ドクターサロン

池田

IgEをつくる分子機構、あるいはIgEを介した交差反応性をきたした疾患について質問がきています。口腔アレルギー症候群やポークキャット症候群などの交差反応を背景に発症するアレルギー疾患についてうかがいます。まず口腔アレルギー症候群とはどのようなものでしょうか。

千貫

口腔アレルギー症候群とは、原因食物を食べた際に、口腔咽頭粘膜のチカチカ感、イガイガ感を発症して、そこにその食物に対する特異的IgEが証明できれば、口腔アレルギー症候群となります。ただ、口腔咽頭粘膜のチカチカ感、イガイガ感から発症しても、進行すればアナフィラキシーショックに至ることもあります。この代表的な食べ物が、魚類や甲殻類であり、また果物類や野菜類は主に花粉症に交差反応をして発症する食物アレルギーとして、その主症状が口腔アレルギー症候群であったりします。

池田

魚類などは別にして、花粉の成分と食べ物の成分が似かよっているということでしょうか。

千貫

はい、おっしゃるとおりです。

池田

例えば花粉にもいろいろありますが、やはりスギ花粉が多いのでしょうか。

千貫

スギ花粉に交差する食物アレルギーは、実はそんなに多くはなく、これまでにトマトが報告されていましたが、最近ではgibberellin-regulated protein(GRP)というタンパク質が原因の、主にバラ科の果物アレルギーがスギ花粉症と交差することが、トピックスとして世界中で報告されています。

池田

バラ科とおっしゃいますが、どのようなものがありますか。

千貫

モモや梅、サクランボといったものがバラ科になります。

池田

これがスギ花粉との交差反応性なのでしょうか。

千貫

はい。これは近年、報告され始めた交差反応なのですが、このGRPというタンパク質が熱安定、消化耐性のため、加熱しても防ぐことができず、重症タイプのアレルギーを起こすことがわかってきています。スギ花粉症、つまりヒノキ科花粉に交差する食物アレルギーとしてのトピックスとなっています。

池田

特にモモなどは加熱しませんよね。

千貫

ピーチパイなどがあります。

池田

ピーチパイですか。加工されているものでも起こるというのはちょっとピンときませんね。

千貫

そうなのです。最近では、例えば梅干しを食べてアナフィラキシーショックという報告もあるぐらいで、その原因がスギ花粉であろうとなってきました。

池田

それもピンときませんよね。なぜ梅干しで起こるのかという感じですが。

千貫

そうなのです。スギ花粉から梅干しアレルギーがくるというつながりが皆さん想定外なので、なかなか報告がなかったのですが、最近ではそういうことがわかってきています。

池田

なるほど、興味深いですね。それから次のポークキャット症候群というのはどのようなものなのでしょうか。

千貫

ポークキャット症候群とは、ネコの血清アルブミンに経気道的に感作された人が、交差反応のために、豚肉の血清アルブミンに反応して、豚肉アレルギーを発症してしまう疾患です。

池田

経気道的というのは吸い込むということでしょうか。

千貫

そうですね。血清アルブミンは血清中にだけあるわけではなくて、ネコの上皮などにももちろん含まれますので、そのフケや皮膚片、毛を吸い込んで、感作が起こるとされています。

池田

一般的な食べ物の考え方として、例えばアトピー性皮膚炎は、皮膚を通していろいろなアレルゲンが入ってきて、食物アレルギーという考えがありましたが、この場合は経上皮というか、経気道的に来るのですね。

千貫

はい。ただ私の経験したポークキャット症候群の方々は、全員ベースにアトピー性皮膚炎がありましたから、経皮が完全に否定できるわけではないと思います。もともとポークキャット症候群はアメリカやフランスから多く報告されており、その段階から経気道感作であろうという説が定説となっているので、経気道と考えられています。

池田

どのような症状になるのですか。

千貫

蕁麻疹も起こりますが、私の印象としては呼吸困難、喘鳴などが起こることも多いです。

池田

消化器症状があるならわかるような気がしますが。

千貫

腹痛、下痢、嘔吐の消化器症状も出ますが、皆さん症状がばらばらで、食物アレルギーで見られる症状が人によって、感作の強さによって異なって出現する感じです。

池田

それではまったくわからないですね。診断は疑うしかないということですね。

千貫

そこです。しかも、血清アルブミンで熱変性するため、十分火の通った豚肉は問題なく皆さん食べられるのです。なので、生ハムなどが特に危険で、症状を発症しやすいのが、ハムやソーセージなどの燻製品です。

