池脇
今回は喘息の検査の質問です。呼気の一酸化窒素、いわゆるNOの測定が気管支喘息の補助診断検査として有用とされています。喘息は好酸球の気道の慢性炎症ですが、どうしてNO上昇につながるのか教えてください。
松永
この呼気NO検査は、日本では2013年に保険で承認され、主に喘息やCOPDといった慢性の気道の炎症性疾患の気道炎症の評価に使えるバイオマーカーとして現在、臨床現場で活用されています。そもそも、なぜ喘息のバイオマーカーとして、特に好酸球性の炎症評価に使えるのかというと、喘息やCOPDという慢性の気道疾患において、気道の慢性炎症のメカニズムの機序としては、タイプ2サイトカイン、2型サイトカインといわれるインターロイキン(IL)の4、5、13が活性化しています。これらが活性化することによって、例えばIL-5であれば、好酸球が分化・増殖、活性化します。そしてIL-4、13は気道において一酸化窒素合成酵素(iNOS)というものを作っていますので、その合成酵素が盛んに生成されることによって、呼気中の一酸化窒素濃度が上昇するわけです。
このようにIL-4、5、13を基盤とするような炎症に共通しているものが、例えば喀痰中の好酸球であり、気道の呼気中のNO濃度であるため、これらが気道炎症のバイオマーカーとして用いられています。
池脇
NOは、例えば血管内皮では血管拡張作用によって生体保護的に働きます。気道で好酸球によって産生されるNOは必ずしも生体保護的な役割ではないということでしょうか。
松永
おっしゃるとおりです。NOについてもう少し詳しい話をさせていただきますと、先ほどお話ししました、NOの合成酵素、いわゆるNOS(NO Synthase)には3種類あります。先生からご指摘いただいたような、生体保護的に働くNOが血管内皮由来のeNOSや神経由来のnNOSが産生するNOというものは生体内では非常に微量ですが、生体保護的に働きます。
一方、喘息やCOPD患者さんの呼気中に上昇してくるNOのソースは別です。iNOSという誘導型の一酸化窒素合成酵素が気道の炎症に伴って、特にIL-4や13の刺激が強いのですが、盛んにiNOSが合成されてきた結果、呼気中のNO濃度が上昇します。
つまり、喘息で私たちが測定している呼気の一酸化窒素濃度というのは気管支、気道のタイプ2炎症といわれているものを反映しています。好酸球性炎症やアトピー型炎症と読み替えていただいてもけっこうです。そういうものの非常に炎症の強い状況を反映、補足している検査になりますので、これは治療ターゲットになるということです。
池脇
今の解説で、どうして喘息の方で呼気中のNOが増えるのかがわかりましたし、それを測定することによって今回の質問のように、気管支喘息の診断にも有益だということがわかりました。診断以外に治療も含めてこの検査は有用なのでしょうか。
松永
一つは治療薬の有効性の予測に使えます。特にNOが上昇してくるようなタイプの好酸球性炎症やアトピー型炎症という場合に、よく臨床現場では吸入ステロイド薬を使うと思います。吸入ステロイド薬が非常に反応しやすいかどうかを、この検査を行うことよって予測することができます。最近登場してきた生物学的製剤も、IL4、5、13をターゲットとした薬剤が盛んに使われていますが、この薬剤を使うか使わないかという薬剤選択にも使えます。
さらに、呼気のNO検査は治療のモニタリングにも使うことができます。患者さんが吸入ステロイドを始めて、治療効果が出てきて、最初高かったNOが下がってきます。しかし、患者さんが服薬をさぼったりすると、せっかく下がったNOがまた上がってきます。まじめに吸入薬を使っているかを患者さんに聞くと、NOが再上昇してきた患者さんの場合、実は最近夜が抜けていましたということもあり、患者さんのアドヒアランス評価にも使うことができます。
池脇
先生のお話だと、特に専門医にとっては診断プラス治療のいろいろな局面で必須の検査といってもいいぐらいの気がしました。
