池田
口内炎は、どのような疾患が原因で起こるのでしょうか。
菅原
口内炎が口腔内にできる全身的な疾患としては、まず感染症があるかと思います。感染症の中でも細菌感染、そしてウイルス感染があります。それ以外では炎症性疾患、そして自己免疫疾患が、全身的な疾患による口内炎の原因の一つだと考えられます。
池田
それぞれお話をうかがいたいのですが、まず細菌、ウイルス感染症とは、具体的にはどのような疾患なのでしょうか。
菅原
細菌感染症では結核、性感染症である梅毒の2つが、口腔内に潰瘍、口内炎を作る代表的な疾患かと思います。
池田
ウイルスではどのような疾患が含まれるのでしょうか。
菅原
ウイルスの疾患では単純疱疹、そして帯状疱疹、そのほかにはヘルパンギーナや手足口病といわれる疾患があります。
池田
こういったウイルス疾患はコロナ後にとても流行し、年齢に関係なく罹患する方は多いですよね。ですから、成人でも頭の隅におかなければいけないと思います。
炎症性ですと、どのような疾患があるのでしょうか。
菅原
炎症性疾患ではクローン病があります。成人に発生する、口腔から肛門までの消化管のあらゆるところに出てくる潰瘍、線維化を主体とする炎症性疾患ですが、口腔内症状として口内炎が出る方が10~30%ほどいるので、口腔内の潰瘍、口内炎からクローン病が見つかる方もいます。
池田
特に口腔内に最初に出たときはわかりませんね。
菅原
そうですね。口腔内、咽頭部を確認し、治りづらい口内炎を見つけたときには、消化管の症状など患者さんに聞いていただくのも、クローン病を発見するうえでは重要ではないかなと思います。
池田
それから、自己免疫性のものには、どのような疾患があるのでしょうか。
菅原
ベーチェット病は口内炎、潰瘍を必発する疾患かと思います。クローン病よりも多くの方、ベーチェット病の98%ぐらいの方に口腔内症状が必発するといわれていますので、繰り返す難治性の口内炎ではベーチェット病を考えることも必要になります。
ただ、ベーチェット病であれば、それ以外に目、皮膚、そして外陰部の症状がありますので、そちらも問診や視診、触診などで見つけることができれば、ベーチェット病に結びつくと考えます。
池田
その他、自己免疫の疾患で口腔内にびらんなどができる病気はあるのでしょうか。
菅原
そうですね。口内炎というよりはびらんに近いと思いますが、難治性のびらんを形成するものとしては、尋常性天疱瘡や類天疱瘡といわれる自己免疫疾患があると考えます。
池田
かなりたくさんの種類の疾患が考えられますね。ですから、口腔内症状にプラス、それぞれの特異的な症状を見ていくことになりますね。
いろいろな疾患を挙げていただきましたが、頻度的に高いのがやはりアフタ性口内炎になると思います。アフタ性口内炎がどうしてできるか、歯科領域ではわかっているのでしょうか。
菅原
アフタ性口内炎の明らかな原因は、一般的に不明であるといわれていますが、やはり局所的な問題です。歯科の問題ですと、例えば、う蝕や鋭利な歯、あとは不良補綴物といわれるような合っていない入れ歯や、かぶせ物、詰め物。あとは歯列の不正、歯並び自体が問題で、口の中に傷がつきやすく、慢性的な刺激が起きることで粘膜にアフタ性口内炎ができることがあると思います。
それ以外では悪習癖、弄舌癖(ろうぜつへき)といわれたり、唇を噛むような癖があると、そこに刺激が加わるので、アフタ性の口内炎につながるかと思います。
池田
それから、口内炎ができやすい場所が決まっているような方もけっこういますよね。何か原因があるのでしょうか。
菅原
歯並びが原因で頰粘膜を噛んでしまうこともあると思うのですが、特に口内炎ができる方で多いのは、舌(ぜつ)だと考えます。舌に関しては、歯科の「噛む」という行為の専門的なことになってしまうのですが、主機能部位といわれる部位があり、誰しもがまずご飯を食べるときに一口目をどこで噛むかという癖というか、噛みやすいところを持っています。噛んだときにはそちら側に舌が動くので、主機能部位といわれるところの多くは、第一大臼歯といわれる6歳臼歯の位置ですが、そちらにう蝕や不適合な補綴物があると傷つきやすい。一回一回ナイフで切られるような刺激ではないですが、摩擦が何回も何回も慢性的に繰り返されることで口内炎を形成することにつながると考えます。
池田
でも、患者さん自身はまったく自覚していませんよね。
菅原
そうだと思います。主機能部位は、検査の方法はありますが、それをするまでは、どこで噛んでいるかという意識をしながらご飯を食べている方はほとんどいないと思います。
池田
