ドクターサロン

池脇

心不全のマーカーとしてBNP、NT-pro BNPは欠かすことのできない検査です。最近、心不全治療の新薬でサクビトリルバルサルタンといういわゆるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、略してARNIが日本でも使えるようになってきましたが、その際のBNP、NT-pro BNPの問題点についての質問です。

ARNIは2020年に発売され、ステートメントが2013年、続いて2023年に出されましたが、その背景について教えてください。

佐藤

心不全を診断する上で、3年ぐらい前に日本心不全学会、アメリカの心不全学会、ヨーロッパの心不全学会で心不全の国際定義が公表されました。その中で、ひとつ大本になるのは心不全の症状、徴候。それプラス、BNP、NT-pro BNPを測るか、あるいは何らかの画像、エコーが中心になると思いますが、そういうモダリティーでうっ血の評価をするか、いずれかがある場合、心不全と診断することになりました。BNP、NT-pro BNPの立ち位置というのは診断のためにものすごく重要です。

今までの多くの研究で、診断のみならず、心不全の患者さんの重症度、リスクがどれだけ高いかということの指標にも非常に有用だとされました。新しく心不全の診療ガイドラインが日本循環器学会と心不全学会から発表されたのですが、そのガイドライン中にもBNP、NT-pro BNPを心不全の診断あるいはリスク評価に使いなさいとして、クラスⅠの推奨度になっています。ですから心不全の診断をつけたり、あるいは質問いただいたように、ARNI等の治療を行ったときに、それを指標にどうやってコントロールするかということも含めて、このバイオマーカーはすごく重要な立ち位置になっています。

池脇

専門医は、症状あるいは画像、様々なアプローチを行いますが一般医家には難しい面もあります。採血によるBNP、NT-pro BNPは、心不全診断の入り口としてわかりやすいというメリットがありますね。

佐藤

そうですね。わかりやすいですね。

池脇

2013年の後、2023年に改訂版が出ましたが、どういうところが変わってきたのでしょうか。

佐藤

基本的にはBNPは35、100、200というカットオフ値が出て、NT-pro BNPは125、300、900というカットオフ値が提唱されました。今、先生がおっしゃったように数値として出てくるので、比較的判断がしやすいです。

裏話になりますが、そもそもこれをつくり出そうというきっかけは、肝臓学会で、ALPが40を超えたら紹介してくださいというキャンペーンでした。オーバートリアージかもしれないけれども、心不全はご存じのように患者さんも増えているし、入院も増えているし、ものすごく医療費が費やされています。ですからそこに何らかのかたちで、予防も含めてアクションしていかなければいけないというところからカットオフ値を設定して、カットオフ値をきっかけに、より早く心不全の患者さんを見つけていただきたい、あるいはリスクを評価していただきたいということでこのステートメントが出されました。

以前のステートメントよりもカットオフ値がやや低めになっているのですが、この理由は、35というのがある程度、リスクを診断するための判断材料として適切だということと、その前に出された、先ほどお話しした国際定義の中の基準値でも35というのが出てきていることにあります。ですから、齟齬があると何となく迷われる方もいらっしゃると思うので、ワールドワイドで一致させて、それを基準に判断をすることが必要かなということで、このステートメントを出させていただいています。

池脇

実地臨床で、例えばBNPが35を超える高齢者だけれども症状がない場合でも専門医に送っていいのかと迷われるケースもあると思いますが、専門医からしたら早期に見つけて、心不全を予防するということを掲げておられるので、遠慮せずに相談してもいいということでしょうか。

佐藤

そうですね。ただ、患者さんはお元気そうだし、どうしてもためらわれるという場合は、もう1個ステートメントで重要な図があって、変化率が重要であることが示されています。BNP、NT-pro BNPというのは少し負荷がかかると、それこそ20分ほどで産生が始まります。ですから±30%ぐらいの変動はあるといわれています。

