齊藤
まず、胆石・胆囊炎の疫学に何か変わりはありますか。
伊佐山
疫学もだいぶ整理されてきました。現在、発見された胆囊結石の8割は無症状といわれています。それをフォローアップすると、生涯の間に有症状化、すなわち胆囊の疝痛発作あるいは胆囊炎などを起こす方が2割弱といわれています。無症状のまま経過される症例がとても多いことがわかってきました。
そのような統計から、昔は胆石があるだけで手術という治療方針がありましたが、現在は症状がない方は経過観察が標準です。手術のメリットとしては、胆囊癌の発生を未然に防ぐというような話もありましたが、現在の胆石症ガイドラインでも胆囊結石がある方に胆囊癌が高率に発症するというエビデンスはないということが明記されており、そういった観点からも無症状の胆石を手術することはなくなってきました。
齊藤
次に診断法がとても変わってきたそうですね。
伊佐山
今は腹部超音波検査が非常によく見えるようになりましたので、胆囊結石に関しては超音波で存在診断が主流です。経口、静脈注入、あるいは直接の胆囊造影は施行しません。
それから胆囊結石の治療のときに非常に重要なのは、胆管結石が合併しているかどうかです。胆囊結石と胆管結石はどちらも胆石症とまとめられていますが、胆管結石は有症状率が極めて高く、6~8割にものぼるといわれているので、胆管結石は胆囊結石より要注意といわれています。昔は胆管結石の診断のためにERCPを行ったりすることがありましたが、現在はMRCPが標準です。
しかし、やはり難しい症例は存在し、特に小さい石の場合はなかなかわからないことがあります。そういった場合には超音波内視鏡が有用です。現在、胆道膵臓領域では超音波内視鏡の発達がその分野の発達をリードしています。超音波内視鏡は平たくいうと、胃カメラの先端に超音波が付いていて、胃や十二指腸から超音波検査を行います。それによって胆道や膵臓の微細構造がわかります。最近では治療にも応用されてきましたが、非常にパワフルな診断機器でもあり、胆膵領域の診断が一気に進んだという背景があります。
齊藤
超音波内視鏡が画期的だったということでしょうか。
伊佐山
そうですね。やはり小さい石などはなかなか見えません。CTで何でも見えると思っている医師も多いと思いますが、実は胆囊結石にはX線透過性結石、要はレントゲンやCTで写らない石がけっこうあります。こういうものは超音波、MRIではある程度写るのですが、画像のクオリティ的に見えないこともあります。そういうときに超音波内視鏡だと小さい石であっても、高い描出率が示されています。この辺りが大きな違いなのではないかと思います。
齊藤
診断がたいへん進歩して、それに伴って治療がまた変わってきたということでしょうか。
伊佐山
そうですね。ベーシックな治療である胆石発作の予防などはあまり変わっていないと思います。昔はウルソデオキシコール酸の内服で胆石を溶かすとか、ESWLという衝撃波による破砕術は、尿管結石などでよく聞かれたかもしれませんが、そのような治療が現在ではほとんど行われなくなりました。というのは、効率も悪いですし、偶発症もあるからです。今日、腹腔鏡下の胆摘が非常に効率よくなってきており、日本中どこでも同じようなクオリティでできるようになってきました。無症状の胆囊結石は基本的には経過観察、有症状化したら手術とシンプルな治療方針が標準です。有症状のまま頑張る方もいらっしゃいますが、かなりの方が手術を行う状況になってきました。
齊藤
まず腹腔鏡下手術が、ある段階で急激に日本に広まったのですね。
伊佐山
そうですね。開腹手術をしていた時代から腹腔鏡へと時代は変わっています。これも限られた施設で行っていた時代から、今はいろいろな施設に広まっています。開腹手術から腹腔鏡下手術への移行というので、開腹でトレーニングを受けたベテランの医師は腹腔鏡手術に移行することに抵抗があったりしましたが、今の外科医は最初から腹腔鏡下手術であって、逆に開腹することをあまりしなくなったそうです。そういう時代になってきて、シミュレーターなどもかなり発達してきていますし、普遍的に胆摘術ができるようになって、日本中、世界中で、治療方針がシンプルになってきました。そういう時代の変化を我々内科医も横にいて実感しています。
齊藤
