ドクターサロン

多田

日本人の約13%が罹病しているといわれる甲状腺疾患を取り上げます。

甲状腺疾患は発生頻度が高いばかりではなく、多彩な病態をもち、甲状腺クリーゼや粘液水腫性昏睡など生命の危機にさらされることもあります。まず診療所を訪れた患者さんの甲状腺疾患を疑うきっかけについて教えてください。

槙田

甲状腺疾患といいますと、大きく分けて、ホルモンの異常か、あるいは腫瘍、甲状腺のできものの病気になります。甲状腺機能の異常としては、ホルモンが高い病気があり、ホルモンが高いと、代謝が亢進しますので、体重の減少や、動悸、そしてイライラ感や、夜眠れない等の症状を訴えてこられる患者さんは疑います。

逆にホルモンが低いと、便通の異常が考えられます。便秘、または足がむくむという症状ですね。倦怠感というのは難しく、どのような疾患でも倦怠感という言葉は出てきてしまいますが、患者さんが「だるい」とおっしゃったら、一度は甲状腺ホルモンをチェックしていただいてよいと思います。

また、自覚症状以外に、データの異常値から、想定することもあります。例えば診療所ですと、生化学の検査を実施した際に、コレステロール値の異常や、肝機能でγ-GTPは正常ですがALPだけが高いときには、甲状腺機能の異常を考えます。甲状腺ホルモンが高いとコレステロールが下がります。また、骨代謝回転が亢進すると骨型のALPが上がるので、ALP単独高値の際には甲状腺ホルモンが高いことを想起します。

多田

いろいろなところと関連するので、それをしっかり見ていくことが大事ということですね。

槙田

そうですね。甲状腺腫瘍についても、最近増えているのが、胸部X線で異常影を言われて、CTによる精査で頸部甲状腺にできものがみつかるケースです。

多田

さて、甲状腺の機能が高いバセドウ病や、破壊性の甲状腺炎など、いわゆる甲状腺の中毒症の鑑別と検査の組み方や、疑った場合の治療法を教えていただければと思います。

槙田

甲状腺中毒症という言葉は耳慣れないかもしれませんが、中毒という言葉が連想させるような、重症というわけでは決してなく、ホルモンが高い状態を指します。日常臨床では圧倒的にバセドウ病か、無痛性甲状腺炎の頻度が高いです。無痛性甲状腺炎は慢性甲状腺炎、あるいは日本の橋本策(はかる)先生が発見されたので橋本病ともいわれるのですが、炎症が一過性にひどくなって甲状腺が破れ、ホルモンが血中に漏れ出てしまう病態です。バセドウ病と無痛性甲状腺炎の2つの鑑別がとても重要になります。

バセドウ病ですと、原因となるTSH受容体に対する自己抗体が陽性である場合、また、目が出てきてしまうような眼症があればバセドウ病と考えられます。

あと、TRAbが陰性で眼症もない方でもバセドウ病の方はいらっしゃいますが、その場合はβブロッカーで対応しつつ経過をみることで診断しています。無痛性甲状腺炎ですと、基本は3カ月以上続きません。壊れて甲状腺にプールされているホルモンが漏れてしまうだけですので、甲状腺中毒症が3カ月以上続けば強くバセドウ病を疑います。

多田

いわゆる自己免疫疾患とかかわりのないところで出てくることもあるということでしょうか。

槙田

そうですね。コモンディジーズなので十分にあり得ます。

多田

わかりました。今、甲状腺機能が高いほうでうかがいましたが、次に低下症の鑑別で、検査の組み方や治療法について教えてください。

槙田

甲状腺機能低下症は中毒症とまったく逆で、ホルモンが低い病態を表します。低い病態としてはいろいろな原因があって、でも圧倒的に多いのがやはり橋本病を背景とする甲状腺機能低下症です。その場合は甲状腺ホルモンが作れなくなるので、ホルモンが低いのと同時に命令ホルモン、TSHというホルモンは上がっているというパターンになります。このパターンを見たときに考えるのが第一の鑑別としては橋本病になります。

橋本病は、自己抗体が陽性であれば診断してOKです。具体的にいうと、サイログロブリン抗体か甲状腺ペルオキシダーゼ抗体が陽性であることを確認することになります。橋本病は、女性に多くて、50歳以上の女性のAB型の血液型の方よりも多いといわれており、コモンディジーズです。橋本病イコール甲状腺機能低下症と思われている方が多いのですが、そうではなく、ごく一部の患者さんが甲状腺機能低下症を合併する、ということです。そこだけ注意していただければと思います。

多田

橋本病だけでなく、様々な話が出てきましたが、甲状腺炎を起こした後で機能低下になることもままあるのですね。

槙田

ありますね。私たちが多く経験しているのが、免疫チェックポイント阻害薬という抗がん薬で起こってくる甲状腺炎には激烈なタイプがあります。

多田

ニボルマブのような薬剤使用にて発症するものですか。

槙田

おっしゃるとおりです。激烈な甲状腺中毒症の後に甲状腺機能低下症が永続的になってしまう方が多く、ホルモンを作れなくなるという病態は最近増えています。

多田

これはたいへん重要なことですよね。

槙田

そうですね。

多田

あと、甲状腺機能低下症に関してですが、2023年に甲状腺ホルモン不応症診療の手引きが発表されました。この手引きについて教えていただければと思います。

槙田

これは私たち専門医もあまり経験することのない病態です。甲状腺ホルモンが高いにもかかわらず、下垂体で高いと感知されずTSHが出てしまう。甲状腺ホルモンもTSHも両方高いパターンを見た場合に考えます。

