池脇
山根先生には、不整脈の話題で何度か来ていただきました。実は今回、ドクターサロンとしては初めての企画ですけれども、学会そのものを紹介していただくという企画です。
先の2025年11月に第71回日本不整脈心電学会学術大会が行われて、山根先生は、藤田医科大学の渡邉英一先生と会長をお務めになったということで、この学会を紹介していただくということになりました。よろしくお願いします。
循環器というと、大きな学会では日本循環器学会がありますが、この学会は名前そのものが不整脈。これに特化した学会ということで、71回ですから、けっこう歴史のある学会なのですね。
山根
はい。今ご紹介いただきましたように、昨年11月の中旬に、日本不整脈心電学会(JHRS)の学術大会の会長を務めさせていただきました。そのことについて少しご紹介させていただきます。まず不整脈心電学会というこの学会は、名前のとおり、不整脈学会と心電学会がドッキングしてできた学会なのですね。どちらも似たような形で1980年代の中旬ぐらいに創立された学会になります。
日本不整脈学会のほうは、もともとは日本心臓ペーシング学会という名前で始まっていた学会で、主にペースメーカーなどのことを中心として、外科の先生を中心に始まった学会です。一方、日本心電学会のほうは、心電図を中心とした心臓の電気現象の解析ということで、内科が中心になって始まりました。その2つは分野の重複が多いために、2015年に合併して日本不整脈心電学会となっています。
池脇
心電図は、健診から診療まで幅広く使われている、不整脈の中でも非常に大きな検査の一つですので、この2つを一緒にしたほうがやりやすい感じはしますけれども、もう71回目の会長ということで、歴史のある学会ですね。
山根
そうですね。先ほど池脇先生がおっしゃったように、循環器学会という循環器の学会のサブスペシャルティの学会として、不整脈心電学会は位置しています。サブスペシャルティの学会にはほかに、日本心血管インターベンション治療学会(CVIT)、日本心不全学会、あと池脇先生のご専門の日本動脈硬化学会、そういったところが存在します。サブスペシャルティの中でも、JHRSとCVITの2つは同じぐらいの規模で、会員数がだいたい1万2,000~3,000人と規模の大きな学会です。
池脇
しかも、内科学会、循環器学会と同じように、定期的に日本全国で地方会をやられていますね。
山根
そうなのです。地方会も運営していてすごく盛んです。
池脇
会長をお務めになるということで、今回の学会で目指したものがあったのでしょうか。
山根
そうですね。最初にご説明があったように、今回は日本不整脈心電学会だけでなく、アジア太平洋不整脈学会(APHRS)との合同開催だったというところが、なかなか難しいところでもありました。海外からの演者、招待者、参加者もたくさんいらっしゃるものですから、そこをどういうふうにプログラムを分けてやっていくのか、そこはだいぶ苦労しました。
今回、両者の合併の開催としてはたぶん3回目だったと思います。前回の開催のときは、APHRSのほうに引っ張られて、すべてのセッションを英語でやろうというスタイルだったのですけれども、今回は最初からそれはやめようということになっていました。というのは、JHRSの会員として、医師以外のメディカルプロフェッショナルの方の会員数が飛躍的に伸びているのですね。そういう方々の参加、発表が今とても重視されており、JHRSは基本的に日本語で開催することをコンセプトにしました。
池脇
確かに、学会というと、医師主体のイメージですが、心電図となると、臨床検査技師や臨床工学技士、さらに看護師など、現場を担う方たちにも学会に参加してもらうということですね。今回は4日間ですから、長丁場でしたね。
山根
そうなのです。参加者も今回トータルで8,300人を超えたということで、過去最高の参加人数でした。
池脇
山根先生は、後半で触れますけれども、心房細動のアブレーションを日本で最初に始められた医師の一人ということですから、会長としたら、その辺りを軸としてというふうに思うのですが、どうでしょうか。
山根
もちろん、いろいろな分野がありますけれども、国内国外ともに、やはりカテーテルアブレーションに関する演題というのが一番多かったですね。
池脇
実際に、会長の先生によって特徴は変わってくる学会ですか。
山根
それはあると思います。会長の専門分野の方を海外から多く招待することになりますので、会長の色は出てくると思います。
池脇
そういう意味では、国際学会と合同の大きな大会、先生、本当にお疲れさまでした。
山根
ありがとうございます。
池脇
後半の部分では、不整脈の新しい話題ということで、心房細動のアブレーション。これも日進月歩というのでしょうか。また新しいブレイクスルーがあると聞きますけれども、どういうことでしょう。
山根
一昨年からスタートしましたけれども、カテーテルアブレーションの道具が大きく変わりました。「変わりました」と過去形なのはちょっと変ですが、変わりつつあるというところです。カテーテルアブレーションとは、心臓の中の不整脈の原因となっているところをカテーテルを使ってやっつける治療ですが、その方法というのは、従来は焼くか、または凍らせるかという熱を使う方法しかありませんでした。そこに第3の方法として、電気パルスを与えるという方法が開発されました。聞いている方も「いったい何だ、それは」と思われることでしょうが、熱を使わずに電気パルスを与える方法です。
電気パルスとか電気ショックというのは、一般の方のイメージとしては、よくテレビドラマなどで医師が心停止の患者さんに電気ショックをドーンと与えると、患者さんの体がバーンと動くようなものを思い浮かべる方が多いと思います。新しい治療としての電気パルスは、ある意味それのすごく小さなバージョンです。カテーテルの先端から小さな、局所に与える電気パルスをトントントンと心臓の筋肉に与えると、パルスを与えられた組織は細胞の表面に穴が開きます。これをエレクトロポレーションといいますが、電気を使ってポア(穴)を作る方法です。パルスの強さによって効果は異なり、パルスが弱めだと、いったん開いた穴が元に戻りますが、パルスの強さがある閾値を超えてくると、その穴が開いたままになって、細胞質が細胞の外に漏れていき、そして細胞が死んでしまう。このときの細胞の死に方は(やや専門的になってしまいますけど)、アポトーシスになります。線維化を伴わずにただ死んでくれるという、非常に好都合な死に方をしてくれると言われています。その方法が今、カテーテルの世界に大きく取り込まれてきていると想像していただけるとよいと思います。
池脇
工学の領域からのアプローチという感じがしましたが、これによってアブレーションの成績は向上しているのでしょうか。
山根
そうです。成績は、論文などで発表されているものだと、従来の方法と有意差はないのです。従来の方法と大きく異なるのは安全性が飛躍的に向上していることです。
池脇
それは重要なところですね。
山根
そうなのです。熱を使う今までのアブレーションですと、ターゲットとしている細胞組織だけでなくて、そこに接している、心臓周囲の器官や臓器、例えば心臓に接している臓器だと食道とか肺神経とか、そういう心臓外の組織細胞があるのですけれども、そこまで影響が及んでしまう可能性があり、それによる合併症も報告されていました。しかし電気パルスでは、心臓の筋肉が障害を受ける閾値がほかの組織よりもぐっと低いのです。ですから、心臓だけに影響を与えて、食道や神経などほかの器官に影響を与えない、ちょうどいい具合の出力で治療することができます。心臓のこういう治療をやっている人間にとって開発された、そのようなイメージで考えていただくといいと思います。
池脇
安全なアブレーションが、日本全国に普及しつつあるというのは非常に明るいニュースでした。先生、改めて昨年の学会、お疲れさまでした。ありがとうございました。