気道性の慢性炎症というのはCOPDも共通点がありますけれども、この呼気検査はCOPDと喘息で違う反応を示すのでしょうか。
松永
おっしゃるとおりです。特に典型的なIL-4、5、13などは活性化しているタイプの喘息と、たばこをたくさん吸って、肺気腫、慢性気管支炎といったようなタイプでは炎症パターンは明らかに異なっていますので、喘息ではNOが高くなるし、COPDでは高くならないという結果となり、両者の鑑別にも有用です。
しかし、例えばもともと小児喘息がある方が20歳になってたばこを吸い始めて、喘息とCOPDが混ざり合ったような病態になってくるような方もおられて、そういう方の場合には当然COPDもあるし、喘息もある。そういう方は当然NO濃度も高くなりますので、少々複雑ですが、そういう方を見極めることも可能ですし、治療薬の選択にも役に立つと思います。
池脇
実際に使っておられる医師も多くいらして使用する器具もご存じと思いますが、器具はコンパクトで、しかも1分ぐらいで結果が出るのですね。
松永
そうですね。一般の外来では診察室の机の上に置いておいても、あまり邪魔にならないぐらいの本当に小型の機械です。患者さんが機械に息を吹き込んだら、1分から1分半ぐらいで結果が出ますので、診察室に入ってきたら、最初にその機械に息を吹いていただいて、そして最近の調子のことなどをお話ししている間に結果が出てきますので、この数字を見て、今日は炎症レベルがこれぐらいだね、みたいなかたちでお話ができるかと思います。
池脇
高血圧の患者さんに血圧を測るような感じで、まずは検査してデータを見ながらというようなイメージを持ちました。
今回の質問の医師は診断として有用とされているけれど、喘息の患者さんでもけっこう正常値の方もいるのはどうしてなのか、それはどの程度の頻度なのかということですが、いかがでしょうか。
松永
確かに臨床現場で使われていると、解釈に首をかしげる症例もたまにあるのではないかと思います。その理由というか、背景には、喘息やCOPDの気道炎症があります。先ほど小児期から喘息があるにもかかわらず、そこに喫煙も加わってくるといったような例えを挙げさせていただきましたが、喘息の炎症というのは基本的には、例えば好酸球やマスト細胞、肥満細胞、Th2リンパ球や、最近では2型自然リンパ球も見つかってきましたが、このような細胞が典型的な炎症細胞として関わるわけです。それに加えて、喘息の患者さんの炎症パターンには非常に多様性がありまして、さらにそこに好中球が加わってくる方、マクロファージも加わってくる方など非常に多様性があります。そういう中で、呼気NO検査や喀痰好酸球検査などを用いても同定しきれない、つまり例えばCOPD寄りのような好中球やマクロファージが強いタイプの炎症パターンを示す患者さんもいます。だいたいこういう方が10%ぐらいはいらっしゃるかと思います。
池脇
診断のカットオフ値はあるのでしょうか。
松永
一般的には、日本のガイドラインでは35ppbを目安にそれを超えると高いという解釈をすることになっています。しかし実はもう一つお勧めしたい22ppbという非常に重要な値があります。ちなみにNOの日本人の正常値、平均値は15ppbといわれていますので、22でも1.5倍ぐらい高いということになります。35であると2倍以上高いことになるわけです。
池脇
今回の質問のように、クリアカットにこれを境にして、喘息かそうではないかというわけではなく、やはりオーバーラップなので、そういう意味でも補助的な意味なのでしょうか。
松永
そうですね。ぜひ22という値を、イエローシグナルというか喘息を疑う値として活用いただいて、35を超えてきて、しかも喘息として全然おかしくない咳、痰、喘鳴などの呼吸器症状がある場合には、ほぼ確実に喘息と診断していただけるかと思っていますので、この2つの値をうまく併用していただくのが一番いいかなと思います。
池脇
本日は気管支喘息の診断と治療で欠かせない検査になった呼気のNO検査を教えていただきました。ありがとうございました。