山内
森山先生、よろしくお願いいたします。本日は、糸球体の血管バリアが障害されることでアルブミン、タンパク質といったものがろ過されてしまうということで、蛋白尿という形になってくるわけですけれども、この時、タンパクよりも分子量がはるかに小さいクレアチニンも同時に通過すると思われますが、なぜ血中のクレアチンがむしろ上昇するのか、こういう質問です。これは基本的なところでありますけれども、ふっと考えると、わりに「うーん」と思うところがありますので、今回はわかりやすくご説明いただければと思います。
まず、糸球体の病態メカニズムですが、腎臓を還流している血流の異常、こういったものから最初は出てくると考えてよいのでしょうか。
森山
糸球体トータルの血流自体は、わりとある程度の時期まで保たれます。糸球体のろ過する量、一つひとつの糸球体から尿細管にかけての1単位のネフロンと我々は呼んでいますけれど、ネフロンが壊れていくと、糸球体ろ過量、いわゆるGFR(glomerular filtration rate)が落ちていくということになります。それがイコール、腎機能が低下するということになります。
腎機能が落ちてきても、糸球体高血圧や糸球体過剰ろ過ということが起きますので、荒廃した糸球体の分は、残存糸球体への血流が増して、荒廃し、機能しなくなったネフロンのカバーをするので、ある程度、糸球体の血流量というのは、トータルではカバーされます。それがどんどん進行し、カバーできないくらいになると、腎機能が落ちることになります。
山内
そこのところでバリアという概念が出てきますけれども、バリアを形成しているものには血管も入ってくると考えてよいのですね。
森山
そうですね。基本的には、糸球体の中の毛細血管になります。この毛細血管は一番内側が糸球体の内皮細胞、その外側が基底膜、そして一番外側が糸球体の上皮細胞という3層構造からなり、糸球体のろ過障壁として働いています。
山内
よく、このバリアが破壊される、障害されるということを聞きますけれども、3層すべてが破壊されてくるのでしょうか。それとも、血管のバリアのところから壊れていくと考えてよいのでしょうか。
森山
糸球体の障害によっていろいろなパターンがあって、主に上皮細胞や内皮細胞の機能異常が起きたりする疾患もあれば、糸球体の係蹄自体が完全に破壊されて、完全に穴が開いている、糸球体の壁に傷が付いているような状態になったりすることもありますし、糸球体の係蹄、壁の壊れ方というのは疾患によって違ってきます。
山内
言ってみれば、大きな穴が開いてしまって、大きなタンパク質、アルブミンも漏れてしまうという考えですけれども、この際、サイズ的に大きな穴から出てきてしまうというだけでなく、ほかにも幾つかバリアとして働くものはあるのでしょうか。
森山
はい。基本的に、糸球体自体が壊れるというのは糸球体の構造が破壊されますから、サイズバリアが破壊され、小分子のものから大分子のものも出てきてしまうような状態です。ほかにも、糸球体のろ過障壁は、チャージバリアというバリアでも守っているのです。基底膜や内皮細胞などは陰性荷電を帯びているのですが、アルブミンも陰性荷電ですから、通常は反発しあって尿中に出ることがない。その機能が落ちてきたりすると、チャージバリアが破綻して、アルブミンなど分子量の小さいものが糸球体の係蹄を通過していく。ただ、大分子のものはサイズバリアによって守られるのであまり出ていかないような状況にもなりますね。
山内
アルブミン等が出てくるメカニズムはわりに複雑だと考えてよいのですね。
森山
そうですね。糸球体内圧や尿細管機能も関係してきたりするので、まだすべての機序がわかっていない部分もあります。
山内
そこでこの質問に絡むわけですが、言ってみれば、それだけズルズルになってしまったら、クレアチニンもどんどん出てきて、血中レベルが下がってもいいのではないか、なのになぜ上がってくるのか。そういう質問ですけれども、これはどう解釈したらよいでしょうか。
森山
この質問のまずスタートの、アルブミンやタンパクが糸球体係蹄壁を通過してしまうような状態というのは完全にバリアが壊れているときで、通常はアルブミンやタンパクは糸球体の係蹄壁を通過しない物質なのです。
クレアチニンがどういう物質かと考えると、まず肝臓で主に作られるアミノ酸の一種である、クレアチンという物質があります。これは筋肉のエネルギー源で、クレアチンリン酸として筋肉に通常蓄えられています。それで、運動時や活動したときにそのエネルギーが代謝されるという過程で使われます。その老廃物がクレアチニンというものなのですね。なので、タンパクとかアルブミンというのは基本的に人体に大事なものであるのに対して、クレアチニンは老廃物なので、実は常に腎臓から尿中に排泄されているものなのです。成人で1日1gぐらい排泄されていると言われています。
