ドクターサロン

池田

ピロリ菌と胃潰瘍の関係の質問です。まず、ピロリ菌はどのように感染して、どこに住み着いているのですか。

伊藤

ピロリ菌は、その名前の由来のとおり、幽門腺のある、幽門前庭部の辺りに感染しやすいといわれており、通常はその辺りに存在しています。幽門腺は粘液を分泌する腺ですので、幽門前庭部というのは粘液が豊富で、その粘液の中にピロリ菌は存在しています。粘液というのは胃酸からの攻撃のバリアになります。ピロリ菌自身もウレアーゼをもっていて、ウレア(尿素)からアンモニアを生成して、胃酸のpHを少し上げて生育しやすい環境にはしているのですが、やはり粘液のバリアがあると、より生育しやすいので、その場所に感染していると考えられています。

池田

粘液の中にぷかぷか浮いているようなイメージですか。

伊藤

おっしゃるとおりですね。

池田

では胃の粘膜細胞や腺細胞などにくっついたり、中に入り込んで増えるというものではないのですね。

伊藤

そうですね。一部くっついたり、タイトジャンクションを脆弱にして入り込んだりという、接着・侵入像が病理でも見られますが、多くは粘液の中に存在して、そのことで組織の中に炎症細胞浸潤が起きて炎症を起こすといわれています。

池田

ということは、ピロリ菌がいることによって、その下にある粘膜の細胞などがそれを攻撃しに何か炎症物質を出しているということですか。

伊藤

そうですね。やはりサイトカインが分泌されて、そういったもので炎症細胞が集まってきて炎症を起こすことがわかっています。

池田

ではピロリ菌が直接何かをやっているのではなくて、胃の細胞が勝手に攻撃をしているという考えなのでしょうか。

伊藤

そうですね。炎症が起こることで、感染場所の粘液の分泌細胞などが障害を受けて、慢性炎症を起こすために、その粘液の分泌機能が落ちてきたり、あるいは萎縮を起こしたりするといわれています。

池田

今回のお話の一部でもありますが、胃酸分泌が低下するのは胃酸を分泌する細胞の数が減ったり機能が落ちたりするということなのでしょうか。

伊藤

おっしゃるとおりです。炎症細胞の浸潤などで分泌する細胞が障害を受けて分泌機能が落ちるとともに、慢性炎症によって胃の固有腺が減ってくるのが萎縮性胃炎ですが、胃酸を分泌する細胞も減って胃酸分泌が低下するといわれています。

池田

質問のとおり胃酸分泌が下がると、胃潰瘍は良くなるようなイメージですが、それでもなぜピロリ菌感染者は胃潰瘍が起こりやすいのでしょうか。

伊藤

炎症によって、胃酸を分泌する細胞のみでなく、粘液を分泌する細胞も障害を受けて、粘液の分泌も抑制されてしまうのです。粘液が胃酸から胃粘膜を守っているバリアになりますので、そのバリアが障害を受ければ、胃酸が減ってはいるものの粘膜が障害を受けやすくなりますので、胃酸の攻撃によって胃潰瘍ができると考えられています。

池田

ではキーファクターは粘液なのですね。

伊藤

そうですね。

池田

私は皮膚科医ですが、皮膚の潤いがなくなるといろいろな病気になりますが、ピロリ菌によって粘液が下がる、そしてその粘液がないことによって、酸性度は下がるのだけれども胃潰瘍ができてしまう。そういうことなのですね。

伊藤

はい。粘液でバリアを作っている防御機構がとても大切で、それが破綻することで胃酸の攻撃を受けてしまうということですね。

池田

質問で、酸分泌抑制剤で潰瘍が良くなるとあります。これは単純に胃酸を抑えることによって刺激を取り除いて潰瘍がよくなる、そういう考えなのでしょうか。

伊藤

おっしゃるとおりです。攻撃因子をなるべく少なくすると、治ってくるわけで、防御因子を増やすというのも大切ではあり、そういう薬もあります。しかしそれだけではうまく治らないことがわかっていて、攻撃因子である胃酸の分泌を抑えるということが潰瘍の治療にはとても大切です。

池田

除菌すると、潰瘍の再発率が低下するというお話ですが、これは単純に粘液の量が元に戻るということですか。

伊藤

そうですね。除菌療法によって炎症細胞浸潤が改善されていることがわかっています。そして慢性炎症による萎縮性胃炎も病理学的に治ってくるというのがわかっています。萎縮性胃炎が治れば腺管、胃底腺、幽門腺などがだんだんに増えて、粘液の分泌も元に戻ってバリアがまたできてくるということですが、萎縮性胃炎が進んでいる、あるいは長い期間慢性炎症がある状態の方では、除菌療法をしても萎縮性胃炎が何年も治らない方もたくさんいます。

池田

少し話は変わりますが、最近、中学生ぐらいの年齢でピロリ菌の保有者を見つけて対処する市町村があるとうかがいました。こういった除菌、言い換えると萎縮性胃炎が起こってしまうと、除菌しても萎縮の状態はずっと続くものなのでしょうか。

伊藤

治る方もいますが、萎縮の状態が続いてしまう方もけっこういらして、そのように萎縮性胃炎が残っていると、やはり発がんの危険がある、発がんが進んでしまうことが考えられています。

池田

除菌の時期ですが、ある程度の年齢になって除菌した方と、それよりも前に除菌した方の発がん率などを検討した論文はあるのでしょうか。

伊藤

50歳より前に除菌すると、50歳以降に除菌された方よりも発がんが少ないという報告もあります。やはり若いうちに除菌をすると萎縮性胃炎が治りやすいので、発がんを防げると考えられています。

池田

そういう意味でも、やはり若いときに見つけて除菌していくということなのですが、一度起こった萎縮性胃炎が治ったという判定は、内視鏡的なことで判断するのでしょうか。

伊藤

内視鏡所見で萎縮性胃炎が治ったかどうか判断できますが、実際は病理で組織をみるというのが大事だと思います。ただ、すべて生検をして病理学的に診断するのかというと、実臨床ではそこまではなかなかやりませんので、内視鏡所見で判断しているのが実情だと思います。

池田

おそらく一度起こった萎縮性胃炎というのは、よくいわれているリモデリングだと思います。そこからがんができるという話をよく聞きますが、がんになる機序というのはどのように考えられているのですか。

伊藤

多くの固形がんと同じように、多段階発がんがあると考えられています。炎症が長期間続くことで、発がんのスイッチが一つずつ入って、最終的に発がんすると考えられていますので、やはり萎縮性胃炎が長く続いているというのは発がんのリスクが高いと考えられます。

池田

そういう意味でもなるべく若いうちに除菌して、多段階のうちの最初の段階ぐらいで止めておくと、がんの発生が抑えられるという考えなのですね。

伊藤

そうですね。

池田

胃潰瘍がある人たちはみんな調べますからいいかもしれませんが、全く症状がない方もいますよね。もしその人たちもピロリ菌に感染している場合は、症状がなくても最終的にはがんになる可能性が高くなるのでしょうか。

伊藤

そうですね。症状がなくても萎縮性胃炎、慢性胃炎がある場合が多いので、それがあれば発がんリスクがあるということですから、除菌療法は早めに受けることをお勧めします。

池田

特に日本人はピロリ菌の保菌者が多いので、ある程度の年齢になったら内視鏡検査をルーチンで受けるようなことも必要ですね。ありがとうございました。