しかしそのパターンを見た場合に、私たちが一番多く経験するのがアッセイの問題なのです。アッセイでTSHや、FT4が偽高値に出るという可能性を考えます。別のアッセイキットでチェックしてもやはり同じデータだった場合に、甲状腺ホルモン不応症、ないしはTSH産生下垂体腫瘍という下垂体の病気を考えます。最近、原因となる甲状腺ホルモン受容体の遺伝学的な検査が保険診療でできるようになりましたので、罹患率が日本でも上がってくるのではないかと思っています。

多田

あと、我々が注意しなくてはいけないのは妊娠とのかかわりですね。この辺で何か注意点はありますか。

槙田

これに関しては、本当にそのときのデータやエビデンスに応じてガイドラインも時代とともに少しずつ変わってきているのが現状です。バセドウ病に関しては、チアマゾールによって催奇形性があるということが日本の前向き研究で示されたので、基本的には妊娠初期には使いません。

それでは、もう一つのプロピルチオウラシルならよいのかというと、実は問題が起こる可能性があるということで、妊娠の初期は気をつけていかなければならない。間もなく公開される米国甲状腺学会の新しいガイドラインについて、学会でうかがって驚いたのですが、妊娠初期は一度投与を中止することも考慮する必要があるということです。妊娠に従って免疫が抑制され、良くなる方もいらっしゃるし、また悪くなったら器官形成期を過ぎてから再開すればよいという考え方もあるようです。

逆に、甲状腺ホルモンは基準範囲でTSHだけが高い、潜在性甲状腺機能低下症という病態があるのですが、これもまたエビデンスが加わり、妊娠中の目標値について考え方が変わってきそうです。これまでは、橋本病があると妊娠初期は、TSHを2.5μU/mLより下になるよう管理してきました。しかし最近のエビデンスですと、橋本病の有無は関係なく、TSHも4μU/mLを超えていなければよいということに、米国のガイドラインがまもなく変わってくるそうです。

多田

そうなったらタイトルウオッチングしておかなくてもよいということですね。

槙田

そうなのです。

多田

ありがとうございます。また、死にかかわる病気としてクリーゼがありますが、この場合、最近、治療法が変わったことはありますか。

槙田

日本甲状腺学会が2016年に後ろ向きのデータに基づいて甲状腺クリーゼのガイドラインを作成しました。そのとき私も驚きましたが、いくらきちんと治療しても致死率が10.7%でした。

そのガイドラインが出て以降、前向きのスタディが始まりましたが、その結果が2024年に報告されました。前向きでエントリーされた患者さんは、過去の後ろ向きで集めた患者さんよりも重症だったにもかかわらず、致死率が5.5%まで下がっていました。そのガイドラインが周知されたことによるインテンシブ・ケアが奏功したのだと考えられています。

多田

常にアンテナを張ってしっかり治療していくということが大事ですね。

槙田

そうです。疑ったらすぐに治療するということが大切です。

多田

疑った場合は、すぐ専門医にコンサルトするということですね。

槙田

そうですね。

多田

あと、先生も冒頭にお話ししていた甲状腺の腫瘍について一言お願いできますか。

槙田

日本人の私たちの先輩がエビデンスを作ったのですが、小さな腫瘍、微小乳頭がんというものがあるのですが、外科的な治療をせずに経過観察してもよいというアクティブサーベイランスの方針です。経過観察で、ほとんどの微小乳頭がんは大きくならないということです。

多田

小さいというのはどのくらいですか。

槙田

長径1㎝未満ですね。大きくなったら、その時点で手術をしても全然遅くありません。それが本当にマネジメントを変え、海外のガイドラインも塗り替えました。これは私たち日本人の大きな業績です。

多田

あと、甲状腺の専門医の最近のトピックを教えていただきたいと思います。

槙田

先ほど少し申し上げましたが、甲状腺疾患は私たち内分泌内科だけではなく、診療科横断的に考えていく必要があると考えております。特にがんの領域では、免疫チェックポイント阻害薬や、チロシンキナーゼ阻害薬によりしばしば甲状腺機能障害をきたしますので、様々な診療科の医師にも知っておいていただきたい病態です。これらの薬剤がどうして甲状腺機能障害を起こすのかについては、まさに私たち専門医が取り組むべき研究テーマの一つです。

多田

あと最後に、IgG4関連の甲状腺疾患も最近見つかってきているということですが、いかがでしょうか。

槙田

私はあまり専門ではないのですが、IgG4関連疾患も日本人がもともと提唱した病態で、その臓器の一つとして甲状腺もインボルブされます。ただ、治療法としては基本的にホルモン補充療法ということで変わりません。

多田

Riedel甲状腺炎という疾患がありますが、これがそれに近い疾患ですか。

槙田

はい、そのように思っています。

多田

たいへん広範な病態をからめ、深い視点から頻繁に遭遇する病態である甲状腺疾患についてお話しいただきまして、どうもありがとうございました。