ドクターサロン

木村

本日は開業医の先生からの質問です。自宅での突然死の原因、特に風呂場のヒートショックについてご教示くださいということで、鳥羽先生、よろしくお願いいたします。

鳥羽

よろしくお願いします。

木村

まず、ヒートショックという言葉なのですけれども、よくテレビのニュースとかで話題になりますね。医学的にはどんな現象を指すのでしょうか。

鳥羽

ヒートショックとは、温度差、気温差によって、循環動態が変わったり、具体的には血圧や脈拍が変動することで起こる様々な状態を指します。かなりこの言葉が浸透してきており、外来で聞くと、8割以上の方がヒートショックを知っていて、テレビやインターネットでも普及していると思います。

木村

逆に患者さんのほうがよく知っていたりして、聞かれたりする言葉かもしれないですよね。医者の側が逆にわかっていないこともあるということで、今回はぜひ勉強させていただければと思います。

ヒートショックというのは、わりと入浴中の事故と知られていると思うのですけれども、実際にはどのような場面や環境で起こりやすいのでしょうか。

鳥羽

一番は入浴中の事故が多くて、その次にはトイレで起こりやすいと言われています。それも先ほど言った気温の変化が大きかったり、暖かいリビングから寒い脱衣場やトイレに移動するところで起こりやすいと言われています。

木村

季節性はありますか。

鳥羽

はい。夏場は少なく、冬場にすごく多いです。だいたい11月から多くなってきて、3月もけっこう夜は寒いので、3月ぐらいまでは多く、夏の6倍ぐらいは起こりやすいですね。

木村

地域差はあるのですか。北海道のほうが起こりやすいとか。

鳥羽

地域差はあります。ダントツで少ないのが沖縄です。やはり寒い東北地方とかは多いのですけれども、北海道は、調べたら意外に少ないです。たぶん断熱や二重窓をしていて暖かくしているから少ないのかなと思います。

木村

確かに、北海道の方は、冬は意外と過ごしやすいと言いますよね。

鳥羽

そうですね。室内を暖かくされているのだと思います。

木村

急激な温度変化がヒートショックを起こすということですが、どのような影響を及ぼすのか、循環器の専門の先生からのご説明をいただけますか。

鳥羽

まず脱衣のところからいくと、洋服を脱ぐところでいったん体温が下がりますが、体温が下がると、血管が収縮して血圧が上がります。もともと何も基礎疾患がない方はもちろん、高血圧の方などはより血圧が上がりやすい。血圧が上がって、その後、お風呂に入ると、今度は体温が上がってくるので、そうすると血管が拡張して血圧が下がってくる。あとは静水圧といって、体にかかる水の力で静脈還流が増える。このため循環動態は入浴中変わってきます。

今度は出た後ですけど、出て急激に立つと、高齢の方はよく、起立性低血圧といいますが、血圧が急激に下がったり、静水圧という体にかかっていた力がストンとなくなってしまうので、血圧がまた下がる。つまり脱衣場からいくと、上がって、下がって、下がって、というふうに血圧が変動します。

木村

具体的にどのような病気が起こってくるのでしょうか。

鳥羽

ヒートショックで一番怖いのは気を失ってしまうこと、いわゆる失神です。血圧が下がることで脳血流が低下して失神してしまい、意識を失って溺れてしまうというのが最も多いです。そのほかにも、おそらく血圧の急上昇、急降下で心筋梗塞や脳梗塞、脳出血というのもある一定数起こってくると思います。

木村

そうするとヒートショックによって、一つの病態ではなくて、様々な病態が起こってくるので気をつけていかなければならないということになりますね。ヒートショックが起こる患者さんは、どういう患者さんがリスクと考えればいいでしょうか。

鳥羽

まずは高齢の方ですね。高齢の方は、一つは動脈硬化が進行してきますので、血圧の変動が起こりやすくなり、ヒートショックを起こしやすいです。あとは脂肪が増えてくるので体温が上がりにくくなるのですね。そうすると、「熱くないと嫌だな」という高齢の方もいると思うのですけれども、体が温まりにくくて熱いお風呂に入ってしまったり。あと、脈拍が上がりにくく、循環の反応も鈍くなってしまうので、高齢の方は熱いお風呂の変動に耐えにくいというのがありますね。

