齊藤
心不全の昔と今についてうかがいます。
心不全の診断あるいは定義は、どう変化しているのでしょうか。
白石
昭和の時代に関しては、心不全の定義自体は、心臓の内圧が上がって心拍出量が減るということで変わってはいませんが、それをどう診断するのかで四苦八苦していました。今ももちろん大事ですが、心不全の身体症状として下腿浮腫、あるいは頸静脈の怒張、そして心音というところで総合的に診断をしていた時代から、今は徐々に、そういったスキルが必要なプラクティスから、バイオマーカーやイメージングを駆使する時代に移りつつあるというのが現状かと思います。
齊藤
バイオマーカーとは何でしょうか。
白石
BNP、もしくはNT-pro BNPは心不全の診断能が非常に高いバイオマーカーで、日本では比較的どのような医療機関でも測定でき、少なくとも翌日には結果が出るので、かなりアクセスのいい検査ではないかなと思います。
齊藤
約20年くらい前でしょうか。
白石
そのとおりです。
齊藤
それと、イメージング検査がたいへん進歩してきているのですか。
白石
はい。今だとポケットエコーということでスマートフォンのような機器でできるエコーもあります。診断は十分ですし、比較的精度の高いエコーでは、いろいろなソフトウェアが入っていたり、最近はAIで診断を補助できるようになってきました。
そして、エコーのさらに次の診断能ということではMRIやCT、SPECT(アミロイドシンチグラフィー)、PETなどが非常に多くの情報を与えてくれると思います。
齊藤
どのように駆使するのでしょうか。
白石
ご承知のとおりエコーで収縮力を測ったり、弁の逆流、狭窄の程度を評価し、弁膜症の診断をしていきます。病理学的なところは心臓のエコーでは見えないところがありますので、MRI、具体的にいうと、遅延造影というもので、心筋の浮腫や繊維化といった目に見えないものを捉えることで、どういう疾患が背後にあるのか推測しやすくしてくれます。
あるいは心臓のアミロイドーシスという病気は難病のひとつですが、以前はそれほど頻度が高くないといわれていました。最近はけっこういるのではといわれており、アミロイドーシスの診断の変遷からいうと、昔は生検といって心臓の筋肉をつまんでこないとわからなかったのが、今はSPECTという核医学検査で精度高く診断できるようになってきており、イメージングの進歩によるところかなと思います。
齊藤
原疾患もいろいろわかってきているのですね。がん治療も心臓に影響するのですね。
白石
はい、おっしゃるとおりです。昔から使っているアドリアマイシンという古典的な薬による心筋症は今も予防、管理が重要ですが、それ以外の分子標的薬、そして免疫チェックポイント阻害剤といったものも心毒性はあります。循環器内科でしっかりと診断、治療をすることで化学療法を継続できることが大事で、循環器内科からほかの科との連携がより重要になってきている時代かと思います。
齊藤
治療がたいへん進歩してきているのですね。
白石
そのとおりで、昔は利尿薬あるいは強心薬といったような対症療法がメインだった時代から、左室駆出率(EF)が下がった患者さんに対してACE阻害剤やARB、β遮断薬、アルドステロン拮抗薬といった有効な治療が出てきて、その後2000年代に入って植え込み型除細動器(ICD)、心臓再同期療法(CRT)といったデバイス治療が出てきました。さらに2010年代に入って現在まで、SGLT2阻害薬、あるいはARNI(ACE阻害薬やARBの代わりとして使用)といった新しいタイプの薬が続々と出てきたことによって、心不全患者さんの治療は非常に良くなりましたし、実際、予後も改善してきていると思います。
齊藤
それがいわゆる4本の柱というのでしょうか。治療の継続には問題もありますか。
白石
血圧が下がってしまったり、腎臓の機能あるいは電解質が狂ったりして中止せざるを得ないケースも多いと思っています。特に一番の問題は高齢者に多い疾患ですので、例えば手術の後にリハビリをするために療養型のリハビリ病院に行った後、血圧が低いからリハビリができない。そのために心不全の薬を切らなければいけないとなると、よかれと思って切るものの、それによって心不全が増悪してしまうことも起こり得ます。やはり循環器専門医あるいは心臓専門医と、ほかの専門医との意思統一というのは今後さらに重要になってくると思います。
齊藤
一般的な心不全に加えて特殊な心不全もわかってきているのですね。
白石
