ドクターサロン

池田

認知症の最近の知見、特に抗アミロイドβ抗体療法についての質問です。認知症というとアルツハイマー病が有名ですが、ほかにどのような認知症があるのでしょうか。

岩田

有名なものとしてはレビー小体型や血管性認知症、それから前頭側頭型認知症があります。

池田

これらの鑑別はどのようにされるのでしょうか。

岩田

様々な検査や、特徴的な症状を基に鑑別をしますが、アルツハイマー病に関していえば、アミロイドPETもしくは脳脊髄液の検査で診断を行うことになっています。

池田

それでアミロイドβタンパクの存在を確認することになると思うのですが、そもそもアルツハイマー病は、アミロイドβタンパクで有名ですが、どのような機序で起こるのでしょうか。

岩田

アミロイドβというのは、人間の脳神経の細胞が常に作っている小さなペプチドです。主に40アミノ酸からなるアミロイドβ40と、42アミノ酸からなるアミロイドβ42があります。これは常に作られていて、正常であれば、脳内の処理システムによって消えていきますが、脳内を清める処理システムが機能しなくなると、脳内に溜まっていきやすくなります。特にアミロイドβ42は溜まりやすく、神経細胞の働きを弱め、場合によっては神経細胞に毒性を与えるということが起こり、神経細胞中にタウタンパクというものが溜まるような状態になります。

タウタンパクが溜まると、神経細胞は非常に弱り、働きが悪くなるので、神経細胞が担っている働きが失われていきます。アミロイドβが脳内に溜まってきますと、タウタンパクが次から次へと脳の神経細胞を侵していきます。そうなると、脳全体にタウタンパクの蓄積が拡がり、様々な脳の機能が障害されると考えられています。

池田

アミロイドβタンパクが、脳内に溜まるとのことですが、脳神経細胞の中なのでしょうか、それとも外側なのでしょうか。

岩田

アミロイドβに関しては神経細胞の外側で、タウタンパクは内側になります。

池田

イメージすると、アミロイドβというタンパク質はゴミのような感じに見えますがどうなのでしょうか。

岩田

まさにおっしゃるとおりですね。神経細胞が働くと、どうしても出てしまうゴミということになります。

池田

通常ならば、ゴミのお掃除システムがしっかりと機能しているのですが、何らかの機序でそのシステムが機能しなくなるということなのでしょうか。

岩田

そうですね。お掃除システムの働きが何らかの要因で悪くなるということは、病的な原因が考えられますが、高齢化でも悪くなるといわれています。そのような原因できれいにお掃除ができなくなってくると、溜まりやすくなってきます。

池田

しかし、いろいろな報告を見ますと、アミロイドβタンパクは、もう10年、20年前から蓄積してくると書いてありました。これはどういう機序で、そしてなぜ溜まってくるとタウタンパクに影響があるのでしょうか。

岩田

イメージとしては、血管壁にコレステロールが溜まると、最初のうちは無症状なのですが、あるところで血管が詰まってしまう、あるところで閾値を超えてしまう現象が起こると思います。なぜアミロイドβが溜まってくるとタウタンパクが溜まりやすくなるのか直接的なメカニズムはまだわかっていないと思います。

池田

アミロイドβタンパクの蓄積量がどの程度であるかというイメージはあるのでしょうか。

岩田

そうですね。量に加えて、脳全体への拡がりですね。脳全体に拡がっていると、タウタンパクが脳全体に拡がりやすくなるというイメージでよいと思います。

池田

なるほど。そこで質問の抗アミロイドβ抗体療法についてですが、どのような病期で、どのステージで使われるものなのでしょうか。

岩田

現在、日本で認可されている適応症は、アルツハイマー病による軽度認知障害か、軽度の認知症、すなわち極めて早い段階になります。

池田

早期という診断は、どのようにされるのでしょうか。

岩田

これは臨床診断です。軽度認知障害は、脳の機能が衰えてはいますが、日常生活ではまったく自立している状態で、介助がいらない状態です。軽度認知症ですと、例えば、薬の飲み忘れがあるとか、買い物時の間違いや銀行での対応等で介助が必要な状態の方をいいます。

池田

進行している人は適応外になりますが、どの段階で専門医に紹介してよいのかが一番心配なところだと思います。先生からご覧になって、このような感じでしたら紹介して抗体療法が可能であるというイメージはありますか。

岩田

先生方がお考えになるイメージよりも極めて症状が軽いところが重要なポイントです。家族から見て、以前に比べて記憶力が悪くなった、同じことを何度も繰り返す症状が何となく毎日のようにある場合には、それ以外に何も問題がないように見えても、軽度認知障害の可能性が濃厚なのです。ですから、その程度の段階でも専門医療機関に紹介いただいても問題はないと思っています。