このステートメントの中で50%以上増えた場合は、やはり負荷がかかって何か起こっている可能性があります。例えば高血圧や糖尿病の高齢者で、BNPが40だったとします。ただ、元気で血圧もコントロールできているので、少し経過をみたいということであれば、3か月から半年くらい間を空けてもう一回BNPを測っていただいて、40だったのが70ぐらいになってきたときは何らかのかたちで循環器医と連携をとっていただいて、少なくとも心臓の超音波検査をして、拡張能も含めて、心機能が問題ないかどうかというのはぜひチェックをしていただきたいと思います。

池脇

ワンポイントの判断が難しければ、変化を見てフォローするのですね。確かに大切なところですね。

佐藤

はい。

池脇

今回の質問ではARNIを使って、BNP濃度が上がるということですがどういうことでしょうか。

佐藤

基本的には、心臓に負荷がかかると、BNPの前駆体が心臓の中で作られます。それがFurinというものによってBNPとNT-pro BNPに分かれます。BNPというのは活性化があって心臓や腎臓を保護したりいろいろな作用を発揮しますが、半減期が20分ほどといわれており、多くはネプリライシンという酵素によって分解されるか、あるいはクリアランスレセプターで消えていくかです。一部、ほんのわずかに腎臓で排泄されますが、ネプリライシンをブロックするのがARNIです。壊れるのを防ぐので、当然、血液の中にBNPがいっぱい残り、逆にそれがいろいろな保護作用を発揮しています。PARADIGM-HFという試験で駆出率が低下した患者さんのスタディがあるのですが、それでBNPを測ると、少なくとも数か月は高い値が続いていました。一方、NT-pro BNPは、心臓が良くなれば産生は減ってくるので、NT-pro BNPは下がってきます。だからBNPは壊れるのを防がれていつまでも何とかキープできているけれども、心不全が落ち着けば当然産生が減ってくるので、NT-pro BNPは下がる。そこで間違いが出てしまうのです。

ですから、質問にあるように、使ったときしばらくの間は、BNPは高くなる。ただ、それは心臓が悪くなっているわけではなくて、むしろ良くなっている。だから、それをしっかり区別したければ、少々手間がかかってしまいますが、NT-pro BNPをチェックしていただけると、効いているなというのを自覚できて安心します。ただ、もう少し長い例えば半年とか1年とかのインターバルで患者さんの症状に変化がなければ、本当に心不全が落ち着いてくると自然にBNPも下がってきます。比較的短期で評価する場合は今のように使い分けが必要ですが、長期的に見て落ち着いているかどうかの判断はBNPで十分評価ができますので、そういう使い方をしていただければと思います。

池脇

そうすると、ARNIでBNPは、最初の数か月ぐらいは上昇するかもということで見ていただいて、必要であれば、その期間だけNT-pro BNPで代用するということですね。

佐藤

そうですね。

池脇

もう一つ、腎機能に関連した質問です。こちらは、NT-pro BNPのほうが腎機能に影響を受けて、それによって上がることもあって、脱水なのか心不全なのか、判断が難しいときがあるという質問はどうでしょうか。

佐藤

非常に大切な質問だと思います。確かにNT-pro BNPのほとんどが腎臓から排泄されるので、腎臓の機能が悪くなると、当然高くなっていきます。腎機能と、クレアチニンやBUNも一緒に合わせて診ていただいて、クレアチニン・BUNが上がっていて、NT-pro BNPが上がっているときに必ずチェックしていただきたいのは、患者さんの息切れやむくみなど、いわゆる心不全の症状やサインの変化がないかどうかです。腎機能も悪くなって、NT-pro BNPも上がっていて、なおかつ心不全の症状やサインがあまりはっきりとしたものがなければ、しばらく経過を見ていただいてけっこうです。

ただし、いずれの原因でNT-pro BNPが高くなっても、それなりのリスクは高くなる、予後は悪くなるということはわかっているので、どちらの原因かわからないけれども、より高くなっている場合は比較的短期間でぜひフォローをしていただいて、先ほどお話ししたように、どちらが原因かにかかわらず、50%以上上昇しているような場合は、ぜひ循環器医と連携をとっていただきたいと思います。

池脇

本日はBNP、そしてNT-pro BNPの排泄の特性等も含めて、詳しく解説をいただきました。ありがとうざいました。