ドクターサロン

藤城

本日は、腎不全についてお話をうかがいたいと思います。

昭和・平成・令和と時代が進む中で、腎不全の概念や診断基準の変遷について、まずはお聞かせいただければと思います。

猪阪

私が医師になったのは昭和の終わりで、当時は腎不全の概念としては慢性腎不全、急性腎不全という用語が用いられていました。慢性腎不全というのは、腎機能が約30%まで低下したような患者さんに対して慢性腎不全という用語が用いられていました。逆にいいますと、比較的軽度な腎臓機能低下の患者さんに対してはきちんとしたケアがなされていなかったというところがあります。

しかしながら、軽度に腎機能が低下したような患者さんでも、将来的に透析など腎代替療法が必要になるリスクが上がっているということだけではなく、心血管病などのリスクも非常に高くなってくる。こういったことから、軽度の腎機能低下ということも踏まえて、慢性腎臓病という定義がなされたということになります。

糸球体濾過量、これはGFRといいますけれども、この値によって90以上、60~90、30~60、15~30、15未満と5段階に分類することによって、その予後を明確にするとともに、きちんと治療をしていこうというのが目的となっています。慢性腎臓病の定義は、糸球体濾過量、GFRが60未満、あるいは蛋白尿や腎の形態異常などの腎臓の障害が3カ月以上持続していることです。腎臓病が進展するリスクが高いというだけでなく、心血管病のリスクも高いので、全人的にケアしていくことが非常に重要となっています。最近は、高血圧や糖尿病のような生活習慣病の方が慢性腎臓病にならないように、啓発活動することによって、今後、慢性腎臓病の方が悪くなっていくことを抑制しようという動きになっています。

一方、急性腎不全という用語も用いられていました。しかしながら、昭和の時代には急性腎不全というものも定義がしっかりしていませんでした。クレアチニンの上昇や尿量の減少がその基準となっていましたが、実際どれくらいクレアチニンが上昇したら急性腎不全なのかという定義がされていませんでした。

例えば心血管疾患などで手術をした患者さんが少しクレアチニンが上昇しただけで予後が悪化しているというようなことが明確となってきたということもあり、腎臓病の治療医だけではなく、集中治療の医師などが一緒になって、多くの基準が定義され、2004年にはRIFLE分類というものが用いられました。これはRisk、Injury、Failure、Loss、ESRDの頭文字を取ったものですけれども、クレアチニンが1.5倍以上、2倍以上、3倍以上、4週間以上あるいは3カ月以上腎機能喪失状態になるといったことがこれらの定義になるのですが、さらにはAKINの分類、あるいは2012年にはそれらを統合したようなかたちでKDIGOの分類も用いられるようになり軽度のクレアチニンの上昇もきちんと把握することによって、予後などを判断しようとなってきました。それとともに、腎臓の機能が低下しないように予防的な治療介入もかなり進んできました。

最近では、急性腎障害だけではなく、慢性腎臓病というのは3カ月以上持続した場合をいうわけですけれども、3カ月未満の場合も含めたかたちで急性腎疾患とする定義もなされています。こういったかたちで、比較的軽度の腎臓機能の低下をした場合でも、腎臓に対してきちんと治療介入していく、あるいは予防的な対応をとるということが最近の流れになっています。

藤城

これは国際的な動きということで、グローバルコンセンサスとして、国際会議で決められてきたという流れでしょうか。

猪阪

はい。やはり国際的な動きで、日本もそれに追随するようになっているのが現状です。

藤城

続きまして、治療の変遷についてお聞きできればと思います。

猪阪

まず慢性腎不全のお話からさせていただきますと、昭和あるいは平成の初期には、慢性腎不全に対する治療としては、食事療法や血圧の管理といったところしかできませんでした。食事制限としては、塩分を制限したり、たんぱく質の過剰な摂取を抑制したり、保存的な治療によって腎不全の進行を抑制することが治療法となっていました。

