ドクターサロン

 日本語の「」は、精神的な姿勢や立場を表す比喩としても多用されます。「膝を折る」は屈服や妥協を、「膝を突き合わせて話す」は親密で率直な話し合いを意味します。また「膝元が揺らぐ」は、組織や基盤が危機にさらされている状態を表します。このように日本語の「」は、「支えるもの」「折れるもの」「踏ん張るもの」の象徴としても使われています。
 英語のkneeも日本語と同様に、身体の一部を超えて抽象的な意味を持っており、kneeを使った慣用表現が数多く存在します。代表的なものがbring someone to their kneesです。これは「両膝をつかせる」という直訳からもわかるように、「打ちのめす」「立ち直れない状態に追い込む」という意味になり、“The pandemic brought the healthcare system to its knees.”のように使われます。「両膝をつかせる」というイメージですから、このkneeは必ず複数形kneesになります。
 同じくkneesを使った表現にweak at the kneesがあります。これは「恐怖や緊張で力が抜けた状態」を意味し、“I felt weak at the knees when I heard the results.”のように使われます。もちろんこれは「筋力低下」などの身体的な症状ではなく、あくまで感情的な反応を表す比喩表現として使われています。
 up to one's knees inは「両膝まで~に浸かっている」というイメージの表現で、忙しさや困難に追われている状態を表します。書類仕事に忙殺されているときには、“I’m up to my knees in paperwork.”と英語でぼやいてみるのもよいでしょう。
 一方、単数形のkneeを使う表現としてはtake a kneeがあります。これは「片膝をつく」という動作を表し、“The players took a knee during the anthem.”のように使われると「黙祷」や「連帯の意思表示」を意味します。また“Let’s take a knee for a moment and review the key points.”のように使えば、「いったん落ち着こう」や「少し間を取ろう」といった意味になります。
 「膝蓋腱反射」の医学英語はpatellar tendon reflexですが、一般英語ではknee-jerk reactionと呼ばれます。この表現はそこから転じて「熟慮を欠いた反射的な反応」という慣用表現としても使われます。そのためknee-jerkを形容詞のように用いて、“We don’t want to make a knee-jerk diagnosis.”「早合点した診断は避けたい」のように表現することもできます。
 次に膝を構成する「靭帯ligamentと「半月板meniscusに関する英語表現を見ていきましょう。
 皆さんご存じのように「十字架」は英語でcrossと言います。このcrossは動詞としても使われ、cross oneselfで「十字を切る」という意味になります。crossの語源はラテン語のcruxで、ここからcrucifixキリスト像のついた十字架」や、crucify十字架にかける」「酷評する」といった英語が派生しています。同じ語源から派生した形容詞がcruciateで、「十字形の」や「交差した」という意味を持ちます。
 膝関節の中で十字状に交差している靭帯がanterior cruciate ligamentACL)「前十字靭帯」とposterior cruciate ligamentPCL)「後十字靭帯」です。ACLは脛骨の前方への動揺を、PCLは後方への動揺を抑える役割を担っており、両者が「交差」して配置されていることからcruciateという名称が使われています。
 膝の内側と外側には、「内側側副靭帯」と「外側側副靭帯」があります。ではなぜこれらは単に「内側・外側靭帯」ではなく、「内側・外側側副靭帯」と呼ばれるのでしょうか。その鍵となるのがcollateralという表現です。
 collateralは「共に」を意味するco-と、「外側」を意味するlateralが組み合わさった語で、「横に付随している」というニュアンスを持ちます。そこからcollateral damageは「巻き添え被害」を、collateral loanは「担保を添えた融資」を意味します。
 「内側側副靭帯」と「外側側副靭帯」の英語表現は、それぞれmedial collateral ligamentMCL)とlateral collateral ligamentLCL)です。膝関節の主な動きはflexion「屈曲」とextension「伸展」であり、側方への動きは本来ほとんどありません。MCLとLCLは、膝関節の横に付着し、主要な動きである屈曲と伸展に「付随して」膝の側方安定性を保っています。そのため、単なるmedial ligamentやlateral ligamentではなく、collateralを用いた名称が使われているのです。
 膝関節において衝撃吸収と安定化の両方を担っているのがmeniscus半月板」です。「月経」を意味するmenstruationは「」を意味するmen-から派生していますが、meniscusも「小さな月」を意味するギリシア語meniskosが語源です。単数形meniscusの発音は「メニスカス」、複数形menisciの発音は「メニスカィ」となります。
 次に膝の湾曲に関する表現も確認しておきましょう。膝が外側に湾曲して、前方から見ると両脚がアルファベットのOのように見える状態を日本語では「O脚」と呼びますが、英語ではこれをO legsではなく「2つの弓が並んでいるような脚」という意味でbowlegsと呼びます。これとは逆に膝が内側に湾曲して、前方から見ると両脚がアルファベットのXのように見える状態を日本語では「X脚」と呼びますが、英語ではこれをX legsではなく「ぶつかっている両膝」という意味でknock-kneesと呼びます。bowlegsもknock-kneesも複数形のkneesとなる点に注意してください。