池田

早すぎても別に問題はないということですね。

岩田

はい。早すぎた場合には一度お戻りいただくことになるかと思います。

池田

それでしたら安心ですね。そして肝心の抗体療法になるのですが、2種類あるとうかがいました。これはどのようなものなのでしょうか。

岩田

簡単に言えば、投与頻度や投与計画の違い、それから副作用の発現率に関して、少なくとも報告されているレベルで違うということになります。

池田

まず1カ月に1回の点滴とうかがったのですが、これはどのようなものでしょうか。

岩田

1カ月に1回のものは、アミロイドPETで検出できるアミロイドβに対して結合する薬剤なので、アミロイドPETを1年後ぐらいに実施し、アミロイドβがきれいに除去されたら、その段階で投与を完了します。

池田

それでは1年後に検出されなくなると終了ということですね。

岩田

そういうことになります。

池田

終了して、臨床症状で経過観察をするわけですが、何か臨床的に所見が顕れた場合には、また始めてよいのでしょうか。

岩田

それは今のところ、保険診療では許可されていません。やめた後にどうなるのかというデータは、実はまだ発表されていないのです。なので、それが出てきた段階で我々は考えることになると思っています。

池田

まだまだ始まって時間が経っていない治療法なのですね。

もう一つ、2週間に1回の注射というのがあるとうかがったのですが。

岩田

はい。こちらは、アミロイドPETで検出されるアミロイドβだけではなく、それ以外の毒性のあるアミロイドβも除去するといわれている薬剤です。そのため、アミロイドPETでの除去の確認作業が要りません。

今のところ、症状がかなり進行している状態、すなわち、日常生活でトイレに行くのがままならない、服がきちんと着られない、道に迷う等の進行度を示していなければ、投与は継続するという計画になっています。

池田

簡単に言うと、重症にならなければ継続していくということですね。

岩田

はい。

池田

でも、2週間に1回とか月1回の通院は、患者さんにとって難しいと思うのですが、例えば皮下注射になっているとか、そういうことはないのでしょうか。

岩田

そのようなものの開発も現在、進められています。皮下注射なら、週に1回になると思います。

池田

でも今のところは患者さんが病院に通院して点滴を受けるのですね。

岩田

病院で点滴を受ける必要があります。

池田

やはり副作用があるということなのですが、どのような副作用なのでしょうか。

岩田

生物学的製剤を点滴するので、それによる発熱、悪寒、関節痛、皮疹等が一番多いです。ただ、これについては、患者さんが耐えきれないことはあまりないと思います。

一方で、脳内出血や、脳浮腫が起こることが報告をされています。実際に治験では、MRIを撮ると12~25%ぐらい見つかりますが、症状が出る方は全体の2~5%ぐらいといわれています。

実臨床では、さらにそれよりも少ない頻度で発生していますし、重篤になった例はそれほど多くないと報告されています。ただ、これは各社の薬剤の使用にあたって、このタイミングで必ずMRIで浮腫や出血の有無を確認してくださいと決められています。MRIできちんと撮ることによって安全性が担保できていると考えています。

池田

なるほど。それで副作用がわかった場合に、中止あるいは継続ということに関して、何か判断基準はあるのでしょうか。

岩田

これは2つの薬剤ともに同様で、MRIで浮腫の大きさ、出血の大きさと症状の有無を加味して、投与を継続する場合と、中止する場合が決められています。

池田

では、それは専門医が判断されるということですね。

岩田

はい。もちろんお任せいただければと思います。

池田

わかりました。もう一つやはり気になることは、これは将来的なことかもしれませんが、月1回点滴をして、アミロイドβが検出されなくなった場合に、患者さんの希望によって2週間に1回の投与をするということはあるのでしょうか。

岩田

現在の保険行政の中では、2剤を組み合わせることや、同時に使用する、また1剤使用後にもう1剤ということは想定されていないと思います。

池田

やはり医療資源、それから金額のこともあり、なかなか難しいですね。

岩田

はい。そのようなかたちは、今のところ難しいだろうと思っています。

池田

今後、例えば皮下注射になり比較的簡単に患者さんに打てるようになった場合、ありうるのでしょうか。

岩田

すべて保険の中でという場合の話をしていますので、厚生労働省や規制当局がどう判断するかにかかってくると思います。そのためには、そのような行為によりベネフィットがあったという臨床研究の結果が必要になるのではないかと思います。

池田

中には患者さんが保険外で注射を希望されることがけっこうありますよね。最近は糖尿病薬も痩せ薬として使われていたり、そういうことも将来的には起こりうるかなとは思っています。いずれにしても政府としては保険診療範囲の中で安全に使ってほしいということはわかるのですが、一般の医師がこの患者さんを専門病院に紹介したい場合に、何かリストのようなものはあるのでしょうか。

岩田

一つは、自治体によっては医療機関のリストを作成しているところがあるので、先生方のエリアの自治体で検索していただくと、わかる場合があります。あとは製薬メーカーがそれぞれ、近隣の施設のリストを持っている場合がありますので、担当者に確認すれば教えてもらえるかもしれません。

池田

非専門医がどこに紹介したらよいのかがわかれば、気軽に専門医に相談できるかと思ってうかがいました。

岩田

2週に1回、4週に1回、それも1年半ぐらい継続する治療があるので、なるべく通院しやすい、ご自宅から近い施設をご紹介いただきたいと思っています。

池田

ありがとうございました。