山内
耳鼻科以外に来院し、耳が遠くなってどうしようということはよくある話で、「はい、耳鼻科へどうぞ」と、それでいいのだと思いますが、実際に質問のようなことも出てきますので、多少は患者さんのお話を聞いたり、相談にのったりという場のお話として幾つかの対応をうかがいたいと思います。
まずひとつ、こういう方を耳鼻科に紹介すると、耳垢がたまっていて、取ったらよく聞こえるようになりましたという方はけっこういらっしゃるものですか。
木村
そうですね、耳垢の方はけっこういらっしゃいます。耳栓をしているのと同じ状況ですので、取れば自覚的にもデータ的にも聴力がかなり改善します。
山内
ただ、耳垢自体は病的なものではないですよね。特別何かの原因でたくさん出てくることはありますか。
木村
たくさん出てくる病気もまれにあります。ひどく乾燥して角化が亢進しているような状態もありますが、そのような病気ではなくても、耳垢栓塞になってしまう方は珍しくありません。
山内
なぜそこまでためてしまうのかということも病的なものではないのですか。
木村
そこまでたまっている状態は病気ではあるのですが、必ずしもそれが病的な状態というよりは、耳垢の排泄がうまくいかなかった場合が多いです。入り口の耳垢がちょうど栓のようになってしまい、うまく外に排泄できなかったという病態です。
山内
やはりウェットのほうがドライよりも出てきにくい感じがありますか。
木村
そうですね。カサカサな乾性耳垢に関しては、例えば咀嚼であるとか、通常の頭を動かすなどの運動でかなり外側のほうに出てきますが、湿性耳垢はべったりとくっついてしまうので、耳垢栓塞になるリスクは高いと思います。
山内
耳垢は原則的には自然に出てくるものなのですね。
木村
はい。外耳道にはマイグレーション(migration)機能があり、外側に出そうとする力が働きますので、本来は自然に出てくるものです。
山内
それでは、あまり神経質に耳かき掃除をやらなくてもよいのですね。
木村
かきすぎると、それでよけいにかゆくなり、外耳道湿疹になってしまったりします。極端な例だと、外耳道癌の方は、だいたい耳かき癖があります。珍しい病態ではありますが、いじりすぎる患者さんには、このままだと癌になるからやめたほうがよいというお話をしています。
山内
次は老人性難聴、加齢性難聴について教えてください。これは放っておくと認知症になると最近の話題として出ていますが、この辺りの裏付けのデータは出てきていますか。
木村
ランセット認知症予防・介入・ケア国際委員会というものがあり、2020年には難聴は最大のリスクということが公開されています。2024年に最新のステートメントが出され、介入しうる認知症の14のリスクファクター(危険因子)がありますが、難聴は最大のリスクファクターと言われています。介入すれば、7%程度は認知症の予防になるというデータも出ています。
山内
予防になるのですね。この辺りで難しいのは、実際に難聴があるとコミュニケーション上は相手にされないというのがありますので、こちらのほうからも認知症が進むことはありますよね。
木村
フレイルが今注目されていますが、その要素の一つである社会的フレイルに関しては社会的孤立や社会活動の低下の面で難聴は大きな役割を示しますので、難聴の存在は認知症の進行に大きく関与してくると思います。
山内
認知症だろうなと思ったときに、難聴があるかもしれないと疑うのは大事なポイントと考えてよいですね。
木村
そのとおりかと思います。耳鼻咽喉科医あるいは小児科医では、言語発達遅滞があった場合には難聴の有無をまずチェックするのが常識的になっていますが、認知機能低下において難聴を疑うところまで現段階では至っていません。ぜひ一般の診療所医師には、認知症かなと思ったときに聴力は大丈夫かと一つ考えていただくとよいかと思います。
山内
これは加齢性ですが、やはり進行するものでしょうか。
木村
皆さん、現場でご覧になっていてよくわかると思いますが、年齢とともに聴力は悪化していきます。
