ドクターサロン

山内

アカラシアは非常に有名ではありますが、もう一度おさらいをさせていただきます。これは食道と胃の吻合部がうまく開かない状態だと考えてよいのでしょうか。

井上

はい。一番重要なポイントは、先生が今おっしゃった食道と胃のところの境目の括約筋が開かないということです。それに加えて食道全体の蠕動がないことがアカラシアの特徴かと思います。

山内

食道全体の蠕動がないわけですね。

井上

そうです。

山内

それは神経に問題があるのでしょうか。それとも筋肉に問題があると考えられているのでしょうか。

井上

筋肉の異常ではなく、神経の変性が一番大きなファクターで、アウエルバッハ神経叢の変性がその本質であると考えられています。

山内

原因については何かわかっているのでしょうか。

井上

諸説ありまして、どれも正しいのかもわかりませんが、アレルギーや何らかの理由で神経変性が起こるということです。全部に共通するものとしては神経変性があるということ以外、原因はいろいろなものがあるのではないかといわれています。

山内

まだわからないところがあるのですね。

井上

最終的には完全に解明されていないということかと思います。

山内

発症年齢は大人がけっこう多いようですが、先天性ではないということでしょうか。

井上

先生がおっしゃるとおりだと思います。実際には大人になってから発症する方が一番多いです。発症の年齢も多岐にわたっていて、10代、20代から始まって、30代、40代でピークを迎えて、私ども内視鏡治療をやっている仲間で一番高齢の方は90代の発症がありました。各年齢層に広く分布している感じかと思います。

山内

小さいお子さんもいらっしゃいますか。

井上

はい。そのとおりで、肉体的には中学生も大人かと思いますが、私たちは小学生もしばしば経験します。ただ、小児の場合はアカラシアの鑑別として、先天性の食道狭窄があるということを念頭に置かなければいけないかと思います。

山内

食道狭窄ですね。これはものは全く違うものと考えてよいのですね。

井上

発生の機序が違います。食道狭窄の場合は先天的に、原腸が上側の食道側とおなか側からのものがつながるのですが、それが胎生期のつながり方の不具合で先天性の食道狭窄が起こります。後天性のアカラシアの場合は神経変性が原因なので、発生機序が全く異なるということかと思います。

山内

アカラシアの発生頻度はいかがでしょうか。

井上

アカラシアの発生頻度は、古典的な教科書にはだいたい10万人に1人と書かれていますが、実際のところもう少し患者さんは多くて、最近は10万人に6人ぐらいではないかと記載されているのが多いと思います。

山内

多くもないけれども、少なくもないということですが、そのわりに我々あまり日常でその病名をきくことはなく少し見逃しているような気がします。この質問で初期症状というのがありますが、症状で独特のもの、よく固形物が飲み込みにくいといった話がありますけれども、この辺りはどのようなものがありますか。

井上

当然、液体のほうが通りやすいので、おっしゃるとおり患者さんの最初の訴えは、固形物を食べると引っかかるというのが一番多いと思います。

山内

ただ、症状の訴え方、表現の仕方が難しくて、患者さんの訴えを医療側、医師もうまくキャッチできないような気もいたしますが、引っかかりというのは一つのキーワードと考えてよいのでしょうか。

井上

私はよいと思います。患者さんの症状の訴えとしては、引っかかるという表現をされた場合に、我々医療サイドが鑑別診断に入れておくのは大事なことかと思います。

山内

ただ飲み込みにくいと言われると、嚥下障害かと思ってしまったり、不快感という表現になると逆流性食道炎かなと思ってしまって、先入観でついそちらに意識がいってしまうという恐れが多少あるかもしれませんね。固形物という表現も、患者さんに「固形って何ですか」といわれかねないところもあります。先生は実際の臨床で、象徴的、特徴的な食事、食物、飲み込みにくいもの、何かありますか。

井上

固形物は「固まりが飲み込みにくいですか」という質問の仕方をします。私どもが患者さんからお話をうかがっていて非常におもしろいなと思うのは、日本そば、ざるそばです。それが引っかかるというのをよくうかがいます。それからパンが引っかかるというお話をよくうかがいます。

山内

その理由はなぜしょうか。

井上

これは想像しているだけなのですが、そばを食べるときによく咀嚼して食べる方はあまりいなくて、喉越しで楽しんでいると思います。すると、そばは軽いということもあって、玉になってしまい、引っかかりやすいのではないでしょうか。軽いというのが一番大きい要素かと思いますし、そういう説明の流れでいくと、パンもスポンジ状で軽いので落ちていかずに引っかかりやすいのかなと思います。

山内

すると、うどんだと、さほどではないのでしょうか。

井上

そうなのです。うどんが引っかかるという方はあまりいらっしゃらないのです。患者さんが言われないことからいくと、うどんはそばよりはかむのかなと。そして、重さが重いから下に落ちやすいのかなと思ったりもしています。これは想像の範囲ですが、そばは毛玉のようになってしまうのではないかと思っています。

山内

診断ですが、これは造影、バリウムのほうが実際わかりやすいのでしょうね。

井上

視覚的に最もわかりやすいのはバリウムだと思います。普通にバリウムを飲んでいただくと、健常の方はサーッと流れ落ちます。これが液面を作って食道にバリウムが停滞するということになると、アカラシアを疑います。もちろん鑑別診断として食道癌などは念頭に置いておかなければいけませんが、スムーズな狭窄なので、わかりやすいかと思います。

山内

内視鏡は見逃すリスクがありますか。

井上

あります。進行したアカラシアは食道内腔がものすごく拡張しています。5㎝以上に拡張している方もたくさんいて、そういう方だとこれはアカラシアだと気づくのですが、初期のアカラシアは内腔面がスムーズですし、広がっていないので、内視鏡医はよほど意識していないと気がつかないことがあるかと思います。

山内

予後ですが、放置した場合はやはり体重が減ってくるのでしょうか。

井上

はい。食事がなかなか通らなくなって、嘔吐するようになると、やはり体重は少しずつ減ってくると思います。

山内

最後に治療に関してはいかがでしょうか。

井上

一番確立されていたのは、Heller-Dorという外科の術式です。これまでは腹腔鏡で行っていましたが、今は内視鏡による筋層切開がスタンダードだと思います。

山内

どの程度、改善するのでしょうか。

井上

日本全体のサーベイも私どもの施設も治癒率96%です。かなり高い臨床成績だと思います。

山内

そうしますと、早期発見が非常に重要になりますね。

井上

そうですね。訴えがあったとき、内視鏡検査のときでも食道の出口が狭い方の場合は、癌をまず否定しなければいけませんが、癌がない段階で、そういうところを拾い上げていく。医師が念頭に置いておくことが大事かと思います。

山内

どうもありがとうございました。