平成になって、2001年頃になりますと、高血圧の薬の中でも、レニン・アンジオテンシン系の阻害薬(RAS阻害薬)が腎不全の進行を抑制するということがわかってきて、降圧薬の種類もきちんと選んで治療されるようになりました。

1990年頃までは、腎不全の患者さんではどうしても腎性貧血といった併発症が起きていましたが、それまでは輸血しか治療法がなかったのですが、1990年頃になってヒトエリスロポエチン製剤などが用いられるようになって、腎性貧血に対する治療法も行われるようになりました。

それ以外にも、腎不全の患者さんの併発症に対する様々な治療法が行われるようになりました。治療をしても、どうしても腎不全になってしまって、ほかの治療法がないといった場合には、血液透析や腹膜透析といった、腎代替療法が行われるようになっていきました。

最近では、RAS阻害薬だけではなくて、SGLT2阻害薬など、新しい薬が腎機能の悪化を抑制することもわかってきましたし、糸球体腎炎などの疾患に対しても個別な医療ができるようになってきたので、今後は末期腎不全が抑制されるようになってくるのではないかと思います。どうしても腎不全になってしまうような患者さんに対しても、在宅透析や夜間透析、そして移植といった治療法においても免疫抑制剤が非常に多様化してきましたので、患者さんのQOLが上がってきたのではないかと思います。

藤城

慢性腎臓病に対する治療もかなり進歩してきたことがわかります。続いて、急性腎不全の治療はいかがでしょうか。

猪阪

急性腎不全に関しては今でもなかなかできていないのですが、昭和の頃は、原因を除去することと、急性腎不全の場合には、体液がたまったり、電解質の異常が生じたりすることに対して、それらを改善するような治療であったり、非常に重症な場合には、血液浄化療法などを用いることによって、患者さんの状態を改善するといったことが行われてきました。

平成になりますと、原因に応じた治療ということで、例えば最近でも紅麴のサプリメントによって腎機能が悪化するといったことがありましたが、それらの原因となる薬剤を中止する、あるいは、腎後性といいまして、尿路結石などによって腎機能の悪化が起こってくることもあります。そういった原因に応じた治療をするとともに、食事療法や薬物療法も行われるようになってきました。

それとともに、手術によってどうしても腎臓の機能が悪化することもよくありますが、それらに対して、予防的に腎機能の悪化が起こらないように、あらかじめ患者さんのリスクを評価する、あるいは予防的に輸液を行ったりすることで、腎不全を予防するための介入がなされていくようになりました。

最近は急性腎障害のバイオマーカーがいろいろ検討されていますので、それらを用いることによって、急性腎障害になった場合にはできるだけ早期に発見して、早期に治療介入できるようになってきたというのが現在の状況です。

藤城

最後に、腎不全の診療における将来展望や近未来についてお聞かせいただければと思います。

猪阪

急性腎障害に関しては、国際腎臓学会が2025年までに急性腎障害によって死亡する患者さんがいなくなるようにというプロジェクトが開始されていました。まだまだきちんと成果が出ているような状況ではないですが、各国がどのような場合に急性腎障害になるかというようなデータを持ち寄ることによって、今後の対策を検討しています。

我々も、例えば造影剤などを使用することによって急性腎障害などのリスクが上がりますが、実際多くの論文などを検討することによって、このようにすれば急性腎障害を抑制ができるといったことを今ガイドラインとして作成しているところです。

慢性腎臓病に関しては、急性糸球体腎炎などによる慢性腎臓病あるいは透析になるような患者さんというのは、現在、非常に減少してきているところですが、糖尿病や高血圧によって慢性腎臓病の方が悪化するといったことが、まだまだ防ぎきれていません。国民に対して、慢性腎臓病のリスクについて、これからも啓発することにより、慢性腎臓病が進展しないようにと進めているところです。

藤城

どうもありがとうございました。