池脇
本日は、自己免疫性肝疾患についてご教示くださいということです。自己免疫性肝疾患は自己免疫性肝炎と原発性胆汁性胆管炎(PBC)の2つあるということですが、まず自己免疫性肝炎の頻度などについて教えてください。
田中
少し古い統計になりますが、我々、厚生労働省の研究班が疫学調査をしておりまして、2016年の統計では自己免疫性肝炎は日本において約3万3,000人になっています。女性に多い疾患で、だいたい女性が男性の4~5倍ですね。20年ほど前はたぶん50~60代が一番多かったのですが、最近は診断される方の年齢が高齢化しておりまして、60~70代にピークがあります。ただ、若い方もそこそこいらっしゃる疾患です。
池脇
自己免疫が関与する肝炎ということですが、例えば自己免疫でしたら自己抗体など特異的なものはあまりない疾患なのですか。
田中
そうですね。あまり特異的な自己抗体がなくて、それが診断を難しくしている理由です。肝炎なので、いわゆるC型肝炎、B型肝炎と同じで肝臓の肝細胞が壊れるので、血液検査を行うと、昔はGOT、GPTといわれていましたけれども、トランスアミナーゼであるAST、ALTが上がってくるのが特徴です。
池脇
どちらが有意に上がってくるのか、特徴はあるのでしょうか。
田中
これは疾患のフェーズによって違いますので、ASTが上がるときもALTが上がるときもあるのですが、だいたい両方とも上がってくるというのが特徴です。
池脇
この病気は日本人に多いのかそうでないのかデータはありますか。
田中
世界的なデータを見ると、どうも欧米のほうに少し有病率が高いという報告が多いのですが、日本でもおそらくそこそこの数はいらっしゃるだろうと思っています。
池脇
以前に比べると、患者数は増えていますか。
田中
増えていますね。
池脇
肝障害は、人間ドック、健康診断(健診)でも多くて、肝障害から自己免疫性肝炎を疑うポイントはあるのでしょうか。
田中
なかなか診断が難しいところはあります。確かに健診、人間ドックでAST、ALTの上昇で精査に回ってくる患者さんはけっこう多いです。まずはウイルス性肝炎であるB型肝炎、C型肝炎を除外したうえでということになりますが、昨今、脂肪肝の患者さんが非常に多いですね。超音波検査で脂肪肝が同定できれば肝障害の原因は脂肪肝だろうと判断することが多いのですが、明確な脂肪肝がない、もちろんB型肝炎、C型肝炎でもない方で、特に先ほど申し上げた中年以降の女性ということになりましたら、まずは自己免疫性肝炎の可能性を念頭に置いていただきたいと思っています。ただ、男性でも時々あるので注意は必要です。
池脇
特異的な自己抗体がないにしても、抗核抗体やIgGの上昇が一つの手がかりになりますか。
田中
おっしゃるとおりです。そういうかたちでほかに明らかに肝障害を起こしている原因が見つからなかった場合には、まず抗核抗体とIgGを測定していただき、それの両方あるいはどちらかが上昇していたら、自己免疫性肝炎を疑っていただくということになります。
池脇
進行は緩徐だと聞きますが、健診、人間ドックの肝障害がきっかけで診断されるケースも多いのでしょうか。
田中
はい。おっしゃるとおりで、だいたい今おそらく診断された方の6~7割ぐらいはそういう方です。もともとの症状がなくて、健診でたまたま採血したら引っかかったという方ですね。
池脇
そういう意味では比較的早期に診断して治療ができるような状況になりつつあるということなのでしょうか。
田中
そうですね。ただ、我々が問題だと思っておりますのは、残りの3~4割ぐらいの方が急性肝炎で発症する方がいらっしゃることです。トランスアミナーゼが1,000とか1,500とかかなり高く上がって、黄疸も出てくるといった激しい肝炎を起こして発症する方がいる。これもだんだん最近増えてきていることがわかっています。こういう方では、先ほど申し上げた抗核抗体が当初陰性であったり、あるいはIgGが上がらなかったりという、血清学的な特徴がないことがしばしばあり、この場合は非常に診断が難しいですね。
池脇
健診で診断される症例もあれば、急激な発症例もあるということで発症様式も多様性があるということですね。
田中
おっしゃるとおりですね。ですからとにかく、ざっくり申し上げればトランスアミナーゼが上がっていて、ほかの原因が、ウイルス肝炎でも脂肪肝でも、あるいは、何でもいいのですが、何か見つからなかった場合には、1回は抗核抗体、IgGを測っていただきたいというのがメッセージになります。
池脇
診断に肝生検は必要でしょうか。
田中
はい。実は、そういう意味で特異的なバイオマーカーが未だにありませんので、診断基準では肝生検が必須となっています。
池脇
次に診断後の治療ですが、ステロイドが中心でしょうか。
田中
そうですね。
池脇
治療反応性はいいのでしょうか。
