多田
炎症性腸疾患といえば、潰瘍性大腸炎とクローン病、ならびに腸管ベーチェット病などがあります。ともに若い人に多く発症する疾患で、指定難病ですが、生命予後は比較的よく、増加傾向にもあり、最近では高齢の患者さんを診る機会も増えています。そして潰瘍性大腸炎はわが国で推計約32万人、クローン病は約10万人の罹病者がいるといわれています。
まずは潰瘍性大腸炎とクローン病の特徴を教えていただきたいと思います。
猿田
潰瘍性大腸炎は直腸から連続する炎症で、お尻の出口である肛門のすぐ上の直腸から病気が始まります。腸の粘膜が、やけどをしたようにただれた粘膜になり、血便が出る疾患で、腹痛、血便が主訴になります。主に20~30代の働き盛りの発症が多く、下痢が止まらなくなり、血便も混じるようになり、外来にいらっしゃることが多いです。
一方、クローン病は食べ物と関連することがある疾患で、脂質の摂取量が増える10歳代後半から20歳代で発症します。この疾患は口から肛門の全消化管の至る所に潰瘍が起きますが、特に回腸末端から盲腸に初期病変を起こす方が多いです。同部位は食べ物を消化・吸収するのに最も大切な部位なので、炎症に伴い慢性の下痢、血便、腹痛が続き、体重減少が著明になり、受診することが多いです。
また、日本のクローン病では痔瘻と呼ばれる肛門病変を合併する方が、海外の20~25%に比して50%と多く、肛門に炎症を伴った下痢症状を主訴にいらっしゃることも多いです。
多田
この両者はまったく違うパターンの病態として捉えてよいですね。
猿田
はい。
多田
こうした炎症性腸疾患の発症要因や増悪因子といったものはいかがでしょうか。
猿田
発症のメカニズムは残念ながら現在まで明らかになっていないのですが、これまでの検討で、遺伝的背景のうえに、腸内細菌の関与や、免疫機構の異常などが重なって起きる疾患であるとされ、多因子により発症する疾患と考えられています。これまでに食事などの食生活の変化も疾患の発病に寄与することが報告されています。具体的には、食事の欧米化が進んだ国々に患者数が増加する傾向があり、何らかの食生活の変化が原因の一端になっている可能性があります。
かつて、その国のファストフードの店舗数の増加曲線と、この炎症性腸疾患患者の増加曲線が似ているという報告があり、日本、韓国、あるいは中国では北京、上海、あるいは香港などが該当するのでは、とされたこともありました。
多田
こうした病態の診断はどのように進められるのでしょうか。
猿田
まず潰瘍性大腸炎は、直腸から連続して大腸の粘膜が粗糙と呼ばれる荒れた状態になります。大腸の粘膜には毛細血管が網状に広がっていますが、そこが破綻することにより血便が必発となります。長期間続く血便が主訴の患者さんを診たときには潰瘍性大腸炎を疑う必要があります。
ただ、血便を伴う疾患には感染性腸炎や大腸癌もありますので、最終的には内視鏡検査をすることが必要です。内視鏡で悪性腫瘍を否定でき、感染症を否定できたうえで、大腸の粘膜が特徴的な全周性、連続性の炎症を認めた場合に、潰瘍性大腸炎の診断がつけられます。
病理学診断ももちろん診断の一助になりますが、潰瘍性大腸炎には、典型的あるいは特異的な病理像がないため、病理像だけでは診断がつけられないことも大切な点です。
一方、クローン病の場合、回腸末端と呼ばれる小腸の最後から盲腸に初発病変を認めることが多く、縦に切り裂くように走る縦走潰瘍や、縦走潰瘍が横同士でつながった結果生じる、ヨーロッパの道路のような敷石像所見を認めるのが特徴です。
また、内視鏡検査の際の生検標本に、非乾酪性類上皮肉芽腫と呼ばれる所見を認めた場合、クローン病の確定診断ができます。
多田
治療方針のようなものはあるのでしょうか。
猿田
潰瘍性大腸炎の場合は、まず炎症の範囲が直腸だけなのか、脾弯曲まで広がっているのか(左側大腸)、全大腸に広がっているのかを評価します。さらに、症状が軽症、中等症、重症なのかを評価し、両者を加味して治療方針を考えます。
クローン病の場合は、小腸だけの炎症である小腸型、小腸と大腸に炎症を起こす小腸大腸型、大腸だけに炎症を起こす大腸型と分類され、それぞれの病型に重症度を組み合わせて、治療方針を考えます。
多田
実際的な治療法について教えていただきたいと思います。
猿田
現在、炎症性腸疾患の治療方針の基本的な考え方はTreat to Targetという考え方に則っています。Treat to Targetというのは、短期的、中期的、長期的な治療目標を設定して、それに合わせた、そのときに見合った治療をするという考え方になります。
具体的には、短期的目標は、診断がついたすぐの時期で、症状が改善して、腹痛や下痢、血便がなくなった状態を目指し、治療を選択します。
