反応、代償だと思っていますが、いずれにしても、人体としては良かれと思って起こっている反応です。

ただ、それをどこまで気にするかだと思います。不安が出たり、うつっぽくなるようなところまで気にしすぎてしまうと、やはり重症になってしまいます。いかに気にしないようにしていただくかを患者さんに説明することがポイントのひとつになるかと思います。

池脇

確かに、成人の10~20%の方は耳鳴りを感じることがあるということです。多くの方は「年齢のせいかな」で片付けてしまいがちでしたが、5分の1ぐらいの方が病院を受診しているという意味では、耳鳴りは加齢現象だけではないということが普及してきたのでしょうか。

神﨑

そうですね。以前よりは耳鳴りに対する概念というか考え方が、医師もそうですが、患者さん側も少し変わってきていると考えています。

池脇

従来の耳鳴りに対する治療ではなかなか治らない印象があります。いかに耳鳴りに対する苦痛を和らげるか、これが治療の主体と考えていいのでしょうか。

神﨑

はい。脳の代償というか、内耳の障害が起きて、それに対する反応ですので、これをすべて止めるというのは医学的に難しい状況だと思っています。いかに気にしないようにしていただくかを主眼に対応することかと思います。

池脇

質問では、スタンダードな診療についてお聞きしたいとのことですが、先生方はどう診療を進めているのでしょうか。

神﨑

まずは診察ですが、検査も含めてお話ししますと、耳の中を確認します。耳鳴りといっても、音によっては、耳がこもっているかのような状態の場合もあります。ボーッという音がするような場合は、実は耳垢が原因だったりして、耳垢を取れば良くなることもあります。まず耳の中を見て、そのうえで聴力検査を行います。

同時に、耳鳴りをどの程度気にされているか、あるいは、日常生活にどの程度影響を与えているかという質問票があります。Tinnitus handicap inventory、略してTHIと我々は呼んでいますが、簡単に申し上げると、耳鳴りの苦痛度を調べる25問から成る質問に回答していただきます。100点満点でそれに応じて、高ければ高いほど重症度が高いということになり、重症度が高い方はやはり難治ですが、軽症の方であれば説明だけで済みます。

また、聴力検査を行い、片側の難聴、例えば突発性難聴があるような場合には突発性難聴の治療を行います。メニエール病であれば、耳鳴り、難聴、めまいが合併し、それを繰り返すような難聴もあり、そういった原疾患に対する治療を最初に行うことが肝心です。

ただそのうえで、耳鳴りだけ残ってしまった場合、対応としては、耳鳴りに対する教育的カウンセリングと呼んでいますが、耳鳴りの機序、なぜ起こるのかという理解をしていただきます。先ほど申し上げた難聴があって、内耳性の障害がほとんどですが、それによって聴神経が興奮するのだということを平易な言葉で患者さんに説明します。また基本的には難聴があって耳鳴りが強い方は、もともと聞こえないことが原因になっていますので、補聴器をつけて音が入るようにすると、それで脳が騙されるような感じで、情報が元どおりに入ってくるようになれば、耳鳴りも落ち着いて音が小さくなってくる、あるいは、気にならなくなることは十分あり得ます。

池脇

確かに、難聴を合併している場合には、今は補聴器という方法があるので、音の信号が脳に活発に入るようになれば、脳は耳鳴りをあまり感じなくなりますね。

教育的カウンセリングですが、患者さんは、不安が強くて、病態を説明するだけで安心して耳鳴りも和らぐのですか。

神﨑

はい。耳鳴りに対する漠然とした不安というか、情報がなくてこれが一生続くのではないか、あるいは脳の中に爆弾を抱えているのではないかというように、患者さんが勝手に悪いものを作り出してしまっているところがありますので、その誤解を取ってあげることがカウンセリングのもうひとつのポイントになるかと思います。

池脇

もうひとつの治療の柱として、音響療法がありますね。専門用語でTRTと呼ばれていますが、これはどういう治療でしょうか。

神﨑

補聴器も含めて耳鳴りの患者さんに音を聞かせ続けることでTRTと呼んでいますが、基本的に患者さんは耳鳴りが心配、不安なので、耳鳴りの音にばかり注意が向いています。その注意を外すために「気にしないでいいですよ」と伝えるのですが、「気にしないで」と言うとよけい気になるというのが患者さんの気持ちなので、「気にしないで」「耳鳴りの音を聞かないで」と言う代わりに、「耳鳴りとは違う音を聞いてくださいね」と言うのです。そういう伝え方をすると、ほとんどの患者さんは一つの音しか聞こえず、いろいろな音を聞き分けることができないので、結果的に耳鳴りの音をあまり聞かなくなる。そういう癖をつけていただくために、耳鳴りよりも少し小さめの、8割ぐらいのボリュームにして、なるべく長い時間、そして必ず耳鳴り以外の音を聞いてくださいと伝えています。

なるべく、言葉ではなくて、音楽とか川のせせらぎ、波の音とか、リラックスできるような音を聞いてくださいねと伝えています。そういったことで耳鳴りを気にしなくて済むことになります。

池脇

耳鳴りよりも少し小さめの音を聞いてもらうというのは、デバイスを耳に入れて聞かせるのかと思ったのですが、いろいろな音をということなのですね。

神﨑

はい。デバイスもありまして、サウンドジェネレーターという装置で、その名のとおり音を出す機械という意味ですが、補聴器メーカーが出している耳鳴り治療器を患者さんにお勧めすることもあります。

あるいは、先ほどお話ししたようにご自身でCDを買って、あるいは携帯端末から音楽を流して聞いていただくことで、徐々に耳鳴りが緩和するという方法もあります。

池脇

脳にいろいろな音の信号を入れることが最終的に耳鳴りを軽減することになり、どういう音でも本人が苦痛でなければいいのですね。

神﨑

はい。なるべく長い時間聞くことができる音を選んで対応していただいています。

池脇

最後に、新しい治療法がありましたら、お願いします。

神﨑

まだ保険償還されていませんが、認知行動療法ですね。これを海外では携帯端末でアプリ化して行っていて効果が出ています。もう一つは、脳に経頭蓋的に電磁波、電気刺激などを与えるものや耳介、耳たぶ、あるいは舌に電気を流し、同時にTRTを行うことで、脳に可塑性をもたらすと耳鳴りが早く治るということも海外では報告されています。日本に入ってくれば、新たな治療法が増えていくことになります。

池脇

耳鼻科医に有益なお話でしたけれども、内科医にとっても、診療が必要な患者さんは耳鼻科に紹介することが大事ということですね。

神﨑

はい。聴力検査が必要になりますので、ぜひ耳鼻咽喉科にご紹介いただければと思います。

池脇

ありがとうございました。