田中
はい。大多数の症例ではステロイドは非常に奏功しますので、体重にもよりますが30㎎あるいは40㎎ぐらいのステロイドを投与して、AST、ALTの下がりをみながら徐々に減量していくことになります。
池脇
反応不良例ではほかの免疫抑制剤も併用されるのですか。
田中
はい。2019年にはアザチオプリンというほかの免疫抑制薬が承認されたので、アザチオプリンを併用する。あるいはこれは未承認ですが、ミコフェノール酸モフェチルみたいな抑制剤を使うこともあります。
池脇
治療がうまくいっても、維持量は必要で、ドラッグフリーは難しいのでしょうか。
田中
そうですね。これも意見の分かれるところではありますが、日本の先生方は比較的慎重な方が多いので、少量のステロイド、プレドニンにして5~10㎎ぐらいの少量のステロイドを継続する方が多いです。どうしても完全にフリーにしてしまうと、再燃してしまう方が多いです。
池脇
きちんと管理できれば、予後は良好だと聞いています。
田中
はい。長期予後は非常に良好で、一般の日本人とほぼ変わらない状態です。
池脇
早期の診断と適切な治療が大事だということがわかりました。
先生、もう一つの原発性胆汁性胆管炎、PBCの病態です。これに関しても基本的なところから教えてください。
田中
こちらに関しては、血液検査で見つかる方が多いですが、自己免疫性肝炎とは違いまして、ALPやγ-GTPの胆道系酵素が上がっていくのが特徴です。ほとんどの方は症状がないので、自己免疫性肝炎と同様で、健康診断や人間ドックでたまたま見つかって我々のところにいらっしゃる方が多いですね。
池脇
自己免疫性の反応で、胆管が壊れるために胆道系の酵素が上がるという辺りは、炎症の場所が自己免疫性肝炎とは違うということですね。
田中
おっしゃるとおりです。胆道の細胞が壊れますので、胆汁うっ滞が起こって肝臓が壊れてくるといった疾患です。
池脇
この疾患も女性が多いですね。
田中
はい。以前は9対1で女性が多いといっていましたが、最近は4対1ぐらいに落ち着きまして、男性の患者さんが相対的に増えています。全体の患者数が増えているのも自己免疫性肝炎と同様です。
診断は、ALPとγ-GTPが上がっている場合はやはり画像診断をしていただく。胆道の拡張がありますと、悪性腫瘍とか胆石の可能性があります。一方、胆道の拡張がなければこの病気を疑い、抗ミトコンドリア抗体を測定していただく。これが非常に特異性が高いので、抗ミトコンドリア抗体が陽性であれば、肝生検をせずにPBCと診断がつくということになります。
池脇
確かに先ほどの自己免疫性肝炎と違って、抗ミトコンドリア抗体陽性がPBCを積極的に疑う根拠となり、診断をスムーズに進められる感じがします。
田中
おっしゃるとおりですね。血液検査で話が進みますので。
池脇
PBCは痒みという印象がありますが、治療はウルソデオキシコール酸が効くと聞いています。
田中
先生がおっしゃるように、ウルソデオキシコール酸が第一選択で、全体の7割ぐらいの方はウルソデオキシコール酸だけで反応して、長期予後が良好です。ただ、残り3割ぐらいの方はウルソデオキシコール酸だけではなかなかALPが下がってきませんので、もう一つの薬剤を追加します。
我々は長年、ベザフィブラートという薬をよく使ってきたんですが、昨今、この第二選択の治療に様々な製薬会社が参入してきまして、今、治験が何種類か行われていて、もうすぐ新しい薬の話が出てくるだろうと思っています。
池脇
ベザフィブラートというのは高脂血症の薬ですけれども、ペマフィブラートという比較的新しい薬も効果があるという結果が出ていますね。
田中
そうですね。ペマフィブラートも少数例のケースシリーズですけれども、効果があるという結果が出ておりまして、これも今治験を行っている状況です。
池脇
痒みに対する対処はどうでしょうか。
田中
痒みはけっこう重大な問題です。長期予後は良いので、逆に痒みを含めた患者さんのQOLをいかにキープするかというのは非常に重要なところだと思っています。従来、かなり進行したPBCの患者さんではかなり痒みがある。一方、進行しなければ、あるいはALPが正常であれば痒みはないだろうと我々は考えていたのですが、昨今よく調べてみますと、ALPが正常でもけっこう痒みがある方はいらっしゃるのですね。
これもなかなか対処が難しくて、なかなかいい薬がなかったのですが、ここ数年治験を行っておりまして、2025年の春に第Ⅲ相試験の結果が出て、効果が出る薬が出てきますので、来年ぐらいには使えるようになると思っています。
池脇
最近は脂肪肝による肝障害が多いのも事実ですが、中には先生に解説いただいた自己免疫性肝疾患もあるのだという観点で、必要なときには検査をしていただく重要性を痛感いたしました。ありがとうございました。