山内
ただ、年をとったから加齢性という前に、これは病気だよというので注意したほうがよいものは何かありますか。
木村
介入しうるといいますか、治せる難聴というものがあります。一番多いものは、先ほどもお話がありました耳垢栓塞です。耳垢があると10~20デシベルくらい聴力が悪くなります。例えば、若い人で10~20デシベルの損失は大きな問題にはなりませんが、もともと難聴があるところに、さらに損失が加わると、圧倒的にコミュニケーションに障害が出てきます。あるいは慢性中耳炎、滲出性中耳炎なども介入しうるものになりますので、一度耳の中を診てあげる。あるいは聴力検査をしてあげることはすごく大切です。
山内
加齢性難聴の程度には個人差もあると感じますが、この原因というのは遺伝などの可能性があるのですか。
木村
いろいろな原因が言われています。もちろん遺伝的な背景や性差もあります。男性のほうが悪くなりやすいというデータが出ています。あとは騒音環境への曝露です。どうしても大きい音を聞いていたりすると、聴力が悪くなりやすい。また、耳毒性の薬剤であるシスプラチンやアミノグリコシド系など、そういったものへの曝露があっても聴力は落ちてしまいます。
山内
さて治療といいますか、実際には治療といっても対症療法、いわゆる補聴器にいくと考えてよいのですね。
木村
はい。
山内
ということで、これは一般内科医も非常によく聞かされるのですが、補聴器をかけなさいと言うと、「補聴器は一度かけたのですが、とても駄目です。3カ月もかけられません」という声が非常に多いので、そういった方々への対応の仕方をうかがいます。まず、こういった方々への対応とする前に、補聴器の決め方ですが、処方箋か何かあるのでしょうか。
木村
補聴器に関する診療情報提供書をテクノエイド協会の認定技能士が認定するのですが、そういったところに診療情報提供をすることにより、補聴器をフィッティングしていきます。
山内
これは特別な施設でなく、大きな病院の耳鼻科であれば、そういった方々がいらっしゃいますか。
木村
そうですね。補聴器外来を実施している施設であれば、お店に行かなくても、耳鼻科医と密に連携して補聴器を作成することができるので、ぜひそういった施設を選んでいただければと思います。
山内
補聴器がうまくいかない場合ですが、どうしたらよいでしょうか。
木村
やはり根気が大切です。眼鏡は体の一部になってしまって、皆さん違和感なく使えると思いますが、補聴器に関してはその方の生活のレベルで、どのような音の環境下で暮らしているかによって、その人の快適な補聴のレベルが随分違います。ですから、補聴器は買って終わりではありません。何度も補聴器屋さんで調整して、いろいろな日常生活の中での困り事をピックアップしていただき、患者さんのニーズに補聴器の機能を寄せていくというようなイメージになります。
山内
何回も遠慮せずに試してよいと考えてよろしいわけですか。
木村
はい。補聴器は非常に高いということを皆さんご存じだと思いますが、これは調整代にかかる時間も当然含まれていますので、遠慮なく申し出てください。
山内
ついつい遠慮してしまいますが、合うまで何度もということですね。
木村
そうですね。補聴器外来を実施している施設だと、このぐらいのスパンで来院してくださいということを提案していくことができるので、ぜひ活用していただきたいと思います。
山内
購入後も、しばらくの間はそこに通うぐらいのつもりがよいのですね。
木村
そうです。通院を念頭に置いていただければと思います。
山内
これは聞こえるほうの耳にあてがうのが原則ですか。
木村
同程度の聞こえであれば、両方の耳に装用することをお勧めします。ただ、例えば片方だけがすごく悪い場合には、聞こえのよいほうの耳に装用するほうがよいとされています。
山内
そちらで音をしっかり聞きましょうということですね。
木村
そうです。
山内
ありがとうございました。