ドクターサロン

池脇

リンパ浮腫の質問をいただきました。日常診療でなかなかリンパ浮腫には遭遇しませんが、実は診断がついていない可能性もあるような気がしています。

リンパ浮腫の基礎的なところから治療までを先生に解説いただきますが、まずリンパ浮腫はどのような病態なのでしょうか。

リンパ浮腫というのは、組織液の一部であるリンパ液がうまく流れない状態で溜まっていることで、多くは四肢に溜まってしまうため、上肢リンパ浮腫や下肢リンパ浮腫が疾患として多く見られる状態です。

リンパ液自体は、細胞と細胞の間にある間質液の一部ですが、比較的大きなアルブミンやリンパ球などの構造物を運んでいる液体です。

池脇

動脈から毛細血管、そして静脈で戻っていきますが、末梢から中枢へのリンパ液の流れも、それなりの役割を担っているのですね。

そうなのです。リンパ管というのが体全体に巡らされていて、足であれば足の先から、まずは鼠径部のリンパ節までリンパ管が走っています。膝の裏にもリンパ節はありますが、最初にリンパ節に入った後、またそのリンパ節から輸出リンパ管というのが出ていて、鼠径部から腹腔内のリンパ節を経由し、おなかの中で腸からのリンパ液も吸収する。そこを乳び槽といいます。そこから徐々に上がってきて、胸管を通って最終的なリンパ液のゴールである左の鎖骨下静脈に入ります。ここを静脈角といいます。ですから、リンパ液は最終的には静脈内に流れていく液体です。

池脇

それがある原因によってリンパ液の流れが止まってしまい、うっ滞が起こることがリンパ浮腫だと考えてよいですか。

はい、そのとおりです。

池脇

リンパ浮腫の原因はどうでしょうか。

日本を含む先進国で一番多いのは、がんの術後、がんの治療によるリンパ浮腫です。これは先ほどお話ししたリンパ節ですね。婦人科がん、泌尿器がんなどで腹腔内のリンパ節を郭清(かくせい)することで、リンパ液の流れがそこで途絶えて足にむくみが来てしまう状態です。乳がんでは腋窩(えきか)リンパ節郭清によってリンパ液の流れが途絶えてしまったことによって、徐々にリンパ浮腫が生じてくる。先進国では原因として一番多いです。

池脇

全体の何割ぐらいががんによるリンパ浮腫だと考えられているのでしょう。

一般的には9割ぐらいといわれていますが、実はこの続発性リンパ浮腫、がんの治療などの原因が外傷であったり、放射線治療を行ったり、もしくは最近はリンパ管に障害を与える抗がん剤がありますので、そういったものの治療の後にも生じることがわかっています。

池脇

確かに外科医は、がんを治療するにあたってがんの病巣以外にリンパ節を取るので、リンパ液の還流障害が起きるのは当然といえば当然ですね。

また放射線治療もリンパ節などに対しては障害的に働くのですか。

はい。リンパ節やリンパ管自体にダメージが及びますので、流れが悪くなってしまいます。リンパ液自体は老廃物を含んだ液体なので、それが流れずひとところに滞まると、組織に炎症を起こしてきます。リンパ管だけではなくて、周りの脂肪組織自体も変性し、さらにリンパ管が傷んでしまう。これを私たちはリンパ管硬化と呼びますが、リンパ管が硬化して機能が落ちてくると、よりリンパ液が流れなくなって、さらにリンパ浮腫が進行するという悪循環に陥ります。

池脇

がんの手術をして、直後からリンパ浮腫が出てくる方もいれば、時間的にちょっとずれて出てくる方もいます。発症の時間差はあるのですか。

リンパ管の機能自体、個人差がかなり強く、リンパ液のルートも人によって違いますので、おそらくリンパ節郭清で全部取ってしまっても、リンパ浮腫がなかなか発症しないという方もいます。

一方、リンパ管のもともとの機能が弱い方だと考えられますが、がんの手術でリンパ節郭清をして、直後にリンパ浮腫が生じる方もいますし、一番多いのは1~2年以内でのリンパ浮腫発症です。

池脇

がんで紹介をして、紹介先で手術をして全部取り切れましたと、逆紹介で診ていく中で、足が腫れてくるということもあるのですね。

そうですね。実は足の場合は、婦人科がんの手術などで治療された後、通常は骨盤周囲からの浮腫が生じています。なので、患者さんは骨盤の周りがちょっとむくんでいる、左右差があるといったことから始まり、鼠径のリンパ節がある程度傷んでくると、太もも、大腿の上のほうに浮腫が起きてきて、徐々に徐々に下がってくるのが一般的です。

