ドクターサロン

藤城

脂質異常症についてお話をうかがいます。初めに、昭和から令和への変化ということで、振り返る期間がかなりありますが、まず歴史的なお話を聞かせていただけますか。

中村

3期に分けてお話しいたします。第1期(黎明期)ですが、ご存じのように、血液の、あるいは生体内の脂肪には、コレステロール、リン脂質、中性脂肪、脂肪酸の4つがありますが、これらはすでに19世紀の終わり頃からわかっていました。胆石の中にコレステロールがある、卵黄の中にリン脂質がある、石鹸になるかならないかということで、脂肪酸、中性脂肪は見つかっていたのです。

しかも、それらの油が生体の中にあるためには、水との親和性がないと存在できないことから、タンパク質やリン脂質がその仲介役をしていることも、20世紀の初頭にはわかっていました。

しかも、その20世紀の半ば1950(昭和25)年あたりですが、フラミンガム調査が始まり、動脈硬化の一つの因子としてコレステロールが浮かんできました。それから第2期(進展期)が始まり、1985(昭和60)年ぐらいまで、測定機器が発達したり、あるいは同じコレステロールを測ってもA病院とB病院では違うということがないように、標準化できるようにしようという動きが始まります。また超遠心装置により0.96、1.006、あるいは1.019、1.063、1.210などの比重あるいは密度で分けて、カイロマイクロン、あるいはVLDL、IDL、LDL、HDLと分けられるようになりました。

さらにそれに伴い、電気泳動法も開発され、α-リポ蛋白、pre β-リポ蛋白、β-リポ蛋白と分けられ、しかもそれに付随して、アポ蛋白と呼ばれる脂質を取り巻くタンパク質、A-Ⅰ、A-Ⅱ、B、C-Ⅰ、C-Ⅱ、C-Ⅲ、Esなどがわかってきて、分子量なども含め、その働きもわかるようになったのです。

それに伴い、実臨床にはFriedewaldの式が計算でLDLコレステロールを換算できるようになりました。現在、先生方がご存じのように、総コレステロールからHDLコレステロールを引き、中性脂肪の値を5で割る際、中性脂肪はあくまでも空腹時である必要があることが1972(昭和47)年にNIH(米国国立衛生研究所)から発表されました。

さらにLDL受容体が1973(昭和48)年に発見され、それを通じてLDLコレステロールが代謝を受けることもわかってきました。

その2年後の1975(昭和50)年にα-リポ蛋白と冠状動脈の疾患、特に心筋梗塞が逆相関することがオーストラリアの医師から発表され、『The Lancet』に載りました。しかもその後リポ蛋白を沈殿法により、HDL、LDLのコレステロールを測るという簡易的な測定方法が開発されるようになり、1976(昭和51)年から、スタチンの開発に伴って行われるようになったのです。

日本でも、NIHとの共同で、人種差があるかどうかを検討しようと私たちが協力してNIHの方策を利用し、HDLを測り始めて結果を日本で初めて発表しました。ただ、この際、私たちとしては、今まで悪さをしているとばかり思っていたトータルのコレステロールの中に、むしろ逆相関をするHDLがあるということで、患者さんにどう説明するかを考え、悪玉LDL、善玉HDLという、「悪玉」「善玉」という言葉を患者さんへの啓発のために初めて使い始めたのです。

次の第3期(臨床介入期)ですが、臨床的な介入試験が主に行われるようになり、1984(昭和59)年に、コレスチラミンという陰イオン交換樹脂を使ってLDLを抑えると、確かに虚血性心臓病の死亡ならびに発症率が減ってくることが報告されて、以後、介入試験が活発に行われるようになりました。1994(平成6)年にシンバスタチンを使ったスカンジナビアで行われた4S試験という二次予防についての研究が発表され、その1年後、プラバスタチンを使った、イギリスのグラスゴーの調査であるWOSCOPS(West Of Scotland Coronary Prevention Study)が発表されました。

それに伴い、日本人はどうかということを厚生労働省ならびに製薬会社(当時の三共)が興味を持つようになりました。厚生労働省からの研究資金ならびに学会、三共の応援をいただき、私が主任研究者としてメガスタディという、一次予防のスタディを日本で始めたのです。全国の医師の協力を得て約7,000の例を5年間追跡し、AHAのLate Break ingの発表を経て2008(平成20)年になりますが、『The Lancet』に報告をしました。

それを土台に日本でもガイドラインが出されて、LDLコレステロール(㎎/dL)は120以下、あるいはその後のガイドラインで100以下、70以下とどんどん下げるようになってきました。トリグリセライドに関しては、空腹時150㎎/dLというリミットが置かれ、最近は随時採血で175㎎/dLとなっています。

スタチンとエゼチミブを併用する試験がIMPROVE‒ITで発表され、「The lower, The better」という言葉で一般にいわれていますが、下げれば下げるほどいいという試験で、30㎎/dLまでLDLコレステロールを下げても大丈夫だということもわかってきました。

さらにその2年後、PCSK9のインヒビターが発表され、FOURIER試験ですが、エボロクマブとスタチンを併用して行われ、さらにコレステロールやLp(a)が下がることがわかってきました。

その間、炎症が動脈硬化に対しては重要な意味を持つのではないかということで、現在のCRPよりも感度の高い、高感度CRP(hsCRP)が開発され、炎症の存在が確認された例に、スタチンとカナキヌマブ、IL-1β阻害物質を使用したのと、あるいはコルヒチンを使って、その炎症を抑えるようなかたちで動脈硬化の発症を抑えたこともわかってきました。

そのようなことで脂質異常症治療の研究が始まり、現在なお行われているという状況かと思います。まだ未検討の問題としてスフィンゴ燐脂質と動脈硬化との関係、アポ蛋白E4/E4とアルツハイマー病のAβ沈着機序、アポ蛋白A2アイソマーと膵癌との関連が明らかとなることが望まれています。

藤城

中村先生、本当に詳しく、脂質異常症の治療法も含めた変遷をお聞かせいただきました。私は1995(平成7)年卒業で、まさに中村先生が主導されましたメガスタディの世代の人間です。それ以前のまったく知らないこともたくさん教えていただきました。

さらに脂質異常症の治療をしっかりすることによって、心疾患を含めた様々な疾患の改善につながるということも、よくわかりました。いろいろな薬が出てきている状況かと思いますので、令和の時代にさらにこの分野が発展していくのかと思いながらお話を聞かせていただきました。

中村先生、本当に素晴らしいお話をありがとうございました。