木村

脂肪が厚くなると、というお話を聞いて、ちょっと意外だなと思ったのですけど。

鳥羽

そうなのです。筋肉よりも脂肪というところです。

木村

なるほど。相対的な比率で見てあげるということですか。

鳥羽

そうですね。あとは、メタボリックシンドローム、いわゆる高血圧や糖尿病、脂質異常症、肥満、そういう方は血管リスクも多いので、ヒートショックも起こりやすいです。

木村

薬の影響はありますか。

鳥羽

薬は、利尿薬は、飲むと血管内の水分が失われるのでヒートショックは起こりやすいですし、降圧薬も夜飲まれる方は降圧薬で血圧が下がって、またさらに入浴で下がるということはあるので、その辺りはリスクにはなってきますね。あと、入浴前には飲まないかもしれないですけど、睡眠薬も危険があると思います。

木村

薬もやはり、高齢者の方はポリファーマシーの問題もありますので、把握しておくべきポイントなのかなというところですね。

そして、例えば通われているかかりつけの患者さんが救急搬送されたなどという話を後から聞いた場合に、その後のフォローとして診療所レベルで最低限確認しておくべきこと、評価しておくことがあれば教えてください。

鳥羽

先ほど言ったことにも重なるのですけれども、血圧って、皆さん、家庭で血圧を測られてメモをしている方も多いと思うのですけれども、血圧の変動があるかどうかとか、血圧が低すぎたり高すぎたりしないかどうか。薬の面で言うと、血圧の薬や利尿薬が過剰になっていないか。あと、今いろいろな所にかかっていていろいろな薬をもらっている方もいるので、薬が重なっていないか、その辺はすごく大切になってくるかなと思いますね。

木村

薬剤師さんの協力とか、そういったところも、多職種連携といったところでポイントになりますね。

鳥羽

そうですね。訪問看護があれば看護師さんに日ごろのことを聞くのも大切かなと思います。

木村

次は、患者さんにぜひお伝えしたい入浴環境というのを教えていただければと思います。

鳥羽

まずは、脱衣場がすごく寒いと血圧が急上昇をするので、脱衣場を暖めておくというのが一つポイントですね。ヒーターなどを買って置いておいてもいいと思います。リビングとつながっていれば、ちょっと扉を開けておいて暖めておくとか。あとは私も患者さんに言われて気づいたのですけど、入浴前に、少しお風呂のドアを開けて暖かくしておくとか。お風呂の湯温も少し下がりますし、脱衣場も暖かくなるので、それもすごくいいなと思ったところです。

あとは、お風呂の前にお水やお茶を一杯飲んでから入るというのも脱水予防になるので、そこもポイントです。

木村

逆に、こういうときは入浴をやめておいてくださいというサインを教えていただければと思います。

鳥羽

血圧を日ごろ測っている方は、高すぎる、低すぎるというときは入浴をやめてシャワーだけにするということもあると思いますし、あとはご自身でちょっと風邪っぽいかなとか、体調不良かなとか、疲れていて寝不足だったなとか、少し体調の変化があるときは、特に高齢者の方は避けたほうがいいです。

あとは、ご家族から見て、今日は普段の様子とちょっと違うとか、元気がない、食欲がなかったとか、そういうサインがあれば、「今日はやめておいたほうがいいんじゃない?」と声をかけてあげるのもすごく大切だと思います。

木村

普段と違うサインというのはすごく大事ですね。

鳥羽

そうですね。ご家族にしかたぶんわからないので。

木村

あとは、予防のためにやってはいけないことというのは。

鳥羽

一番避けたいのはお酒を飲んでからお風呂に入るということです。お酒も血圧を下げてしまいますし、眠くなってしまうので、ヒートショックを起こして気分が悪くてもお酒でボーッとして浴槽から出られないとか、そういう危険性もあるので、飲酒後は避けたほうがいいですね。

木村

どうしてもお酒を飲んだ後は気をつけないといけないということを、患者さんにも我々も肝に銘じてといったところでありますね。

鳥羽

入った後にちょっと飲んでもらうとか。

木村

最後に、ヒートショック予防のために先生から一言メッセージをお願いします。

鳥羽

やはり時期的には2月など寒い時期が一番ヒートショックで運ばれる方が多いです。起こすと助からない方が大多数なので、ぜひご家族がいる方は気を配ってあげて、入浴中に声をかけてもらいたいですし、お一人の方でも気をつけられることがたくさんあるので、ぜひ本日の内容を聞いていただいて、気をつけながら入浴をしていただきたいです。

木村

入浴中の温度環境がすごく大事だということを今回学ばせていただきました。ありがとうございました。