山内
バセドウ病で眼が突出することは昔から知られています。眼の奥の筋肉組織が肥大して、眼球を前に突出させてしまうということですが、この説自体は間違いないですか。
國井
間違いないと思います。
山内
これで問題になるのは、なぜ眼のその組織だけなのか不思議でしかたないのですが、なぜなのでしょうか。
國井
確かに不思議で、いろいろな説がありますが、未だ原因が明確になっていないのが現状です。一番有力視されているのは、TSH受容体が眼窩組織にあるので、TSH受容体抗体(TRAb)による組織の炎症が原因ではないかという説です。ただ、それだけでは説明がつかない方がいることも事実です。
山内
そうするとTRAbが高値の方に関しては、高いほどリスクがあると考えてよいでしょうか。
國井
よいと思います。
山内
ただし、それがすべてでもないのでしょうか。
國井
残念ながら、陰性の方や低値の方にも眼症が現れることがあります。
山内
なかなか難しいところですね。では早速治療の話にいきたいと思います。やはりこういった方々は見た目もありますが、眼球が乾くことで角膜等が傷ついてしまうことがありますので、治療が非常に大事になります。従来からステロイドと放射線治療の2つが使われていたと思いますが、この辺りからの解説をお願いします。まずステロイドはいかがですか。
國井
中等症ぐらいからはステロイドを使って、炎症を抑えることが第一選択になると思います。軽傷の方ですと局所注射で良くなる方もいます。また糖尿病でステロイドが使えない方では放射線治療を選択します。眼症の活動期をできるだけ短くして、悪化を防ぐことが目的です。
山内
ステロイドは大量療法になると思いますが、この使用方法はいかがでしょうか。
國井
施設ごとの方法があるようで、多少違いはあると思いますが、当施設では500~1,000㎎ぐらいのメチルプレドニゾロンを3日間投与して、3週間後にまたそれを繰り返すという3クール施行しています。その後、急にやめてしまうと再発するので、内服のプレドニンで減量していくかたちをとっています。
山内
施設により方法があるとのことですが、優劣はあまりついていないというか、比較試験がないのでしょうか。
國井
そうですね。どの施設もそれなりの効果は出ています。直接比較をしたデータがないので、どちらがよいとはなかなか言いにくいですね。
山内
大雑把にいうとどの程度の有効率でしょうか。
國井
ステロイド単独ですと60~70%程度炎症が落ち着くといわれています。
山内
次に放射線治療はいかがでしょうか。
國井
放射線治療は、だいたい1.5~2.0グレイを1回として、トータル15~20グレイを照射します。その奏効率は約45~60%といわれています
山内
少し落ちるかなというところでしょうか。この両者の使い分けはいかがでしょうか。
國井
ステロイドは大量使用になるので入院を必要としたり、3週間を3回なので9週間かかりますので、時間的に余裕がない方や糖尿病でステロイドが使いにくい方は放射線治療を選択します。
山内
放射線治療には抵抗を示される方もいらっしゃいますね。
國井
確かにそうですね。
山内
併用されることもありますか。
國井
はい、併用したほうが奏効率が上がり、有効率は9割近くになります。
山内
そこそこのところまでは来ていると考えてよいのですか。
國井
いいと思います。
山内
ただしその1割が残ってしまうのですね。
國井
さらに、ステロイド投与し、いったん改善しても2、3割が再発するといわれているので、無効症例が10%強という感じです。
山内
最近、テプロツムマブという新しい薬が出てきたようですが、基本的にはinsulin-like growth factor 1(IGF-1)に近い、ないしは近縁のものと聞いていますが、どういったものでしょうか。
國井
眼窩組織に線維芽細胞というものがありますが、そこにはTSH受容体以外にも、IGF受容体というものが発現しており、これが原因で炎症が起こってくるともいわれています。テプロツムマブはIGF-1受容体をブロックする抗体です。
山内
なかなか画期的なものですね。
IGF-1という名前は、随分久しぶりに聞いた感じがしますが、臨床的にこれだけ大活躍するというのは思ってもみませんでした。実際に有効性はかなり高そうですね。
國井
はい。同じように炎症を評価しているというよりは、眼球の突出具合がどのぐらい減ったかで奏効率を見ています。2㎜以上突出が減った方が9割近くいるといわれていて、かなり良くなっています。
山内
そうですね。この薬はアメリカが開発して、先生の施設でも使われているのですね。
國井
はい。10例以上使用しています。
山内
有効率は非常に高いということですが、治療期間としてはどうでしょうか。
國井
最初に1日投与して、その後3週間空けて、また投与を全部で8回繰り返し、トータル24週かかることになります。
山内
けっこう時間がかかるものですね。
國井
そうですね。
山内
ただし、これは9割以上の有効率ですが、それでも1割は残念ながら奏効しない方もいるのですね。
國井
残念ながらそうなのです。
山内
再発はいかがでしょうか。
國井
再発に関しては、販売されてからの期間が短いので正確なデータは出ていませんが、やはり薬をやめてから悪化する症例がほんの少しあるとのことです。
山内
多少の再発は治療効果が低いともいえないですね。一方で使いにくいという面もあるかもしれませんので、その辺りは後でお話しいただきたいと思います。
使う際の注意点は、禁忌も含めてどういったものがあるのでしょうか。
國井
IGF-1系のため少し血糖を上げてしまうので、糖尿病がコントロールできていない方は使いにくいかと思います。
あとはIGF-1の受容体が内耳のほうにもあるのか、使用中に難聴をきたす方がみられます。その治療で悪くなったのか、元からなのか、使用前に耳鼻科で確認していただくことが必要になると思います。
山内
糖尿病のコントロールは専門医に頼んで、コントロールしてもらいながらでよいと思いますが、難聴のほうはそうなってしまったら、そのままなのでしょうか。
國井
薬をやめれば、ほぼ聴力は回復するといわれています。まれに戻らなかった症例の報告もあるのですが、その場合、治療前に検査がされていなかったので、もともとあったのかどうかがはっきりしない症例になっています。
山内
糖尿病のチェックも大事ですが、事前に聴力を確認しておくことが大事なのですね。
國井
あとは、おなかのほうにも影響があるので、腸疾患、潰瘍性大腸炎などがある方は下痢をしやすいです。良くなっていることを確認してからの投与が望ましいといわれています。
山内
ほかに禁忌のものはありますか。
國井
ありません。
山内
そういう意味では使いやすい感じの印象もありますが、費用面はいかがでしょうか。
國井
日本には高額医療制度があるからよいのですが、確か1回当たり、最初は100万円くらい、その後は200万円弱かかります。かなり高い治療薬になります。
山内
踏み切るのは医師も患者さんもなかなかたいへんですね。
國井
そうですね。
山内
ちなみに、これだけ高額になると専門外の医師は使えるのでしょうか。
國井
専門施設や専門医という縛りは今のところついていないようですので、使うことは可能かと思います。
山内
ただし金額のこともありますので、適応をどうするのかということですが、先生の施設でも第1選択薬としてはまだ使われていないということですね。
國井
はい。やはり、費用的なことが大きく、ステロイドで改善がみられるなら、そちらを優先しています。現在のところ難治例や再発例に対して使っていくことになると思います。
山内
まず従来法を優先して、それが思わしくない場合は話し合っていくということですね。ありがとうございました。