そして先生のメインの領域の、内視鏡的なアプローチがあるのですね。これはどのようなことを行うのでしょうか。
伊佐山
胆囊結石で胆囊炎を起こした方は基本的には手術になりますが、やはり手術ができない方はけっこう多いです。心臓、肺、いろいろな合併症を持っている方、高齢化に伴い、90、100という超高齢者に対する手術はなかなか難しいことが多いです。90代の方でも当院の外科医は頑張っていますが、やはり手術に向かない方は一定数います。そういった方の胆囊炎のマネジメントに関しては、だいぶ治療方針が変わってきました。
ご存じのように、胆囊は袋になっています。胆囊炎は、袋の中の胆汁に細菌が感染して、大きな膿の袋のようになってしまっている状況を想定していただければと思います。このような、いわゆる膿瘍は抗生剤だけでは収まらないことが多いので、基本的にはドレナージを行います。手技としては経皮的に行うドレナージが現在でもスタンダードで、超音波ガイド下に経皮経肝的に胆囊を刺す治療が行われています。緊急時には今でも広く行われています。
ただ、この手技の後で手術ができないとなったときには、そのチューブを一生抱えて生きていくか、あるいは頑張って抜いて、再発したらまた刺すようなことが行われたりしていました。
内視鏡的なドレナージは、ERCPの延長線上で、胆囊管が胆管に合流してくる部分、いわゆる、らせん管の中にガイドワイヤーをうまく通して、経乳頭的にドレナージチューブを留置します。そのような手技もだいぶやってきました。ただ、ERCP自体が難しかったり、ガイドワイヤーで胆囊管を探るのが難しいので、あまり広まりませんでした。それに対して、経皮的な治療はわりと普遍的に、比較的安全で簡便にできるということでぐっと広まってきたものの、患者さんのQOLとしてはあまりよくないのが現実です。
超音波内視鏡ガイド下で胆囊をドレナージするというのが、以前から保険適用にはなっていました。そのときに使うAXIOSステントという非常にいい金属ステントが日本にも導入されて使えるようになったことで手術ができない方のドレナージは、非常によくなってきたと思います。
AXIOSステントというのは、ヨーヨー型で抜けにくいステントで、膵仮性囊胞のドレナージでも使用されています。ステントの内腔も比較的広いので、ステントを留置して、中の膿汁を吸引して、炎症が収まった後にそのステントを通して内視鏡を直接胆囊に入れることもできます。胆囊内の石にアプローチして破砕や除去するようなこともできるようになって、切除できない方の治療もかなり進歩してきました。ただ、あくまでも切除可能な方は手術をするのが大前提で、手術ができない方に対する治療法として、この超音波内視鏡下の胆囊ドレナージが進んできているところです。
齊藤
現況はまだ名人芸的なところがあるのでしょうか。
伊佐山
超音波内視鏡下の手技はまだ開発中のものも多く、名人芸的なところはしばらく前まではありました。しかしAXIOSステントというのは、胆囊を超音波内視鏡で観察しながら、そのステントのデリバリーシステムで直接胆囊を刺して、胆囊内にそのままステントを入れてくるというシステムを備えていて非常に簡便かつ安全です。AXIOSステント導入前は胆囊を刺して、ガイドワイヤーを入れて、胆囊の壁と十二指腸の壁を拡張して、最後にステントを入れてくるというので、名人芸的なところは残っていました。しかしAXIOSステントが出てきて、今は誰でもできるようになってきています。この辺りが以前とはだいぶ違います。やはりトレーニングは必要になっていますが、これからこの手技に関してはどんどん普及してくるのではないかと思っています。
齊藤
今後の展開について何か思われることはありますか。
伊佐山
胆囊炎に関しては、緊急手術が標準となっていますが、なかなか緊急ではできずに、ドレナージを挟むこともけっこう多いです。手術可能症例に対しては超音波内視鏡下のドレナージはあまり向かないといわれていますが、おそらくそういったものに対するドレナージ術も開発されて、外科の技術も進み、患者さんにとっては皮膚を通して刺されるよりはだいぶ楽な治療になると予想しています。ドレナージ後に胆囊結石が取れるようになると、切除をしなくても済む方が増えてくるのではないかと考えています。このようなことが将来に向けての期待です。
齊藤
ありがとうございました。