そういうことも繰り返す口内炎の原因ということですね。
この質問にもあるように、見落としてはならない口内炎というのはあるのでしょうか。
菅原
全身疾患の原因ではありませんが、口腔内は扁平上皮がんができます。舌であれば舌扁平上皮がん。局所の原因ではありますが、潰瘍型の扁平上皮がんもあるので、見落としてはならないと思います。見た目としては、一般的なアフタ性口内炎よりも潰瘍の周囲が膨隆していたり、周囲が硬結していたり、そういったところでの違いがあるかと思います。
あとは病悩期間ですね。口内炎は一般的には2週間以内には治っているはずなのですが、2週間以上も続くのであれば、悪性の変化も考えなければなりません。患者さんの問診で、病悩期間を確認することも非常に重要ではないかなと考えます。
池田
具体的にはどのくらい続いているかということと、見た目もそうですが、ちょっと手袋をして触ってみる。これも大切なことなのでしょうか。
菅原
非常に大切だと思います。一般的な口内炎、アフタ性の口内炎であれば硬いということはまずありませんので、触ってみて硬い、膨隆している、そして易出血性であれば、扁平上皮がんの可能性があると思っていただいていいと思います。
池田
それは見落としてはたいへんですね。そういったものがある程度、歯科的にも、あるいは悪性のものも除外できたら、今度はアフタ性口内炎として治療していくのですが、先生はどのような治療をされるのでしょうか。
菅原
口内炎ができていて長引いているという状態で我々の病院に来ていただいた方は、まずはその状況を見ます。治療としては、アズレンスルホン酸ナトリウムの含嗽薬をお出しして、うがいをしていただきます。この薬には抗炎症効果がありますので、炎症を治めることで症状が改善することがあると思います。
それと、ステロイドの軟膏や、ベクロメタゾンの噴霧するタイプのステロイドを使うこともありますが、口腔内の細菌はたくさんいます。さらに真菌であるカンジダがいますので、長引いている粘膜疾患の方にはカンジダの培養検査を行って、陰性所見を取ってからステロイドを使用するのが安全であると考えます。
というのは、もしカンジダ陽性の状態のままステロイドを使いますと、いったんはよくなるのですが、その後、菌交代現象が進んでカンジダが増えます。そうしますと、口腔粘膜の痛みがぶり返してくることにつながってきますので、長引く口内炎、治りの悪い口内炎であれば、カンジダの検査を行って、その後でステロイドを使用していく。それまでの間、何も治療しないかというと、患者さんも痛みがあると思いますので、アズレンスルホン酸ナトリウムでの含嗽が重要になってくるかと考えます。
池田
カンジダ陽性の場合の治療は具体的にどの薬を使われるのですか。
菅原
カンジダの治療は抗真菌薬になるかと思います。抗真菌薬は幾つか種類がありますが、我々はアムホテリシンBをよく使います。
ただ、少しずれてしまいますが、抗真菌薬は、DOACとの相互作用、併用禁忌がありますので、全身疾患も確認したうえでの処方が必要になるかと思います。
池田
先生はアムホテリシンBシロップでうがいをしてもらいますか。
菅原
アムホテリシンBシロップでのうがいや、ミコナゾールの錠剤を口腔前庭といわれる、上顎の歯肉と口唇との間に置いて徐放するタイプの薬も出ていますので、患者さんの口腔内の状況によって、使用します。あとは飲み込んでそのまま治療するということもありますが、その方の口腔内の状況、病識、全身状態も含めて薬の種類を選んでいます。
池田
質問にあるように、ビタミン剤の内服もよく行われるのですが、これについてエビデンスはあるのでしょうか。
菅原
私が知りうる限りでは、それこそ栄養の状態が非常に悪い時代においては、ビタミンB、Cの欠如によって口腔粘膜が荒れるということはあったかと考えます。現在は、補助療法的にビタミンBやCを内服することによって粘膜の状態を改善するために使われていると思います。
池田
現在の人々の栄養状態を考えると、メインではないけれども、補助的に使ってもいいということでしょうか。
菅原
そうですね。実際、ビタミン不足だけが原因のアフタ性口内炎はほとんどないので、副次的に補うという意味でビタミン剤を処方していただくというのは、患者さんの口腔粘膜を健全な状態にもっていくことにつながると考えます。
池田
がんなど、本当に見落としてはならない疾患がたくさんありました。アフタ性口内炎として治療するにも、細菌、真菌感染も含めて非常に複雑な状態ですので、難治な場合は口腔の専門医にお任せするほうが無難なような気がしました。ありがとうございました。