それが、係蹄のバリアが障害されるのを通り越し、糸球体自体が荒廃して働かない状態になってしまうと、片方の腎臓に100万個ぐらいあると言われているネフロンの数自体が減っていってしまいます。これが腎機能が落ちていくということなのです。例えば100万あった糸球体が50万になったとすると、クレアチニンを排泄するところが半分に減ってしまいます。すなわち腎機能が落ちてくると、尿中にクレアチニンが排泄されないので、血中のクレアチニンは上がってきてしまうということになるのですね。
それを見ているのが糸球体ろ過量なので、糸球体がろ過できる量が減ってくるというのは、イコール、糸球体が働いている量が減っているということなので、クレアチニンが出せなくなって血中のクレアチニンは上がるということになります。糸球体の係蹄壁のバリアが障害されるのとクレアチニンが上がるのとは少し機序が違うということになります。
山内
本当の末期になると、アルブミンも出にくくなってしまうと考えてよいのですか。
森山
いや、そういうわけではなくて、アルブミンが出てくるのはまたちょっと機序が違います。末期腎不全になり残存糸球体の内圧が上がってくると、アルブミンが排出される量が増えますので、アルブミンが出にくくなるというわけではないです。
山内
またクレアチニンの話に戻りますけれども、結局、老廃物でいらないものだということで、非常に重要なポイントとして、尿細管での再吸収がない物質と考えてもよいのでしょうか。
森山
実際はわずかに再吸収される物質です。クレアチニンクリアランスというのを我々腎臓の機能を正確に測るときにやるのですが、わずかながら尿細管での再吸収があるので、完全に正確な腎機能は測定できません。実際もっと正確にやるには尿細管で再吸収されないイヌリンという物質を投与して、それのクリアランスを見ます。しかし、注射して行う検査でたいへんなので、簡便にやるにはクレアチニンクリアランスというのをやるのですけど、だいたいその結果は相関します。クレアチニンクリアランスはクレアチニンが尿細管で再吸収される分だけ、少し腎機能を過大評価してしまうというのはいえます。
山内
実際にはクレアチニンが非常に測りやすいということ、それから、老廃物なので実際上はほぼ100%近くが再吸収されないということですね。そういった出入りが非常に単純ということが、クレアチニンが腎臓障害のマーカーになったと考えてよいのでしょうね。
森山
そうですね。一番大事なことは、クレアチニン自体が腎臓からしか排泄されない物質ということです。例えば腎機能が落ちてくるとむくんだり、電解質異常が起きますけれど、電解質とか水分というのは、腸管からも排泄されますし、汗として出たり不感蒸泄も出ますから、100%腎臓が担っているわけではないのですね。それに対して、クレアチニンという物質は腎臓からしか排泄されないので、腎臓の機能を見る鋭敏なマーカーになったということがいえます。
山内
最後に、クレアチニンがわずかに上昇してきた腎障害の初期についてですが、よくクレアチニン1.0~1.2ぐらいの間ですと、わりにクレアチニンが増減を繰り返すといいますか、一本調子で悪化していないような印象もあるわけですが、こういった現象の原因にはどういったものが考えられますか。
森山
データの揺らぎみたいなものがあるのですけれども、それは実はほかのデータでもいろいろなものを見ると揺らぎはありますが、クレアチニン自体、体調や水分量、筋肉量で変動しますので、毎回同じデータを示すというわけではなくて、ある程度の変動はあるということはいえます。ただ、長い目で見ていくと、低下しているものはゆっくり低下しているなというのがわかりますし、eGFRの傾きなどは最近腎臓の機能を見るのにいいマーカーと言われているのですけれども、それを見ていくと、よりきちんとした評価はしやすいのかなとは思います。
山内
腎障害が正常にリターンするポイントがあるといったことが言われた時代もありますけれども、現実には糸球体というのは悪化し始めたら元には戻らないと考えてよいのでしょうか。
森山
硬化した糸球体を戻すのは厳しいです。糸球体腎炎で炎症が起きていて、そこに対してステロイド治療などを行ってその炎症を抑えるとその糸球体が復活するということはいえます。しかし、基本的には、そのほかの代謝性疾患も含めて、硬化した糸球体を戻すというのは難しいです。
ただ、ある程度コントロールをよくする、高血圧性の腎障害だったら高血圧をよくするとか、糖尿病だったら糖尿病のコントロールをよくすることによって、腎機能障害のスピードをある程度ゆっくりにさせていくことは可能かと思います。
山内
どうもありがとうございました。