ドクターサロン

多田

昔から「目は口ほどにものを言う」とか、「目は全身をうつす鏡」などとよく言われます。今回は、全身疾患と眼とのかかわりについてお話しいただきますが、とりわけ、日本眼科学会ならびに日本眼科医会で啓発活動を行っているアイフレイルについて、お話しいただけるということです。

まずフレイルという言葉は、厚生労働省で開催された日本人の食事摂取基準(2015年版)策定検討会において、それまで脆弱性や衰弱と和訳されていたfrailty(フレイルティー)の形容詞、frail(フレイル)を名詞として使おうと提案されました。その際、フレイルには、肉体的フレイルや精神・心理的フレイル、社会的フレイルなどがあるといわれましたが、アイフレイルはなかなか興味深い状態です。アイフレイルとはいかなる状態をいうのでしょうか。まず、わが国における、アイフレイルに陥っているといわれる方々の発生頻度についてうかがいたいと思います。

杦本

フレイルといいますと、体全体が弱ってくるのではないだろうか、ということを皆さまはご存じではないかと思います。私たちは生きていく中で、80%の情報を目から得ているといわれています。この目が障害を受けることで、様々な機能が低下していきます。

そこで私たち日本眼科医会ならびに日本眼科学会では、目をいかにしていい状態に保つかということに立ち返り、アイフレイルという状態を定義しました。加齢に伴い、目の脆弱性が増加すること、さらに病気や、その患者さんの体の事情などの内的要因が加わることによって視機能が低下する状態、そのリスクが高い状態をアイフレイルと定義しました。

アイフレイルというのは非常に範囲が広いものです。日常生活で何となく見えにくいな、ちょっと困ったなというところから、視機能を脅かされ日常生活にも支障が出るような状態まで広く含んだ概念です。アイフレイルの発生頻度はなかなか定義しにくいのですが、失明原因に至るような患者さんは、だいたい200万人に至るのではないかといわれています。そこに至らないようにするための広い枠組みがアイフレイルです。

しかし、アイフレイルという言葉に関して「気にされていますか」というアンケートを取ったところ、なんと50代以上の7割の方が気にされているということでしたので、それなりに裾野は広い状態ではないかと思います。

多田

アイフレイルによる健康寿命の短縮も話題となっていますが、その関連性を教えていただきたいと思います。

杦本

目がどんどん弱ってくると見えにくくなってきます。それによって、転倒したり、病院で処方された薬がわかりにくくなったりしてしまう、食事をしていても何を食べているかわかりにくくなってしまう。こういったことが起こってくると、その方の暮らしの質はどんどん落ちてしまいます。

その後、様々な日常生活が困難になる。こういった原因、いわゆる健康寿命の短縮というところにも、アイフレイルという状態は密接に関連しています。

多田

当然ではありますが、アイフレイルには老化が強く関連していると思います。その他、原因となる疾患があると思いますが、いかなる疾患が関連していると考えればよいでしょうか。

杦本

アイフレイルの初期は、本当に少し疲れやすいな、見えにくいなといったことから始まることが多いのですが、実は緑内障という見える範囲が徐々に狭くなる疾患や、視機能の中心である黄斑部が障害を受ける加齢黄斑変性といった疾患の原因となることがあります。

アイフレイルは、早い時期に診断をつけることで、こういった疾患につながる厄介な病気が見つかることがあるので、非常に重要といわれています。

多田

生活していて、ちょっと見え方が変だとか、ちょっと視力が落ちた、もやがかかっているようだという段階で、すぐ眼科医に相談する姿勢が大事なのでしょうか。

杦本

おっしゃるとおりで、お近くの眼科を受診し、そういった症状を伝えてください。

また「アイフレイル」とインターネットで検索していただきますと、アイフレイルに関するホームページに行くことができます。その中には、簡易的に視力や視野を評価するようなアプリもありますので、ぜひ一度お試しください。