池田

そういうことなのですね。

千貫

だから見逃されてしまうのです。

池田

いろいろな調理法があるのでしょうから、症状が出たり出なかったり、これはわけがわからない状態ですね。

千貫

本当にそのとおりだと思います。

池田

もう一つの質問ですが、交差反応性といいますと、先生方が報告されたマダニ刺症と関係する赤肉アレルギーといったものも聞いたことがありますが、どのようなものでしょうか。

千貫

これはアルファガル症候群といいますが、マダニの唾液中にアレルゲンのα-Galという糖鎖が存在して、気づかないうちにマダニに繰り返しかまれた方々がα-Galに感作され、その後、非霊長哺乳類肉にα-Galが含まれているので、お肉を食べた際にアレルギー、アナフィラキシーを起こしてしまいます。ただ、これがお肉を食べてから3~6時間の時間がかかって、蕁麻疹やアナフィラキシーが起こるために、これまたわかりにくいのです。

池田

通常、即時型というと15分とか30分ですよね。そうではないのですね。

千貫

遅発型食物アレルギーです。

池田

よけいにわからなくなりますね。

千貫

そうなのです。食物アレルギーの世界は今、複雑です。

池田

それで今回の質問ですが、こういった交差反応性を示すアレルギー疾患で、なりやすい方、あるいはIgEをつくりやすい方はわかっているのでしょうか。

千貫

質問の中に、遺伝子多型上の特徴についてと記載されていたと思います。まず、食物アレルギーと遺伝子多型上の特徴についてですが、2025年、ヨーロッパの代表的なアレルギー誌『Allergy』にレビューが掲載されました。このレビューでは、食物アレルギーに関するゲノムワイド関連研究(GWAS)の結果に焦点を当てています。これらの研究では、ゲノムワイド有意性を示す16の遺伝的変異が同定されて、その多くは喘息やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など、ほかのアレルギー疾患と重なることが示されています。

実は日本からも、私たちの研究グループが報告しています。加水分解コムギによる経皮感作型小麦アレルギーを覚えていらっしゃるでしょうか。せっけん中の加水分解コムギで感作された方々が交差反応のために小麦アレルギーを発症した事例です。

池田

あれはせっけんの中に加水分解コムギの抗原があったのでしょうか。

千貫

そのとおりです。

池田

それが皮膚を通して感作されたのですよね。

千貫

そうです。当時私たちはGWASを行い、小麦アレルギーになりやすいHLA型として、HLAのDQB1*03:02と、DQB1*03:03を報告しました。また、ω-5グリアジンが原因のタイプの小麦アレルギーをご存じでしょうか。あちらは、おそらく経腸管感作型と考えられるのですが、このω-5グリアジン特異的IgEが陽性になるタイプの古典的な小麦アレルギー、成人小麦アレルギーの方々についてもGWASを行い、このタイプの小麦アレルギーになりやすいHLA型として、HLA-DPB1*02:01:02を報告しました。

つまり、疾患感受性遺伝子がどうやら食物アレルギーにありそうだということがわかっています。

池田

その食物アレルギーを起こしやすい方というのは、やはりIgE応答が高い方ということでしょうか。

千貫

そうですね。ただ、例えば経腸管感作型のω-5グリアジン型の方々が、総IgE値が高いとか、あらゆるアレルゲンに感作されやすいということは特にないので、タイプによって異なると私は思っています。

池田

そういうことですね。そういう方は特異的IgEが関与しているのでしょうか。

千貫

そうですね。

池田

総IgEを見ても、それほど高くはないのですね。

千貫

はい。おっしゃるとおりです。

池田

ひとことで遺伝子多型上の特徴と申し上げても、先生方が報告されたHLAのタイピングなどがあると思いますが、これは世界的には行われていないのでしょうか。

千貫

世界的にも幾つか研究報告がされていまして、例えば2018年の『Scientific Reports』の論文では、1万1,011人の日本人女性から得られたデータを用いた、自己申告による一般的な食物への反応性を対象としたGWASの結果で、エビアレルギーやモモアレルギーと強く関連するハプロタイプなどが報告されています。これらの一部は、もしかするとエビであればトロポミオシンの交差反応で、モモであれば花粉食物アレルギー症候群の交差反応に関係しているかもしれません。

池田

なるほど。とても興味深いデータですね。それもある程度、民族で異なる場合と一致する場合があるということでしょうか。

千貫

民族に関しては、例えば薬剤アレルギーではGWASが進んでおり、臨床応用なども台湾では実施されています。民族によってアレルギーになりやすいHLA型がかなり異なることもわかっているので、民族ごとに調べなければ最終的には有意差が得られない可能性もあり、複雑ですね。

池田

それこそ交差反応性を示すアレルギー疾患も、その民族的背景も複雑だということですね。

千貫

おっしゃるとおりです。

池田

ますますのご研究の発展を祈念しております。ありがとうございました。