ドクターサロン

池田

本日は最近流行している小児の水痘について質問が来ています。まず水痘・帯状疱疹ウイルスというのはどんなウイルスなのでしょうか。

浅田

水痘・帯状疱疹ウイルスは、ヘルペスウイルス科に属するウイルスですが、名前のとおり、水痘(水ぼうそう)と帯状疱疹という2つの病気を起こすウイルスとしてよく知られています。

池田

こういったウイルスというのはどんなふうに移っていくか、いわゆる伝播様式はわかっているのでしょうか。

浅田

このウイルスにまだかかったことがない方が、初めて感染すると、水ぼうそう、すなわち水痘を起こすのですが、その経路は、口・咽頭から入ってきて、全身の血中に流れ、そして皮膚に散布疹、すなわち小さい水ぶくれを生じてきます。

池田

まず喉から入って、全身に広がってということですが、水痘に感染した方からはどのようにして次の方に移っていくのでしょうか。

浅田

水痘に感染した方は喉からウイルスが出ていますので、飛沫感染や空気感染という様式で、次の人の喉から入って伝播していきます。

池田

空気感染と聞きますと、新型コロナのように、しゃべったりしていても移っていくのでしょうか。

浅田

感染力が強いウイルスなので、空気中に浮遊しているウイルスが喉から入ってきて移ります。

池田

では、例えば小さなお子さんが水痘になって友達と遊んでいると、自然に移っていくのでしょうか。

浅田

近くで遊んでいると、やはり感染する可能性が高いです。

池田

水疱の中にもウイルスはたくさんいるのですか。

浅田

口からだけでなく、水ぶくれの中にもウイルスがたくさんいます。そのため、水ぶくれを触った手で物に触れ、それを口に運ぶと感染する可能性があります。

池田

発症したら、いつ頃まで感染を気にして生活するべきなのでしょうか。

浅田

一般的には皮膚疹が乾くまで、すべての水疱がかさぶたになるまでは感染力があるといわれています。学校の出席停止期間も、皮疹がすべて乾くまでと定められています。それまでの間は口からもウイルスが排出されている可能性があると考えられています。

池田

そこまでは学校へ行かせないということですね。

それから、質問にもありますが、定期接種はいつ頃からどのようなワクチンを使うようになったのでしょうか。

浅田

2014年から定期接種が始まったのですが、このワクチンは、水痘ウイルスを弱毒化した生ワクチンです。生きているけれども、弱らせたウイルスをワクチンとして接種します。それを、1歳になれば2回接種することになっています。

池田

そのワクチン接種でどのくらいの発症予防が予測されているのでしょうか。

浅田

2回接種すると、予防効果はとても高く、ほとんどの方で感染を防ぐことができます。ごく一部の方では発症することもありますが、その割合は数パーセント程度です。発症した場合でも、症状は軽く、熱や発疹も軽度で済むことがほとんどです。

池田

その免疫はいつ頃まで、何歳ぐらいまで続くのでしょうか。

浅田

まだ2回接種が始まってから10年ほどですので、今後の動向を見ていく必要がありますが、現時点ではほぼ終生免疫が得られると考えてよいと思います。

はしか、風疹、水痘は、いずれもワクチン2回接種によってほぼ一生予防できると考えていただいてよいと思います。

池田

定期接種の前にも年1回ぐらい水痘の予防のワクチンを使っていた時期があるとうかがいましたが、これはいつ頃からなのでしょうか。

浅田

水痘ワクチンは1980年代から任意接種として使用が始まりました。これは大阪大学微生物病研究所の高橋理明先生が開発された、日本発のオリジナルワクチンです。現在、世界中で使われている水痘ワクチンはすべて、日本で開発された「岡株」をもとに作られています。

ただし、当時は任意接種でしたので、すべての子どもが接種を受けていたわけではなく、限られた人々にとどまっていました。したがって、毎年水痘の流行がみられたのは、ワクチンが十分に普及していなかったことが一因と考えられます。