多田

そういう状況の中で、眼科医が一丸となってアプローチしている現状があるということでしょうか。実際的な対策活動のコンセプトについて、もう少し具体的に教えていただけますか。

杦本

これらのアプリも機械なので、なかなかはっきりとした診断ができないことがあります。それも含め、やはり見えにくい。両目で見ると大丈夫だけれど、右目と左目をそれぞれ交互に隠して片方で見ると見えにくい場合は、病気が隠れていることがあります。

このような場合には、躊躇せずにお近くの眼科を訪れてください。例えば眼鏡を作り直す、目薬をしていただく、それだけですごく症状が緩和されることがあります。ぜひ一度、近くの眼科医にご相談ください。

しかしながら、中には実際に疾患が見つかり、視覚障害に至ってしまう患者さんも多数いらっしゃいます。日本における失明原因の第1位は緑内障、第3位が糖尿病網膜症です。そのほかにも加齢黄斑変性など様々な重篤な疾患があります。こういった病気で残念ながら視機能が低下してしまった場合、それでも残った視機能をしっかり生かして使っていくために、例えば拡大鏡やルーペ、タブレットを使って、残された視機能をいかに使いやすくしていくか。こういったことを私たち眼科ではロービジョンケアというかたちで実践しています。

これに関しても、ロービジョン専門のケアを行っている施設もありますので、疾患が進行してしまった患者さんは、失望せずに、今残っている視機能をいかに生かすのか、私たちが相談に乗らせていただきます。ぜひお声掛けください。

多田

ありがとうございます。あと内科に関連する疾患もそうですが、私ども医師だけではなかなか病気を治せないということで、看護師や管理栄養士、保健師などいろいろな方々との連携で動いています。アイフレイル、または今先生がおっしゃったロービジョンケアに関して、どういう取り組みといいますか、アプローチをされていますか。

杦本

ロービジョンケアに関しては、視機能を検査してくれる視能訓練士という国家資格を持ったスタッフがいます。そういった方々は、患者さんが果たして何に困っているのか、字が見えなくて困っているのか、外出する際に困っているのか、ニーズによっていろいろな引き出しがあります。適切な補装具や、社会サービスについて各患者さんに合わせて提案をさせていただきますので、ぜひご相談ください。

多田

医療保険としてのサポートは何かありますか。

杦本

アイフレイルに関しては、残念ながら、現時点での保険的なサポートはありません。

多田

保険病名ではないからでしょうか。

杦本

そうなんです。しかしながら、例えば何か見えにくいなと思った場合に、ドライアイや、角膜、黒目が障害を受けるような疾患もありますので、そういったものに対する検査、そして点眼処方は、治療となりますので、きちんと保険でカバーされます。

眼鏡に関しても、屈折異常があった場合、一般的な検査は保険で行われます。眼鏡の作成に関しては残念ながら、保険適用とはまた別個ですが、私たち眼科が行っている診療、検査、投薬など、アイフレイルに絡んできたものに対してのサポートは、きちんと保険でカバーされますので、ご心配なさらないでください。

多田

そういうわけで、少しでも目の調子がおかしいと思ったら、まず眼科医に相談するということですね。そして適切な指示を仰いで、ご自分の生活を守るというか、目を守っていくことが大切であるということでしょうか。

杦本

おっしゃるとおりです。

多田

あと、これまでのお話に付け加えることがありましたら、教えていただきたいと思います。

杦本

毎年10月10日は目の愛護デーとなっております。「1010」を横にすると目の形に見えることから、この日を定めています。2024年も全国各地で様々なイベントが催されておりました。東京でも新宿で大きなイベントがあったとうかがっています。毎年催されますので、ご興味のある方はぜひお集まりください。

多田

たいへん大切なことですが、なかなか今まで捉える機会がなかったアイフレイルに関して、細かく教えていただきました。ありがとうございました。