そのとおりです。先ほどお話ししたアミロイドーシスは、昔は治療法がなかったので、実際、診断されても余命が1~2年で、診断=死の宣告みたいな感じでした。最近はしっかりとした治療法が出てきたので、それによって進行を食い止める、緩徐にすることで余命が少し期待できるようになってきました。
そのほかにも、ファブリー病という酵素が欠損するタイプの治療も、酵素補充療法によって進展を食い止めることができ、不治の病であった方々が、今では長く存命できるのは素晴らしいことだと思います。
齊藤
それから、薬物に加えて、カテーテル治療がとても進歩しているのですね。
白石
はい。開胸手術は今でも素晴らしい治療ですし、根治という意味では欠かすことはできませんが、一方で超高齢のような非常にリスクが高い方は開胸手術に耐えられない方が多くいらっしゃいます。カテーテルによって弁の置換をしたり、弁の修復・形成をしたりできるようになったのは、本当に大きかったと思います。
齊藤
それから、心房細動がたいへん増えていて、この治療もありますね。
白石
はい。心房細動に関しては、高齢化社会においては避けては通れない疾患かと思います。実際、心不全の患者さんだと、心房細動は4割、5割ぐらい合併していますので、心不全を治療するときは必ず考えなくてはいけません。
実際に心房細動だと心臓のポンプ機能が落ちてしまうので、それをしっかりと洞調(どうちょう)律に戻す。正常な脈に戻すことは心不全をコントロールするうえで非常に有効な治療になってきて、そのうえでカテーテルによるアブレーション治療は近年、成功率が非常に上がって、また合併症も減ってきました。心不全コントロールに大きな役割を担っているのではないかと思います。
齊藤
そういうことの進歩に加えて、心臓リハビリテーションもあるということでしょうか。
白石
はい。心不全は皆さんご承知のように繰り返す病で、繰り返すと心臓の機能が落ちていくということもありますが、どちらかというと、心臓以外の身体機能、人としての機能が増悪のたびに落ちていってしまいます。
そうなると一番の問題はADL、QOLが落ちていくことで、そのためにはリハビリテーション、特に運動療法は欠かすことができないと思います。心臓はいいけれども、身体機能は落ちていくとなると、元も子もないので、よく生きるためにはリハビリが必要です。
齊藤
心移植が必要な人もいるのですね。
白石
はい。やはり一定程度、重症な方はいて、今でも日本は心臓移植のドナーが非常に少ない国ということから補助人工心臓が近年発展してきましたし、実際、諸外国、日本においても心臓移植をしないで補助人工心臓で天寿を全うするような治療、Destination Therapy(DT)の選択肢も増えてきています。
齊藤
このようにたいへんな進歩がありましたが、心不全の予後はどうなっていますか。
白石
予後に関しては、絶対的に伸びているはずなのですが、見た目の予後をここ10年や15年で見てしまうと、高齢化も加速しており、帳尻が打ち消し合ってしまっているようなデータになっているので、その辺は考え方が難しいかなと思います。
齊藤
今後の進歩はどうでしょうか。
白石
まずはがん治療のように、心不全も個別化の治療が進んでいくのではないかと思います。具体的には血液などの検体を用いてDNA、RNA、タンパク、そして代謝産物といったものを詳細に調べるオミクス(解析)によって、心不全の病態をもっと緻密に突き詰め、どういう薬が効くのかといったところの精密医療が進んでいくのではないかと思います。
齊藤
患者数が多いので、トップクラスの専門医と非専門医、あるいは病院との連携の必要性がありますね。
白石
それは非常に重要だと感じています。実際に心不全の患者さんは今でも人口の1%以上です。それを循環器専門医だけで診ていくのは非常に難しいと思いますので、非専門医と連携する必要がありますし、急変時、増悪時には循環器専門医がしっかりとバックアップできる体制を各地域において構築して進めていくことが国として必要ではないかと思います。
齊藤
もうひとつはアドバンス・ケア・プランニングというものもありますね。
白石
これはおそらく国会や国でも人生の在り方会議というかたちでいわれていると思います。治療が進歩したことによって救命できるケースは増えていると思いますが、一方で、どう生きるか、どう最後を迎えるかというのも大事な問題になってきています。どの治療をどこまでやるかというのは、今後、急変する前に心不全患者さんやご家族としっかりと話しておく必要があると思っています。
齊藤
どうもありがとうございました。