大西
園田先生、非感染性のぶどう膜炎というテーマでお話をうかがいたいと思います。そもそもぶどう膜とはどういうものなのでしょうか。
園田
ぶどう膜とは、目の構造物の中で虹彩、瞳に付いている毛様体、脈絡膜の3つをまとめて呼ぶ総称です。脈絡膜は、網膜の下支えをしている組織で、虹彩、毛様体、脈絡膜は一つの膜のようになっており、この3つを合わせてぶどう膜といいます。
目が黒かったり、目が温かくて血流がきちんと保たれているのもぶどう膜が血管膜で、かつ色素も多く含まれているためです。
大西
ぶどう膜炎を起こすと、どのような症状が出るのでしょうか。
園田
まず曇って見えます。これを「霧を視る」と書いて
大西
ぶどう膜炎には、多種多様な原因が想定されているのでしょうか。
園田
はい。ぶどう膜は血管膜ですので、血流に乗っていろいろなものが目の中に入ってきます。ある意味、その窓口になる部位なので、そこから炎症が広がる。実は、ぶどう膜から広がった炎症はすべてぶどう膜炎という言い方をします。すると、膠原病もしくは血管炎があるような病気や、例えば感染症やがんの転移などが目の中で起こる。それに対して炎症が起きるので、すべてぶどう膜炎というかたちで臨床症状が出てきます。診断病名はいったんそのように付きますが、ぶどう膜炎の中にはいろいろな原因疾患があるので、その原因疾患について正しい診断と治療を選択していかなければなりません。
大西
多種多様な原因があるというお話ですね。そうしますと、診断を進めていくのはなかなか難しい面もあるかと思いますが、実際どのように診断や検査を進めていったらよいのでしょうか。
園田
そのぶどう膜炎が感染症によるものなのか、それとも、がんの転移、悪性疾患によるものなのか、ここをまず鑑別するところが一番大切です。なぜかというと、治療法が全く異なるからです。
感染症の場合、両眼同時に感染が起こるということももちろんありますが、やはり片眼性のものは、感染症をしっかり考える一つのサインです。非常に古典的ですが、両眼性なのか片眼性なのかは一つ、メルクマールになります。
あとは高齢者ですね。高齢者のぶどう膜炎は、かなりの頻度で悪性疾患を含んでいることがあるので、そういったところに気をつけながら診断を進めています。
大西
転移が多いとはどのような悪性疾患があるのでしょうか。
園田
固形腫瘍の転移が多いのは、やはり肺がんや乳がんです。乳がんが、ぶどう膜炎の症状で見つかった方もいます。あと、原発腫瘍の中では中枢神経リンパ腫、悪性リンパ腫がけっこう多くなってきており、ぶどう膜炎というかたちでよく見つかります。
大西
眼内検査を行う場合もあるのでしょうか。
園田
あります。
大西
それはいったいどのように進めていったらよいでしょうか。
園田
例えば感染症を疑う場合、眼科では房水検査といって目の前方に細かい針を刺して前房水を採り、そのPCR検査をします。網羅的PCRということで、いくつかのウイルスや細菌、真菌を一気に調べるようなウイルスPCR検査が行われるようになってきていて、非常に診断に役立っている。もしくは、その前房水を、組織診断で細胞診することにより、悪性細胞の診断をしたり、前房水の中のサイトカイン検査をする。例えば大細胞型B細胞リンパ腫であればIL-10が増えていたりするので、そういったところを一つメルクマールにして診断を進めています。
大西
初期段階ではなかなか原因が特定できない場合もあると思います。そういう場合、治療方針を間違えないためにどのようなことに注意したらよいでしょうか。
園田
いったんは非感染性ぶどう膜炎として治療を始めることも多いですが、例えばステロイドや免疫抑制剤を使って、通常は引くはずの症状が引かない、もしくはいったんは効いても再発するような場合には、感染症もしくは悪性疾患を疑って、再度検査をやり直すということがあるかと思います。
大西
治療のお話をうかがいたいのですが、ステロイドが中心になるのでしょうか。
園田
そうですね。悪性疾患を除いてになりますが、非感染性ぶどう膜炎という診断をしたら、まずは局所のステロイドです。局所のステロイドは、点眼や眼球の周囲に注射を行います。デキサメタゾンなどの注射を目の周囲にすることにより、ほぼ炎症をコントロールできることが多いです。
ですから再発を繰り返すもの、もしくは明らかに全身疾患と関係している、全身の状態も悪いサルコイドーシスやベーチェット病、フォークト─小柳─原田病では局所のステロイドだけでなく、全身のステロイド投与、もしくは生物製剤の投与が必要になると思います。
大西
最近は生物学的製剤の適用も広がってきているのでしょうか。
園田
そうですね。特にブレークスルーになったのはベーチェット病に対するインフリキシマブです。2007年に保険収載され、随分長くなりました。ベーチェット病眼症は若い男性に多くて、高率に失明していましたので、本当に困っていました。インフリキシマブでコントロールが取れるようになり、最近では、ほぼ失明する人がいない、という言い方はまだ語弊があるかもしれませんが、それぐらいよく効いています。
大西
診療指針として、最近はぶどう膜炎の診療ガイドラインなども整備されているのでしょうか。
園田
はい。日本眼科学会、そして日本眼炎症学会からぶどう膜炎の診療ガイドラインを出しています。これは非感染性のぶどう膜炎だけでなく、感染性ぶどう膜炎、悪性腫瘍に伴うぶどう膜炎も一緒に、どういった診断法、治療法を行うかをまとめたものです。
ただ、ぶどう膜炎というのは本当に多様な病気ですので、きちんとしたガイドラインになるには、まだまだエビデンスが足りなくて、Minds形式になっていないところが問題です。
大西
コロナウイルスやワクチンなどと、ぶどう膜炎との関連が指摘されていることもあるようです。その辺りはいかがでしょうか。
園田
多くはないと思いますが、ワクチンと関係があるのではないかと疑われる症例では、少し免疫系が活性化することによって、収まっていたぶどう膜炎が再発したりすることがあるようです。それがワクチンのメリットを上回るかどうかはわかりませんが、そういったことに私たちは注意しながら、問診を取りつつ、診療している次第です。
大西
どうもありがとうございました。