大西
医学教育というテーマでうかがいます。先生は医学教育にも長年深くかかわっていらっしゃいました。卒前教育について、改革がなされてきたと思うので、その辺りからお話しいただけますか。
福井
非常に大きな卒前教育の改革として、医学生が卒業時までに身につけておくべき必須の実践的診療能力、知識・技能・態度に関する学習目標などを示した医学教育モデル・コア・カリキュラムが、文部科学省の「医学・歯学教育のあり方に関する調査研究協力者会議」によって2001年に作成されたことが挙げられると思います。その後、改訂が繰り返され、2022年には4回目となる改訂が行われ、結果として、国際的な水準での診療参加型臨床実習が強く推進される状況となっています。
そして、診療参加型臨床実習を進めるうえでどうしても必要なこととして、臨床実習に入る前、4年次後半に必要な医学知識、技術、態度を医学生が身につけているかどうかを評価する仕組みが導入されました。この評価は、客観性を担保するため外部の組織によって行われることとなり、2005年に社団法人として設置され2014年に公益認定を受けた、医療系大学間共用試験実施評価機構(Common Achievement Tests Organization)が行っています。この機構はすべての医学部と歯学部が参加して作った組織で、各大学で作った試験問題のうち、良い問題を集めてプールしておき、そこから問題のセットを作って各大学に提供する。つまり良い試験問題をともに利用するという趣旨から共用試験と呼ばれています。共用試験には、知識の習得度を評価するCBT(Computer Based Testing)と、患者さんに接する態度や診察の仕方、基本的な技能の習得度を評価するOSCE(Objective Struc tured Clinical Examination)があります。
次に大きな改革として、医師法が2022年に改正され、医学生による医療行為が法律上正式に認められ、2023年度から実施されていることを挙げなくてはなりません。つまり、医師法17条の「医師でなければ、医業をなしてはならない」という文章に例外規定が設けられ、共用試験に合格した医学生は、一定の条件の下、医療行為を行うことが法的に認められるようになりました。
一定の条件とは、指導医の監督の下で行うこと、患者またはその代理人の同意を得ること、共用試験(CBTやOSCE)に合格していること、医師の医療行為と同程度の安全性を確保すること。ただし、処方箋の交付はできない、などが明示されています。実は、私自身が深くかかわった1991年の「前川レポート」でも、ほとんど同様のことを提言していましたが、法律の改正にまで踏み込めず、実際の臨床教育の場面では、残念なことに、多数の医学生が医療行為を行うところまでは至りませんでした。今回の法律改正後は、医学生が医療行為をかなり行うようになったとの調査結果が出てきているようです。
大西
その辺りは今後もさらに拡大していく方向になるのでしょうか。
福井
そうですね。私が以前いた病院でも、医師法の改正を伴ったことで、採血をはじめとしていろいろな診療行為を医学生が行うようになりました。
大西
研修医がやっていたようなことができるようになったのですね。
福井
そうなのです。したがって、医学部を卒業して研修医になった時点で、以前とは随分違って、多くの医療行為ができるようになっていれば、卒後臨床研修プログラム自体を変える必要が出てくるかもしれません。
大西
私が学生の頃は、卒業してもまだ採血すらやったことがなくて、研修の初日に四苦八苦しながら採血をした記憶がありますが、その辺がだいぶ様変わりしてきたということですね。
福井
随分変わってくると思います。
大西
それは素晴らしいですね。一方で、その質を担保するためにいろいろな評価をする制度も整備されてきているのでしょうか。
福井
そうですね。様々なステージでの外部評価が行われるようになりました。卒前教育の大きな変化の一つとして、2010年に米国の外国人医師卒業教育委員会が、ECFMGと呼んでいますけれども、2023年以降、国際基準に則った認定を受けた大学医学部出身者にしか、米国で医師になる申請資格を与えないという通告が出て、それを契機に医学教育の分野別評価制度が導入されたことが挙げられます。
この米国のECFMGの通告後、2011年に全国医学部長病院長会議内に「医学教育の質保証検討委員会」が設置され、2012年から2016年にかけては、文部科学省の大学改革推進事業として、医学教育分野別評価の具体的な体制、評価基準、評価法、評価者の養成、認定法等に関する調査研究が行われました。そして2015年に、評価を担当する公的な機関として日本医学教育評価機構(JACME)が設置され、2017年に世界医学教育連盟(WFME)の認証を受けて、2017年4月1日から医学教育分野別評価が正式に始まりました。評価は、自己点検評価による内部質保証と、JACME評価委員による外部質保証からなり、評価基準は世界医学教育連盟のグローバルスタンダードを踏まえたものとなっています。
大西
次に卒後教育についてうかがいます。これは卒後臨床研修が義務化されたことが大きかったと思いますが、その辺りからの経緯を教えていただけますか。
福井
2004年度に卒後臨床研修が必修化されたことは非常に大きな医学教育上の出来事だったと思います。その研修プログラムは当初、プライマリ・ケアの研修をすべての医学部卒業生に受けてもらうもので、7診療科のローテーションが必須とされました。しかしながら、5年ごとに制度を見直すことになっていたため、第1回の見直しが2010年に行われて、非常に激しい議論の末、必須ローテーション診療科が実質的に3診療科まで減らされました。
しかしながら、さらにその10年後の見直しで、2020年度からは当初の7診療科に加えて、一般外来のローテーションが必修とされて、再度プライマリ・ケア重視の方向に大きく舵が切られました。研修目標もブラッシュアップされ、医師としての基本的価値観としてプロフェッショナリズム4項目、資質・能力8項目、基本的診療業務4診療分野が挙げられています。
そして、臨床研修の質を担保する目的で、多くの指導医養成講習会やプログラム責任者養成講習会が開催されてきています。このこと自体、私は、非常に多くの医師が医療の理想像について改めて学ぶ機会となっていると思います。特に指導医養成講習会は10万人以上の医師がすでに受講していて、医師の総数の3分の1がそのような機会を持ってきたことになります。それ自体、わが国の医療の質を高める方向に大きく貢献してきたものと思っています。
大西
2年間の臨床研修を終えた後の専門医の養成については、今どのような動きになっていますか。
福井
専門医の養成についても、日本専門医機構が2014年に立ち上げられ、2018年からは現在の新しい専門医制度が実施されています。内科や小児科等の19の基本領域の研修と、その後のサブスペシャリティ研修の2段階制になっています。各領域の専門医の必要数や地域分布、サブ領域専門医制度の整備など、まだ解決が求められている課題を幾つか抱えていると聞いています。
大西
今後の研修の展開は非常に大きな進歩が期待されると思いますが、その辺りの見通しはどのような感じでしょうか。
福井
特に研修病院の外部評価については、将来的にはわが国においても国際的な基準を導入せざるを得なくなるのではないかと思います。欧州や米国の外部評価機関がそれぞれの国以外の病院の外部評価も行うようになってきていて、最近では世界医学教育連盟(WFME)が世界中の臨床研修病院を対象に研修の質を担保する目的で外部評価を行う体制を整えつつあります。昨年来、私にもWFMEや米国の機関から何回か連絡がありました。
そして2025年5月にタイのバンコクで学会があり、WFMEの計画の内容や進捗状況が報告されたと聞いています。
大西
今後かなり大きな展開が予想されるようで、非常に楽しみです。ありがとうございました。