ドクターサロン

池脇

5歳児健診の質問をいただきました。1歳半と3歳児健診は、母子保健法で義務化されている健診ですが、5歳児健診は任意の健診です。どのような健診でしょうか。

田中

2023年12月末ぐらいに発信されたと思うのですが、5歳児は、1歳半や3歳児と比べて、より社会性の発達が進んでくる時期であり、6歳になると就学で、学業をするための準備の時期となります。そういった面が育ってきているかどうかを主に診ていく健診といわれています。

池脇

身体的な異常を見つける健診と違って、精神や言語の発達、あるいはグループの中での振る舞いをみるのがメインで、発達障害のお子さんを早期に発見するのが目的の一つでしょうか。

田中

おっしゃるとおりで、発達障害には、大きく、自閉スペクトラム症や、発達全体がゆっくりな知的発達症、あとはADHDといわれている注意欠如・多動症、学校に入らないとわからないですが、学習症といわれる神経発達症という疾患があります。そういったものが学校に入って見つからないままでいると、不適応状態や不登校、自殺との関連が出てくる可能性もあったりするので、それを予防するために、早めに気づいて環境を整えていくということが大きな目的だと思っています。

池脇

確かに、5歳というのがちょうどいいタイミングですね。就学の直前ではなくある一定の時間的な猶予があり、それを早期に発見して就学までに何とかしようという意味では、5歳はいい時期ですね。幼すぎると観察できないし、5歳ぐらいでそういうことがわかるのですね。

田中

そうですね。心の理論といって、ほかの人がどう考えているのかや、ほかの人の気持ちや考えをくみながら自分を調節するようになってくるので、3歳だと早すぎますが、5歳だと、男の子も女の子も整ってくるはずの年齢なので、そこで診て、就学の準備をする感じですね。

池脇

質問の中では、実施するのはたいへんという現場の声をいただいていますが、まず5歳児健診のやり方を解説いただきます。基本的に一人ひとりのお子さんに対してというよりも、ある程度集団で行う健診ですか。

田中

一応集団での健診が推奨されていますが、ただ集団でできる体制が自治体にあるのかについて少し見ていかないといけません。

いろいろな方法があるといわれています。例えば推奨されている集団の方法や、園に専門医が巡回するという方法、あとは園医方式ですね。園医さんが必ずいらっしゃると思いますので、園医さんが診る。あとは抽出方法といって、これは親御さんの同意がなければできないのですが、園を通じてスクリーニング表のようなものをご家庭に渡してチェックしてもらって、そこからリスクのありそうな方を抽出し、健診する方法です。そして最後に、1歳半で行っているような個別健診です。各自治体に合った方法、一番実施できそうな方法を選んでいく必要性があります。

池脇

自治体のマンパワーによっては実施困難なやり方がある場合でも、先生がおっしゃられたいろいろな方法があるということですね。例えば幼稚園や保育園に行っているのでしたら、その様子を見るのは発達障害のお子さんをピックアップするには良いシチュエーションですよね。

田中

そうですね。園での集団行動への適応は、神経発達症を診ていくうえでかなり重要な情報になってきます。あと保育士さんや幼稚園の先生方は、お子さんたちの発達をすごくよく見ていますので、連携が取れると、いろいろな情報が得られます。ただ、親御さんの同意が得られない場合にどうするかという課題はありますが、私は非常に有効な方法かと思っています。

池脇

質問とも少し関連しますが、参加医師はどのような場面でかかわるのでしょうか。

田中

東京方式というのがありまして、医師の診察は5分くらいといわれています。先ほどお話ししましたスクリーニングがかけられている方もいれば、事前に保健師さんが長い時間をかけて発達や行動、情緒などを聞き取ったり、生活習慣も含めて親御さんの育てにくさを聞いたりしているので、そういった情報をもって、医師の診察をなるべく短くするように、連携して取り組んでいます。

