ドクターサロン

池田

基本的なことからお話をうかがいたいと思いますが、まず、アメーバ性大腸炎とはどのような疾患でしょうか。

櫻井

これは赤痢アメーバという原虫による消化管の感染症として発症します。赤痢アメーバの原虫に汚染された糞便に汚染されたものを経口摂取することで感染が成立し、全大腸のどこでも発生しますが、盲腸、上行結腸、直腸、S状結腸辺りを中心に炎症を起こす疾患です。

症状は非常に特徴的で、粘血便、しぶり腹、テネスムスといったものです。この粘血便はいちごゼリー状といって、粘液と出血の成分が混在したものが出てくるのが特徴になります。

池田

質問に、海外渡航と同性愛者のキーワードがありますが、このあたりの関係と発症はどのようになっているのでしょうか。

櫻井

赤痢アメーバに汚染された糞便に汚染されたものを摂取すると感染が成立するので、下水道が整備されていない地域や発展途上国などでは、汚染された水、氷、生野菜、生肉といったものを摂取すると感染する場合があります。海外渡航歴は特にそのような地域への渡航の有無が非常に重要になってきます。

一方、日本のような先進国ではかなり多くの部分が同性愛者間で、いわゆる口腔、肛門性交を介して感染が成立しています。なので、赤痢アメーバ症の方では海外渡航歴と同性愛者に関しての問診は、必要になってきます。それ以外に、国内でも汚染された水や野菜、肉、氷といったものを何らかのかたちで摂取する機会があれば、感染する可能性があると考えられます。

池田

日本における感染源はどのようなイメージでしょうか。

櫻井

海外渡航もなく、同性愛者でもない患者さんの発症は一定数います。我々も詳細に問診で確認しますが、おそらく食品や水を介していると思われます。患者さんに心当たりがあるケースはほぼないのです。例えばペット、犬や猫の同じ哺乳類ではアメーバの感染があるといわれていますが、ペットから人に感染した事例は今までに報告がありません。問診としては確認させてもらいますが、まずそのようなこともないだろうと考えられるので、やはり食品関連だろうと考えています。

池田

逆に、海外渡航した場合に感染してしまっても症状がない方はいるのでしょうか。

櫻井

アメーバを保虫している方で、無症状の方は一定数いるといわれています。まったく症状がなく、そして内視鏡を行った際に偶然指摘されるケースはあります。

池田

まれにそういった方が感染源になっていることも否定はできないのですね。

櫻井

否定はできません。

池田

治療法は確立されているのでしょうか。

櫻井

ほぼ確立されていて、まずメトロニダゾールという抗菌薬を内服していただきます。これによって腸炎はほぼ治療することが可能で、症状も取れますし、内視鏡所見も著明に改善します。

ただ注意点は、メトロニダゾールはアメーバ赤痢の原虫の栄養体という、活動している原虫を治療するのに奏効しますが、休眠状態の囊子体(シスト)の治療には向いていません。したがって、メトロニダゾールで治療した後にパロモマイシンという囊子体用の治療薬を、追加で内服していただくのが定型的な治療になります。

池田

そうすると、アクティブフォームもサイレントフォームの両方とも治療可能ということですが、この病原体が消えたかはどのように判定するのでしょうか。

櫻井

病原体が消失したことを確定させるのはなかなか難しいですが、ひとつは内視鏡検査で、病変が完全に消失していることを確認する。そして病変があったところをランダムで生検を実施し、顕微鏡下で虫体がいないことを確認する。そして最後に検便での直接鏡検を実施し、虫体がいなくなっていることを確認する。これをもって治療の終了と判定しています。

池田

コロナ禍のときにPCR等で病原体を調べていましたが、そういうことはされないのでしょうか。

櫻井

今、直接PCR等は行っていませんので、間接的な方法で実施をしています。抗体測定の検査も血液検査では存在しますが、やはりできるだけ直接的に近い方法ということで、生検と検便としています。

池田

それで治療を終えた後ですが、質問にもあるように、再活性化などの考え方はあるのでしょうか。

櫻井

この再活性化は実は非常に難しく、一般的にはしっかりと治療を受け終わった方がまた再活性することは、アメーバの場合に基本的にはないと考えられています。ただ、無症状のまま保虫、保菌している方がいます。それから栄養体の治療は終わったが、囊子体の治療はされていないというケースの場合に、それがどのぐらい再発してくるのか、あるいは再活性化して症状が出てくるかに関しては、詳細なデータは多くありません。日本からも研究データは出ていますが、同性愛者に限定された再発データであって、一般の方、特に高齢者の方の再発に関してはデータが皆無のため、答えは不明ということになります。ただ、多くはありませんが、私の経験では、きちんと治療を終えられた方に関して再活性化は今のところはありません。

池田

そのへんに関しては治療がしっかりできていれば心配は必要ないということですが、再感染を起こす方には特徴があるのでしょうか。

櫻井

そうですね。日本では同性愛者の方の感染が非常に多く、行動パターン、特に性的嗜好にある程度特徴のある方が多いです。そのような方は繰り返し再発します。一方、そのほかの方々については感染する機会は多くないのが実情ですので、あまり再発に関して心配いただくことはないかと思います。

池田

性的嗜好に依存して、再感染もありうるということですね。

櫻井

そうですね。

池田

再感染した場合も、症状は同様なのでしょうか。

櫻井

ほぼ同様になります。検査あるいは治療に関しても、ほぼ同じ手順を踏むことになります。

池田

皮膚科だと梅毒が再感染の問題になりやすいのですが、アメーバ症に関しても抗体のようなものができるのでしょうか。

櫻井

抗体は短期的に出現して、感染から一定期間は抗体測定をすると反応が出てきます。ただ、経験上は時間の経過とともに抗体価が下がってくるので、繰り返し感染を起こした方の場合、抗体価を測定して、感染の有無をチェックするのは向いていないと考えています。

池田

例えば梅毒だと抗体価が2回目、3回目と上がってきますが、それほど診断に役に立つ抗体価ではないということですね。

櫻井

ないと考えていいですね。

池田

最後になりますが、再活性化する感染症として結核、帯状疱疹、抗がん剤によるB型肝炎といろいろありますが、このほかに先生が注意されている疾患はありますか。

櫻井

私は主に炎症性腸疾患を診ておりますが、サイトメガロウイルスですね。この再感染はしばしば経験しますので、注意していただくことをお勧めします。

池田

先ほどから同性愛者の方には申し訳ないですが、同性愛者の方々で再活性化するような疾患はありますか。

櫻井

各種なんでもありうると思っていただいたほうがいいです。EBウイルス、一般の方ではまれですが、重篤な再活性化を起こしたり、ヒトヘルペスウイルス、ヘルペスシンプレックス(単純ヘルペスウイルス)の再活性化も十分考えておく必要性があります。

池田

あらゆるものが再活性化するのですか。

櫻井

あらゆるものですね。

池田

最近、いろいろな疾患に対するステロイドの使い方が上手になってきて、こういった再活性化も抑えられていると思いますが、今先生がおっしゃったような疾患に対する注意が非常に重要になってくるということですね。

櫻井

そのように考えます。

池田

ありがとうございました。