ドクターサロン

藤城

今回は日本ロービジョン学会理事を務められている斉之平真弓先生をお迎えして、ロービジョンについてお話をうかがいます。

斉之平先生、はじめにロービジョンとはどのような状態なのでしょうか。

斉之平

ロービジョンとは、病気や事故によって、視力の低下だけでなく、視野の異常や羞明(いわゆる眩しさ)、調節障害など、様々な視覚の障害で日常生活に支障がある状態のことをいいます。必ずしも身体障害者手帳の基準に該当しない状態も含まれます。

日本眼科学会の調査では、現在、日本では約164万人の視覚障害者がいるといわれています。また、視覚障害の原因が緑内障など加齢に伴い増加する疾患であることから、今後の超高齢社会に伴い、2030年には視覚障害者数は200万人に達すると予測されています。

そのようなロービジョンの患者さんには、治療と同時に視覚のリハビリテーションが必要になってきます。この視覚リハビリテーションのことを日本ではロービジョンケアと名称しています。

藤城

かなり広い概念と捉えてよいでしょうか。

斉之平

そうですね。

藤城

基本的に、目が見えにくいと感じられる方がロービジョンという概念に入ってきて、その方に関して何らかのケアが必要だということでしょうか。

斉之平

そうです。ロービジョンケアとは、見え方で困っている患者さんに対して、様々な側面から実施される支援の総称をいいます。医療的リハビリテーションから、教育的、職業的、社会的、福祉的、心理的まで、幅広い範囲にわたる支援を意味しています。

例えば、特別支援学校や職業訓練、歩行訓練士などと連携を取り、ロービジョンケアを実施していくこともあります。ロービジョンケアにより、患者さんのQOLを向上することができます。

藤城

小児、通常の成人の方、さらには高齢者の方、本当に年齢層も幅広い方が対象となっていて、重症度もあると思いますが、それぞれに合わせたケアが必要になってくる。それを総称してロービジョンケアという言い方をされているのですね。

斉之平

はい、そうです。

藤城

そのようなロービジョンケアをされている実施施設、医療機関について教えていただけますか。

斉之平

現在、ロービジョンケアを実施している医療機関も徐々に増えてきています。日本眼科医会や日本ロービジョン学会のホームページには、ロービジョンケアを実施している全国の医療機関が掲載されていますので、ぜひご覧いただければと思います(二次元コード1、2)。

藤城

ありがとうございます。どのような状況であれば、ロービジョン外来にかかったらいいのか。見えにくいなと思ったら、すぐかかっていただいていいのか、それともまず一般開業医を受診して、その後ロービジョン外来にご紹介いただくのか、その辺りはどういう道筋で進めていけばよいでしょうか。

斉之平

今、ロービジョンケアというのはすごく敷居が高いような感じがしている方も多いので、「クイック・ロービジョンケア」といって、眼科の中で簡単に実施可能な範囲のロービジョンケアを進めています。

その目安は、良いほうの目の矯正視力が0.5未満、視野に暗点や欠損がある方、特に下方の視野欠損や暗点があると歩行や移動がたいへんになり、階段が降りられなくなるなどします。その他、羞明や複視、二重に見えるなどの症状により、日常生活に少しでも支障があり、眼鏡やコンタクトレンズを使用しても見え方に不自由があれば、ぜひロービジョン外来を受診されればと思います。

藤城

わかりました。最近のロービジョンケアにおける進歩はあるのでしょうか。

斉之平

はい。昭和時代からのロービジョンケアとしては、眼鏡、また遮光眼鏡といって、眩しさを防ぐ眼鏡や手持ち型、卓上型ルーペなどがあります。夜盲症でトンネルや夕暮れなど暗いところで見えなくなる方には、強力懐中電灯を選定しています。

また、見たいものを大きなモニターに映し出せる補助具として、拡大読書器などが登場しています。

令和時代のロービジョンケアとしてICT機器、いわゆるスマートフォンやタブレット端末などのデジタルを用いたロービジョンケアが普及しています。一番簡単な方法としては、水平のスタンドにiPhoneを固定し、拡大鏡アプリを使用することで、見たいものを簡単に拡大できます。これにより、携帯型のデジタル拡大鏡として活用できます(図1)。

また、様々なアプリが開発されています。例えば、教科書や本を取り込んで100倍まで拡大して読めるアプリ(図2)や、カメラで目の前のテキストをとらえて読み上げたり、物や文章、紙幣、製品、人物の顔を認識し、表情を説明してくれるアプリもあります。メガネのテンプル部分(耳にかける部分)に本体を装着し、触れるだけで目の前の文章や新聞、本、メニュー、製品ラベル、液晶画面の文字などを自動撮影し、耳元で読み上げてくれます(図3)。

そして最近、人工知能(AI)が様々な分野で話題になっていますが、ロービジョンケアの分野でもAI型視覚支援機器、メガネ装着型音声読書機が登場しました。メガネの両サイドの耳にかけるテンプル部分に本体を装着して、触れるだけで目の前の文章や新聞、本やメニュー、製品ラベルなど、様々な印刷物や液晶画面の文字までを自動的に撮影して、耳元で読み上げてくれます。

ロービジョンの方はこれまで、写真や画像に関しては、全く情報を得ることが困難でしたが、AIの画像解析技術の進化により、写真や画像の内容を瞬時にテキストへ変換できるようになりました。

藤城

素晴らしい進歩ですね。ロービジョンの方にとっては福音かと思います。そのような情報というのはまだすべての方には共有されていないと思いますが、どのような取り組みをして、国民全体に新しいアプリ等が開発されていることを広報されているのでしょうか。

斉之平

おっしゃるとおりです。人が得る情報の8割は視覚によるといわれていますので、視覚障害は情報障害であるともいえます。ロービジョンの方は、なかなかロービジョンケアに到達することができません。

そのために、全国47都道府県の眼科医会がスマートサイト「ロービジョンケア紹介リーフレット」を作成しました。スマートサイトでは、地域ごとに相談可能な施設、特別支援学校、障害者自立支援センターなどの情報を1枚のリーフレットにまとめています。視覚障害により生活に支障のある方が、それぞれの悩みに応じた情報を得て、適切な支援につながることを目的としています。日本眼科医会のホームページからすべての都道府県のリーフレットがダウンロード可能です。眼科医療機関以外でも、ロービジョンの方がいらっしゃる場合は、ぜひロービジョンケアの広報にご活用いただければと思います(図4)。

藤城

有用な活動を眼科医会のほうではなさっていますね。たいへん勉強になりました。どうもありがとうございました。