池脇

医師は小児科医が一番適任でしょうが、小児科医だけですべてを行うことは難しいとなると、一般の内科医を含めて総力でということになるのでしょうか。

田中

そうですね。地域によっては小児科医がすごく少ない、または不在という地域があるとも聞いています。そうすると、小児科医ではないが地域に根差した医師は普段のお子さんたちも診ていらっしゃると思いますので、その先生方を中心に、保健師さんやいろいろな人と連携を取って対応していくことがいいのではないかと思います。

池脇

冒頭で、発達障害のお子さんを拾い上げて何とかするというのが大きな目的の一つだとおっしゃいましたけれども、最近は、テレビやスマホに夢中になって、生活のリズムが乱れたり、親同士のもめごとを目の前で見てしまって、それが心の傷になったりというようなことも健診の中ではみていくのですか。

田中

すごく大事なポイントで、生活習慣病のチェック表というものも推奨されています。「何時に起きますか」「きちんと朝ごはんをとりますか」「外遊びをさせていますか」「夕食はだいたい何時にとりますか」などの生活リズムに加えて、メディアとの接触時間も聞くようにしているので、これを聞き取ったら、保健師さんが気になった方には指導というか、親御さんに聞きながら「少し制限してみたらいかがでしょうか」と提案したり、栄養士さんにも参加していただいたりすることもあります。

池脇

そういう意味では多職種でフォローアップも含めて実践していく必要がありますが、その体制づくりがたいへんですね。

田中

健診後の専門相談をどこが担っていくかということも5歳児健診のリスク因子といわれていますが、専門医の数はとにかく少なく、今すぐ診断が必要ではなくても、疑いということであれば、教育センターでの相談対応も必要です。

あとは、5歳児健診は心理職、心理士も一緒に参加するといいといわれているのですが、心理士さんによる子育て相談でよかったりですとか、各自治体には必ず療育ができる機関があるはずなので、療育機関でまず作業療法士さんや理学療法士さんにかかわってもらいながら、そこに専門医がいる場合もありますので、そこにつなげていくことが大事だと思います。

全部ではありませんが、その一部に何らかの薬が必要なケースの可能性がありますので、専門医へつなげていくことが可能なような、レベルに沿った、段階に沿ったフォローの仕方があると思います。

池脇

確かに発達障害のお子さんが学校に入ってから症状が顕在化すると、家族も含めてたいへんで、不登校にもなるし、それを事前に拾い上げて予防するわけですが、実際、不登校も減ったというデータがあると聞きました。

田中

そうですね。5歳児健診を実施すると、その後の子どもたちの適応が良くなるということもあります。私が外来で実施している子どもたちは、神経発達症がもっと早くわかって理解と支援が得られていたら、ここまで傷つかずに、もっと自分に自信を持って過ごすことができたのではないかと感じています。神経発達症があるがゆえの二次障害となるうつや不登校の方たちを診療していると、やはり5歳児健診の意義はとてもあると思っています。

池脇

質問では、大都市ではなかなか難しいとおっしゃっています。先生は文京区で5歳児健診の立ち上げにかかわっておられますが、どうでしょうか。

田中

ちょうど文京区の保健センターの方々とやりとりを始めていて、1年後のスタートを目指しているということでした。とても熱意のある保健師さんがいらっしゃるので、まずその方々とスクリーニング表の活用をどうするのかを検討しました。先ほど先生が言われたように、発達のこと、SDQというものを使うのですが、それだけでなくて、生活習慣病や家族の関係性等も考慮していくことから始めております。

池脇

2022年は14%の実施率ということです。国あるいは自治体で補助を本格的にやり始めていますし、これから上がっていくことは期待されるのでしょうか。

田中

そうですね。日本小児科学会を挙げて5歳児健診をやるぞと言っていますし、小児科医会の医師も、一緒にやっていくかたちになっています。きっと上がるはずですし、その必要性はあると思います。

池脇

小児科以外の医師も、できれば参加していただきたいですね。

田中

そうですね。一緒に学びながらやっていけるといいと思っています。

池脇

どうもありがとうございました。