池田

任意接種だったので、接種率があまり上がらず、水痘が流行していたということなのですよね。

浅田

そのとおりです。

池田

2014年から水痘のワクチンを定期接種している一方、最近また水痘が流行してきたということですが、これはどういったことが考えられているのでしょうか。

浅田

やはりコロナの流行により、皆さん感染対策に注意を払うようになり、マスクの着用や、密の回避などを徹底されたことで、コロナ禍の期間中は、水痘の患者さんが大きく減りました。もともと水痘ワクチンの定期接種が始まり、水痘の流行は減少していたのですが、コロナ禍の厳密な感染予防対策のおかげで水痘の発生はさらに抑えられていました。

その結果、水痘ウイルスに対して免疫を持たない、いわゆる感受性のある人たちが、水痘ウイルスの感染を免れて、社会に一定数たまっていったと考えられます。そして、今回コロナが収束し、感染対策が少し緩んできたことを契機に、そうした方々を中心に水痘患者さんが再び増えてきている、という状況です。

池田

百日咳も含めて、ほかの感染症も増えているといわれていますが、これは同じようなイメージでとらえているのでしょうか。

浅田

おっしゃるとおりです。百日咳やRSウイルス、マイコプラズマなど、様々な感染症が似たような動向を示しておりますので、それと同じように考えていただいてよいと思います。

池田

今の流行状況というのは、定期接種が始まる前と比べて少ないのでしょうか。

浅田

おっしゃるとおり、定期接種が始まる前と比べるとかなり少なくなっています。定期接種前よりも少ないのですが、ここ5年の間では今年が一番多いという状況です。

池田

それを小児科医を中心に感じておられるわけですよね。

浅田

はい、おっしゃるとおりです。

池田

成人の帯状疱疹の方から水痘が感染するのではないかという質問をよく受けます。これは事実なのでしょうか。

浅田

そのとおりです。帯状疱疹の水ぶくれのところにはウイルスがたくさん含まれていますので、例えば帯状疱疹になったおじいちゃんが、まだ水痘にかかったことないお孫さんと一緒にお風呂に入って、お孫さんに水痘を移してしまう、ということもあります。つまり、帯状疱疹が水痘の震源地になる可能性は十分に考えられます。

ただ、水痘の流行全体としては、基本的に子どもから子どもへと感染していくのですが、最初の発端となる水痘の感染源が帯状疱疹であるケースも少なくないと考えられています。

池田

やはり移す可能性があるので、小さなお子さん、あるいは免疫が落ちているような患者さんたちには近づくなというのは原則なんですね。

浅田

はい、おっしゃるとおりです。

池田

定期接種が始まった後のお子さんたちはまだ接種してから時間があまり経っていないと思うのですけれども、こういう方たちは帯状疱疹にはならないのでしょうか。

浅田

定期接種の水痘ワクチンは、先ほど申し上げましたように弱毒化したウイルスです。これをあらかじめ接種することによって、抵抗力がつくと、野生株のウイルスが体に入りにくくなります。一方、接種した弱毒のワクチンウイルス株は、体内に住み着きます。この弱毒ウイルスは、帯状疱疹を起こす力が弱いのです。帯状疱疹というのは神経節に住み着いたウイルスが再び活性化して起こる病気ですが、弱毒ウイルスはこの再活性化の力が弱いのです。したがって、ワクチンを受けたお子さんたちは将来的に帯状疱疹になりにくいと考えてよいと思います。

池田

弱毒ウイルスなので体から排除されてしまうのかと思いましたが、ちゃんと生き残っているのですね。

浅田

おっしゃるとおりです。弱毒とはいえ、ヘルペスウイルスですから、体の中に潜伏する性質を持っていて神経節の中に残っています。

池田

簡単にいうと、弱毒のウイルスを体に住まわせて味方にして強力なウイルスを排除するというイメージでしょうか。

浅田

はい。そのように考えていただいていいと思います。

池田

ありがとうございました。