短期的目標を達成することができたら、中期的目標は、症状がすべて消失した寛解、あるいはCRPなどの簡便に測れるバイオマーカーが正常化した状態として治療を行います。
そして最後の長期的目標は、内視鏡的に粘膜が治癒した状態である、「内視鏡的粘膜治癒」という状態や、QOLの完全な正常化になります。
短期的な目標に対して用いられる薬は、潰瘍性大腸炎もクローン病も、5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸製剤)を使うことが多いです。この薬剤は粘膜表面に直接張り付いて作用し、この薬のみで炎症が完全に消退するのは、潰瘍性大腸炎のおおよそ6~7割であることが報告されています。
5-ASA製剤で治まらない場合、例えば全身の症状が強い、発熱がある、腹痛が強すぎるなどの症状がある場合は、全身投与のプレドニゾロンを用います。プレドニゾロンは潰瘍性大腸炎でもクローン病でも有効性は高く、8割を超えるため非常に良いのですが、残念ながら一部の方は薬の減量に伴い再燃を認めることがわかっています。このような場合、アザチオプリンなどの免疫調節薬に引き継ぎますが、それでも改善しない場合は生物学的製剤や、低分子化合物などの先進的治療に切り替えます。生物学的製剤には、20年以上の歴史をもつ抗TNF-α抗体のインフリキシマブがあり、最初に登場しました。後に、アダリムマブや、ゴリムマブという抗TNF-α抗体が登場し、TNF-αというサイトカインを止める治療が主流となりました。
ただ、潰瘍性大腸炎でもクローン病でも抗TNF-α抗体の効果が途中から消失する、2次無効という現象が生じることがわかっています。そのような場合には抗IL-12/23p40抗体(ウステキヌマブ)や、抗IL-23p19抗体(ミリキズマブ、リサンキズマブ、グセルクマブ)を使って、炎症性サイトカインの抑制をはかります。
また、潰瘍性大腸炎やクローン病では、炎症にかかわるリンパ球たちが炎症の現場に次々と駆けつけて炎症を慢性化、持続化させることがわかっており、これらのリンパ球を排除する抗体製剤がベドリズマブです。さらに近年、S1P受容体調節薬オザニモドという薬が認可されましたが、これはリンパ球が炎症部位に駆けつけられないようにリンパ節内に留めさせ、炎症を枯らすように治めます。
一方で、サイトカインを阻害する抗体製剤は、無限に湧いてくるサイトカインを次々打ち落とすような作用をしますが、サイトカインの増殖スピードに追いつかなくなることがあります。このような状況を打開するかもしれない薬剤として、細胞内伝導路のヤヌスキナーゼ(JAK)-STAT経路を阻害する薬剤のJAK阻害薬が登場しました。炎症性のサイトカインを様々な方法で抑える治療法が登場したことで、炎症性腸疾患の病態を制御できる時代がやってきているように感じます。
多田
たいへんな進歩ですね。
猿田
また日本で開発された治療法も存在します。これは、血球成分除去療法というもので、腸管外から腸粘膜に好中球やリンパ球などの炎症細胞が移入するのをフィルターやビーズを用いて透析のような方法で排除します。現在、日本で使用可能なのは単球系あるいは好中球を排除するものが主ですが、このGMA(顆粒球単球除去療法)を行うと、炎症局所に炎症細胞が駆けつけるのを確実に排除するため、全身の免疫力を落とすことなく寛解に導くことができると評価されています。
この血球成分除去療法は非常に良い治療ですが、唯一の欠点は、かなり太い血管を探して点滴ルートを取らなければならず、患者さんからすると右腕にも左腕にも太い点滴の管を刺すので、やや苦痛を伴い、さらに透析時間の最大3時間(通常は1時間程度)じっとしていなければいけないので少しつらいところもあります。
多田
子どもや高齢者に対する治療で、気をつけなければいけないことがあれば教えてください。
猿田
近年、小児において、クローン病の発症年齢が下がり、幼小児期から発症する子も存在しています。このような場合は遺伝的因子が強いといわれていますが、あまりに若年の小児の場合には免疫抑制をかけすぎることによる日和見感染に注意しなければいけません。
一方で、長寿大国日本においては、近年、60歳あるいは65歳以上になって炎症性腸疾患を発症するような高齢発症の潰瘍性大腸炎、クローン病が増加しています。一般的に炎症性腸疾患は免疫活性が強くなっているため、治療では免疫抑制をかけるのですが、65歳を超えた方々に安易に免疫抑制をかけると、こちらも日和見感染を起こしてしまうことがあります。そこで、免疫を抑制する薬剤は期間限定で使用し、その後は免疫抑制が弱い感染症のリスクが少ない薬で維持に努めることが高齢者に対する治療で大切なポイントになります。
多田
ありがとうございました。