 一般の方が膝の「内反」と「外反」と聞くと、膝が内側に湾曲しているknock-kneesが「内反」で、外側に湾曲しているbowlegsが「外反」と思いがちですが、当然これは誤りです。膝から見て「足が内側に伸びている」bowlegsの状態が「内反varusであり、膝から見て「足が外側に伸びている」knock-kneesの状態が「外反valgusなのです。
 ですから膝の内側から衝撃がかかり、bowlegsの状態になる外傷をvarus stress injuryと呼び、主に外側構造、特にLCLが影響を受けます。膝の内側から衝撃が加わる受傷機転は比較的まれであるため、LCL injuryは4つの靭帯損傷の中では最も頻度が低いとされています。
 逆に、膝の外側から衝撃が加わり、knock-kneesの状態になる外傷をvalgus stress injuryと呼び、主に内側構造、特にMCLが影響を受けます。フィジカルコンタクトの多いスポーツで膝の外側からvalgus forceを受けたり、転倒などで膝が内側に折れ込むことでMCLは損傷を受けます。
 ではここからそれぞれの靭帯や半月板を損傷した場合に、英語圏の患者さんがどのような表現を使うのかを見ていきましょう。
 まずはanterior cruciate ligamentACL)の外傷からです。ACL injuryは、膝関節を構成する4つの靭帯損傷の中で最も頻度が高く、特にスポーツ中の動作がきっかけとなることが多く見られます。例えば「急な切り返し動作=cutting」「片脚を軸にした回旋動作=pivoting on one leg」「急停止=sudden deceleration」「バランスを崩した着地=awkward landing」「足が地面に固定された状態での膝の回旋=twisting a knee while the foot is planted」のような場面が一般的です。
 このような場面の後、患者さんがよく口にするのが“I heard a pop.”あるいは“My knee gave out.”という表現です。ACLが断裂した瞬間には「ブツッ」や「ポン」といった音や感覚を伴うことが多く、英語ではこれをa pop soundと表現します。また日本語での「膝がガクッと崩れました」と言う感覚は、英語ではgive outと表現されます。
 次にposterior cruciate ligamentPCL)の外傷です。PCL injuryの頻度は4つの靭帯損傷の中で3番目と頻度は多くはありませんが、その典型例は交通事故の際に脛骨がダッシュボードにぶつかり、後方へ押し込まれるdashboard injuryです。この場合、患者さんは膝の前ではなく後方の違和感や痛みを訴えることが多く、“The back of my knee hurts.”と表現します。また膝の屈曲や下り動作ではPCLに負荷がかかるため“It hurts when I bend my knee.”や“I have trouble going downstairs.”と表現します。
 続いてmedial collateral ligamentMCL)の外傷です。MCL injuryはACLに次いで頻度が高く、膝が内側に折れ込む、いわゆるknock-kneesの状態になるvalgus stress injuryが主な原因です。患者さんは受傷場面を振り返って、“I got hit on the outside of my knee.”や“My knee bent inward.”と説明することが多く、痛みの部位については“It hurts on the inside of my knee.”と表現します。
 これに対してlateral collateral ligamentLCL)の外傷は、4つの靭帯損傷の中で最も頻度が低く、膝が外側に開く、bowlegsの状態になるvarus stress injuryが原因となります。患者さんは受傷場面を“I got hit on the inside of my knee.”や“My knee bent outward.”と説明します。痛みの場所も“It hurts on the outside of my knee.”と、それぞれMCL injuryとは逆になる点が特徴的です。
 次に半月板損傷について見てみましょう。先に触れたように、内側半月板は内側側副靭帯との連動が強く可動性が低いため、medial meniscus injuryの頻度は高く、その受傷機転はMCL injuryやACL injuryと重なることが少なくありません。特にvalgus forceによって膝が内側に折れ込む場合、ACL, MCL, and medial meniscusの3つを同時に損傷することがありますが、これを英語ではunhappy triadと呼んでいます。一方、外側半月板は可動性が高いため、単独のlateral meniscus injuryは比較的まれで、多くの場合ACL injuryに合併して起こります。
 半月板損傷では、患者さんの表現が症状の重症度をよく反映します。軽症の場合には、膝を曲げたときに“My knee clicks.”「軽い音がする」と表現します。中等度になると“My knee catches when I bend it.”「引っかかる感じがする」と表現します。そして重症になると“My knee locks.”「動かなくなる」と表現します。このようにclickcatchlockという3段階の動詞を知っておくだけでも、半月板損傷の重症度を英語から読み取るヒントになります。
 最後に診察所見として頻用されるlaxityについて触れておきましょう。laxityは「緩み」や「不安定性」を意味し、靭帯損傷を疑う重要な所見です。形容詞のlaxは「緩んだ」という意味を持ち、relaxの語源でもあります。laxityを評価する際には、必ず左右差を確認することが重要になります。患者さんには“I’m going to check how stable your knee is. Let me know if this causes any pain or discomfort.”のように声がけするといいでしょう。