ドクターサロン

池脇

難聴の補聴器ですが、Apple社からそういうものが出ています、それに関して教えてくださいということです。まず補聴器を理解したうえで新しいデバイスの解説をいただきたいのですが、補聴器の基本的なことを教えてください。

岡本

補聴器は、耳にかけるタイプだったり、耳の穴に入れる耳栓型、耳穴型と言いますが、そういうものが皆さんのイメージの中にあると思います。補聴器自体にマイクが付いていて、入力音を増幅して、スピーカーで外耳道に音を伝えるのが一般的に想像できる補聴器になります。

補聴器の中には特殊な形もあって、軟骨導補聴器のような耳介軟骨を振動させて音を増幅するものや、骨導補聴器といって眼鏡のツルのところに振動子が付いていて、その振動子で骨に直接振動を与えて聴くタイプなどがあります。

池脇

視力、聴力は加齢の影響を受けやすい感覚器なので、難聴の方は、日本を含めて世界的に増えていますか。

岡本

そうですね。難聴の中にも、内耳が悪くなるような感音難聴と、鼓膜も含めて中耳が悪くて難聴になる伝音難聴とに大きく分かれますが、基本的には補聴器はどのタイプでもカバーできます。ただ、難聴の中にも低音域側が悪い方や老人性難聴のように高音域側が悪い方など、聴力の型というのは人によって様々なので、聴力検査をしないと、結局どういう難聴でどういう補聴器が必要で、どういう音を出してあげるのがいいか、しっかりとは決まりません。

ただ一般的に老人性難聴のような、基本的には中等度難聴の方たち、45dB以上もしくは50dB以上の方はなるべく補聴器をしましょうという流れが今のところのイメージですね。

池脇

難聴の方は増えていますね。加齢性の場合、なかなか改善が難しいとなると、補聴器が必要になってきます。

質問のApple社のAirPods Proは、iPhone、iPadと連携して、「軽度難聴のための補聴器」とのことです。初めて聞きましたがどういうことでしょうか。

岡本

正しくは補聴器ではないので、一種のイヤホンだと考えてよいかなと思います。ただApple社の中で医療用という概念で捉えるべきものは、iPhoneに内蔵の「聴覚」というジャンルの中の、AirPods Proを使って聴力検査をするというところに医療用の意味があって、実際はそれを基本としてイヤホンから音を出しているので、補聴ができるイヤホンなのです。そこに難聴の程度や、耳鳴りを改善させるなどの機能をiPhone自体にもたせているところが特徴的です。

池脇

普通の補聴器とは違うという解説をされましたが、どこが違うのかはなかなか難しいですね。集音するマイク、増音して聴かせるという補聴器の基本的なものとは違うということなのですか。

岡本

そうですね。今の日本耳鼻咽喉科学会の推奨では、補聴器というのは、医療機関できちんとした聴力検査をした後にその聴力に合わせて出力を決めるのが基本になっています。ただ、一方では必ずしもそうではないという流れが通信販売でも買えるOTC補聴器で、これらも含めて、最近はだいぶ普及し始めています。その中で、AirPods Proを使ってiPhoneでセルフで聴力検査ができるようになったところが一つ特筆する部分なのだろうと思います。

池脇

確かにiPhoneのアプリを開くと、「聴覚」というのがあります。ここでAirPods Proと組み合わせることによって、定期健診でやる聴力テストが自分自身でできるということですか。

岡本

そうですね。あくまでもこれは医療機関で行っているものではないので、本当の意味での正確さではないとは思いますが、一つは「ヘルスケア」というアイコンをクリックすると、その中の「聴覚」というところから「ヒアリングチェック」というのがあって、そこでチェックをしていただくと、いわゆる病院で行うような、125Hzから8kHzまでの自分の聴力検査ができます。これを基にAirPods Proのほうで出力を決められるのが補聴器っぽいところです。

池脇

その検査の結果に基づいて、その方の弱いところをAirPods Proが補ってくれるのですか。

岡本

そうですね、補聴するという感じですね。

池脇

結果として聞こえやすくなるのですね。

岡本

はい。また、補聴器という使い方以外に、雑音の多いところではiPhone本体に入っているマイクを使うライブリスニングというのもあります。つまり、iPhoneのマイクを通して外部の音を入力して、AirPods Proで聴く。そういうかたちの補聴システムの使い方もできます。

池脇

基本的には高度の難聴の方ではなく、比較的軽症の方に向いている。質問の適応のところですけれども、そういう理解でよいですか。

岡本

そうですね。おそらくは中等度難聴ぐらいが限界で、軽度、中等度ぐらいがちょうどよく、高度、重度の難聴の方はおそらくは難しいと思います。

池脇

一般的な補聴器は、中等度程度に進行した難聴の方たちが対象ですが、AirPods Proはより早期から使って、効果もあると考えていいのでしょうか。

岡本

難しいところですね。効果という点でいうと、補聴器にはまったくかなわないかと思うのですが、例えば騒がしい中でAirPods ProをしてiPhoneをマイク代わりに聴くというライブリスニング機能は非常に有効だと思いますし、音楽を楽しむときに自分の聴力に合わせて、例えば左右がすごく違うとか、聴力型で中音域だけが落ちているような方は、AirPods Proがあれば、何とかそこは調整をしてくれて聴きやすくなるという意味があるので、趣味で楽しむ分にはすごく有効です。ただ補聴という点でいうと、補聴器にはかないません。

池脇

専門医からすると、これが補聴器に取って代わるものではないですが、日本はiPhoneユーザーも多いので、そういうものがあるのだったら使ってみたいと思う方もいるのでしょう。どういう方にお勧めでしょうか。

岡本

最近は年配の方でもスマートフォンには慣れてきていらっしゃいますので、スマートフォンを持っていない方でなければ、すんなりと使えるのかなと思います。あとは、使う場面がどういうところかは、かなり個人差がありますので、一回自分で使ってみてどうかを、皆さん一人ひとりが試していただくのがいいかなと思います。

池脇

確かにiPhoneを持っている方でしたら、AirPods Proを試して、聴こえるようになったら使っていただく。そうでない場合には従来の補聴器ということでしょうか。

岡本

そうですね。基本はそこだと思います。

池脇

革新的なものが出たなと思いましたが、限界もあることを承知して使っていただくということですね。

岡本

ただ、聴覚に対する皆さんの意識がかなり身近になってきているという意味では、とてもよいことなのかなと思います。

池脇

どうもありがとうございました。