藤城
小児の眼科疾患についてお話をうかがいます。
小児の眼科領域において、今、力を入れているとうかがっております3歳児健診についてからお話しいただけますか。
佐藤
お子さんの健診というのは、眼科健診以外に、小児科で全身の発達などの健診がありますが、最近では、視力の検査、屈折の検査を行って、より早い時期に子どもの目の異常を見つけようとしています。
特に屈折を測る機械、スクリーニング用の装置は新しいものがいろいろ開発されていて、3歳児健診では今まで視力検査しか行われていなかったのですが、それに加えて、屈折検査が同時に行えるようになったのが最近の大きな進歩になります。
藤城
それによって、今まで見つからなかった眼科疾患が見つかってくるのですか。
佐藤
そうですね。斜視も発見されますし、弱視あるいは弱視の可能性があるお子さんを健診でピックアップできるようになってきています。
藤城
弱視は今、小児領域で大きな問題になっているのでしょうか。
佐藤
弱視という疾患名からものすごく視力の悪い、一生治らない病気のように思われるかもしれませんが、実は3歳ぐらいに見つけて、それから適切に治療すると視力が発達します。
逆にいえば、見つからずに小学校に上がって、そのときの健診で初めて見つかるようだと、なかなか治療がたいへんです。そういった意味で、3歳児健診で異常を見つけるのはとても重要なことだし、これによって健診で異常を見つける率が上がってきているといえます。
藤城
弱視の原因は何ですか。
佐藤
一番多い原因は、屈折異常といって、近視や遠視、乱視という言葉を聞いたことがあると思いますが、その中でも特に遠視です。そして、遠視があっても、右と左で程度に差があると特に弱視になりやすいのですが、なかなか発見されないのです。
というのは、片方の目がよく見えていると、子どもは見えにくそうな態度を取らないので、視力検査や屈折検査をして、初めて片方の目が見えていないとわかることが多いのです。あと、斜視も一つの原因になっています。
藤城
なかなか診断ができないこともあると思いますが、親御さんとしては何とか早い段階で健診以外でも見つけたいという思いがあると思います。特徴的な所見はあるのでしょうか。
佐藤
両方の目に弱視がある場合は、テレビにすごく近づいて見たり目をしかめたり、お子さん自身が見づらそうにします。片方だけだと、ご家族が見つけるのはなかなか難しいです。見えていないということ自体疑わないので、健診を受けないと見つからないのです。
藤城
3歳児健診でしっかりと診断をつけていただくのが重要なんですね。
佐藤
そうですね。3歳児健診で弱視の可能性のある子どもを拾い上げて、そういった子どもを眼科の受診につなげるのが大事なことだと思います。
藤城
弱視の場合は遠視が多くて、それに対しては、治療をすることで弱視を治せるというお話をいただいたのですが、実際の治療法はどのようなことをされるのでしょうか。
佐藤
遠視があると、近くのモノも遠くのモノもピントが合いにくいので、子どもの「モノを見る」という脳の力が十分に発達しないのが問題です。遠視を治すことができればもちろん一番良いのですが、遠視を治すのではなく、遠視があってもよく見えるようにするために、適切な眼鏡をかけさせることになります。
藤城
適切な眼鏡をかけて、モノが見えるようになってくると、視力はしっかりと得られるのですね。
佐藤
はい。誤解されるといけないのですが、眼鏡をかけるということは治療の一つで、眼鏡をかけた状態でよく見えるというのが治療のゴールになるのです。なので、良くなって眼鏡が要らなくなるわけではありません。よく「眼鏡はいつ外れますか」とご家族から聞かれるのですが、眼鏡は基本的にかけた状態です。眼鏡をかけたら見える。眼鏡をかけても見えないのが弱視になりますから、そこのところを区別していただく必要があります。
藤城
そうしますと、自然に治ることはないということですね。
佐藤
そうですね。弱視の場合は自然に治ることはまず考えにくくて、眼鏡をかけて視力が伸びてくるのを待つのですが、それでも伸びが悪いこともあります。どちらか一方の目がよく見えていて、片方だけ見えていないと、なかなか治療に反応しないものですから、眼鏡をかけたうえに、さらに追加の治療として、よく見えるほうの目を1日に何時間か隠し、よく見えないほうの目だけで見るという治療を行います。
藤城
手術をするということは特にないのですか。
佐藤
遠視を治すのではなく、脳の発達でモノを見る力を育てるためなので、基本的には手術はしません。
ただ、弱視が原因で斜視になってしまったようなお子さんに対しての手術はありますが、斜視の手術で視力が良くなるわけではないので、斜視の手術と弱視の治療は全く別だと思っていただかないといけません。
藤城
弱視も斜視の原因の一つとうかがいましたが、ほかにはありますか。
佐藤
斜視は遺伝する部分もありますが、大きな理由の一つは、両目の遠視が強いことです。先ほど弱視の原因でも挙げましたが、そのせいで目が内側に寄ってくる内斜視になることがあります。
もう一つ大事なことは、目の中に何か病気があって、そのために斜視になっていることがあります。弱視のように眼鏡をかけて治療して良くなるものだったらいいのですが、そうではなくて、片方の目が白内障だったり網膜が?がれていたり、先天的な目の異常があってどちらかの目が見えづらいために斜視になることもあるので、それは眼科の検査を受けないとわかりません。
藤城
斜視に関しては、親御さんが気づくこともあるのでしょうか。
佐藤
はい。斜視は程度が強ければ気がつくと思いますが、意外に気がつかないこともあります。
藤城
すると、やはり健診を受けていただくとか、何かおかしいなと思ったら病院にかかっていただくのがいいですね。
佐藤
そうですね。いつも斜視とは限らず、いいときと悪いときが交互に来たりします。いつも悪かったら気づくと思いますが、逆にいつも悪いとそれを見慣れてしまって、親御さんは異常だと思わないケースもあります。
藤城
近くのクリニックでいいのか、大学病院などの大病院にかかったほうがいいのか。その辺りはどのように判断すればよいでしょうか。
佐藤
まずは近所の眼科医を受診されるといいと思いますが、その際、どこのクリニックに行くかはなかなか悩むところだと思います。たいていの眼科クリニックは、ご高齢の患者さんが多くて混んでいて、お子さんの検査がうまくできないこともあります。一つの目安として、そのクリニックのホームページを見ていただいて、視能訓練士がいるかどうかがあります。これは特に小児の目の検査に慣れている専門家のことで、国家資格です。視能訓練士が働いているクリニックというのは、小児の目の検査に向いている施設と考えていただいていいと思います。
藤城
視能訓練士というものがあるのですね。
佐藤
ぜひ覚えて意識していただければと思います。
藤城
一般のクリニックでは、どれぐらいのパーセンテージで視能訓練士がいるのでしょうか。
佐藤
実は基本的に、眼科の検査は視能訓練士が行わなければいけないことになっています。しかし、すべての検査員が視能訓練士とは限りません。ほとんどのところに視能訓練士がいると思いたいですが、ホームページなどでうたっていないと、いらっしゃらないかもしれないし、いても小児が得意じゃないことも考えられるかもしれません。
藤城
小児でも、成人も受け付けている眼科のクリニックで視能訓練士がいるとホームページでうたっているようなところにまずはかかっていただいて、そのうえで必要とあれば、大学病院や小児専門施設に紹介いただくような流れがいいのですね。
佐藤
それが流れとしてはいいかなと思います。
藤城
ありがとうございました。