池脇

先生方はがん手術の既往がある場合、リンパ浮腫は基本的に片側性の疾患だと考えておられますか。

がんの術後、最初は片側性ですね。しかし、浮腫が進行してくると両側性に進行してくる方もいるので、必ずしも片側ではないのですが、多くの方は片側性で、左右差がリンパ浮腫の見分け方の一つになるかもしれません。

池脇

リンパ浮腫の診断がついた後の治療ですが、基本的にはすぐに手術するよりも、手術以外でできる治療をしますよね。どのような治療があるのでしょうか。

今までは手術という治療も一般的ではありませんでした。リンパ浮腫の患者さん自体は世界中に数億人いるといわれているので、スタンダードな治療としては理学治療です。現在では複合的治療といわれていて、その中でも一番大事なのは圧迫療法です。圧迫をすることによって浮腫の溜まるスペース、リンパ液が溜まるスペースを潰します。そしてスキンケア、圧迫下での運動療法、あとは用手的なリンパドレナージです。これは患者さんが行うセルフドレナージと、専門家のセラピストが行う専門的なドレナージがあるのですが、特に専門的なドレナージは治療効果がエビデンスとしても得られています。

池脇

リンパ液の流れが滞っているところをいろいろな方法でスムーズにしてあげるという治療で、これによって改善して、それを維持できるというケースもあるのですね。

中にはありますが、リンパ浮腫が発症してしまうと、リンパ液が溜まっている状態ですので、リンパ管は必ず変性していきます。そうすると、徐々に、階段状に悪くなってしまいます。ここが難しいところで、ある程度治療で改善している、悪くなっていないと思うことが続きますが、あるとき突然、少し状態が悪くなる。そしてまた少しの間、そこで留まるかと思っているとまた悪くなるという繰り返しのため、気づくのに少し遅れてしまうのが大きな問題です。

池脇

そうすると、複合的な治療は、進行を止めるというよりも進行をなだらかにするイメージで、ある程度まで行ってしまうと手術療法になるのでしょうか。

そういった方が実際は多いです。保存的療法に抵抗してしまってなかなか治療がうまくいかないので、外科療法をすすめる方もいますが、実はリンパ管の流れが破綻している時点で外科治療が適用になってきます。

池脇

まさにこういうところで形成外科医が手術をされるのですが、どういう手術が主流なのでしょう。

現在、日本での主流は、リンパ管細静脈吻合術というリンパ管と静脈との流れを作る治療になります。

池脇

これは、一般的な外科医の手術の視野とは違って、ミクロな世界なのですよね。

そうです。通常我々が扱うリンパ管は0.2~0.7㎜ぐらいが多いです。もともとリンパ液の流れは最終的に首の付け根で、静脈角で左鎖骨下静脈に入るのですが、そこまでたどり着いていないリンパ液を末梢で静脈と直接吻合し、バイパスを作るのがこの手術です。

池脇

どこのリンパ管とどこの静脈をつなぐかという位置的な情報をどうやって把握するのでしょうか。

リンパ管の場所を解剖学的にも私たちは詳しく知っていますが、今はICGリンパ管造影というものがあります。リンパ管からしか取り込まれない肝臓の検査で使うインドシアニングリーンを皮膚や皮下に打つことで、リンパの流れ、リンパ管の部位や、逆に皮膚のどこにリンパ液が溜まっているかもわかり、それを参考に手術をすることが多いです。

池脇

確かに、先生方の手術の手技は絶対条件かもしれませんが、ICGを使ったリンパ管の解剖学的な位置を把握しないことには、先生方の技術を生かせないような気がします。これは必要不可欠と考えていいのでしょうか。

基本的に手術においてこの検査は必要不可欠です。

池脇

そして、それをうまくつなげたら、それなりの効果が期待できるのですか。

やはり浮腫の進行を止めることが一番重要だと思っているのですが、進行を止めることにおいては、9割以上の効果は得られると思っています。

池脇

細いもの同士を吻合したら、最初はいいけれども、どこかで潰れてしまうことはないのでしょうか。

それもあり得ますので、それが潰れづらい、リンパ液の流れが良いところでつなぐというのが一つ重要になってきます。

池脇

リンパ管細静脈吻合術は、基本的には足でも腕でも全身のどこでも適用できると考えていいのですね。

はい、浮腫のある場所全体で可能です。

池脇

先生方は最終的に手術療法という手段を持っておられるので、あとは早く診断していただく、あるいは診断の前に紹介していただいて、早期に治療に結びつけるのが大事ですね。

実は早期の患者さんほど治療効果も高いことがわかっていますので、できれば患者さんが重症化する前にご紹介いただいて、しっかり専門医に見ていただくのが重要だと思っています。

池脇

過去にがんを経験されて、ちょっとどこかがむくんできたというときにはリンパ浮腫を念頭において、状況によっては早めに形成外科医に送っていただくということですね。

はい。それがすごく重要なことだと思っています。

池脇

どうもありがとうございました。