山内
ウイルス感染に伴う細菌性の混合、ないしは二次感染の診断基準と感冒症状に抗生剤を処方することで、二次感染が予防される場合があるのでしょうかということです。この辺り、ありふれてはいるけれどもなかなか難しいところかと思いますので、少し解説をお願いします。基本的には二次感染といいますと、イメージ的には特に風邪のウイルス感染が先行して、後から細菌感染が出てくるというイメージでよいでしょうか。
藤友
よいと思います。一言でウイルス感染といってもいろいろありますので、いわゆる風邪を念頭にお話ししたいと思います。いわゆる風邪といいましたが、風邪という言葉は使う人によって少しずつ違っていまして、鼻水や咳を風邪という人もいれば、おなかの調子が悪いのを風邪という人もいますし、熱だけで風邪という人もいます。本日お話しする風邪というのは、多くの場合、ウイルスが感染したことが原因で鼻・喉・咳の3領域の上気道症状が出現して、なおかつ自然に治っていくものをいいます。
ポイントは3つありまして、ウイルスが感染したことが原因で、鼻・喉・咳の3領域の上気道症状が出現しているということと、自然に治癒するという3つを風邪といいます。実は風邪というのは自然に治っていけば、後から「あれは風邪だった」とわかる疾患です。
山内
なるほど。それが診断ということなのですね。
藤友
はい。だから、風邪をひいているときにその原因のウイルスを突き止めることは普通しないので、風邪症状で受診されているときには、おそらく風邪だろうなということしか本当はわかりません。
なので、診断をするときに、そもそも本当に風邪かなと考えることが大事で、受診の段階で本当の意味では確定できないので、「今の段階では風邪だと思いますが、そうではないこともありますよ」ということです。息苦しい、食事がとれない、熱が下がらないなど、一般的な風邪の経過と合わない場合には、きちんともう一回受診するように説明することが大事だということが大前提です。
山内
まずそこをきちんと押さえてからということですね。
藤友
そうですね。
山内
そこからこじらせたという一般的な概念が出てくるのかもしれませんが、ここでそのウイルス感染に伴って、細菌性の混合二次感染が起きた場合の診断基準があるかという質問ですが、これはいかがでしょうか。
藤友
単刀直入にいいますと、受診されているときにはわからないというのが実際だと思います。実際に風邪であっても、鼻の粘膜に細菌が感染しているかもしれません。けれども鼻の穴というのは外に開放されていますので、鼻水として排膿されてしまう。そうすると、自然に良くなってしまうこともあります。あとは臨床経過をみて、細菌性の肺炎を疑う症状、急性鼻副鼻腔炎や中耳炎を疑う症状、あと周りの状況で溶連菌がはやっているような場合には個々の疾患の診断基準で細菌感染があるかどうかというのを判断していくことになると思います。
山内
一般論としては、よく風邪の二次感染というのは話題になりますが、最近はインフルエンザあるいはCOVIDといったウイルスでも二次感染が時々話題になっていますが、あれはあるということですね。
藤友
はい、あります。インフルエンザの後に細菌性肺炎が起こることは一定の割合でありますので、やはり二次感染というのは念頭に置いておかないといけないと思います。
山内
インフルエンザの場合はインフルエンザ菌に置き換わるということが一般的にあるようですが、特定の菌だけが来やすいといった理由は何かあるのでしょうか。
藤友
インフルエンザ菌だけではなくて肺炎球菌の肺炎になることもありますし、黄色ブドウ球菌の肺炎になることもあります。ウイルスが感染することによって、気道の粘膜が障害されて、障害された粘膜の細胞にウイルスだけでなく、細菌がくっつきやすくなる。さらにウイルス感染による細胞の反応が細菌の侵入を促進し、また免疫が抑制される。その結果として細菌の二次感染を引き起こすといわれています。
山内
あと、少し気になるのは、細菌が先行してウイルスが取りついても、これは二次感染といえるのでしょうか。あまり一般的にはないということですか。
藤友
そうですね。細菌の場合は抗菌薬があるので、それで治療している間にウイルス感染したとしても、特異的に何か治療薬があるというわけではありません。もちろん細菌感染の治療中に「あれ、これはインフルエンザかも」と思ってインフルエンザの検査をして陽性になれば抗ウイルス薬を使うことはありますが、なかなか治療がないということにはなると思います。
山内
二次感染の診断基準がないというのは、定義をはっきりさせようもないということでよいかと思われますが、先行したウイルス感染と後からの細菌感染は鑑別も難しいということですね。昔よく、ウイルス感染の場合、白血球の数が減るという話を聞きましたが、外来で多くの方を診ていると、むしろ増えているような印象があります。これについてはいかがですか。
藤友
実際に白血球が減る場合だけではないですね。ウイルス感染であっても白血球が増えることももちろんあります。あと炎症反応、CRPも、ウイルス感染だと2、3、4ぐらいといわれますが、もっと上がることもありますので、ウイルス感染か細菌感染か、白血球数やCRPではっきり区別することはできません。
山内
なかなか検査のほうでの鑑別診断は難しいということですね。
藤友
そうですね。
山内
次の質問に移ります。一般に風邪で抗菌薬が処方されることがありますが、意味がないわけでもないのでしょうかということです。
藤友
抗菌薬は細菌をターゲットにしていますので、そもそもウイルスが原因となっている感冒、風邪には、抗菌薬は効果がありませんし、抗菌薬を飲んだからといって早く治るわけではありません。
山内
それでも何で抗菌薬が処方されるかといった辺りで、一部の専門医は、それによって社会的な感染が予防、防止できているとおっしゃっていますがいかがでしょうか。
藤友
風邪に抗菌薬を処方するかどうかについては、最近、日本感染症学会、日本化学療法学会の外来抗菌薬適正使用調査委員会で調査したところ、診療所の医師は風邪に抗菌薬は処方しないと答える方が8割を超えています。ただ、患者さんやその家族から「抗菌薬をください」といわれると、6割ぐらいの医師が処方しています。処方の理由は、ウイルス性か細菌性かの鑑別に苦慮したり、あと重症化を防止するとか、二次感染の予防と答える方が一定割合でいらっしゃいます。では二次感染を実際に予防するか、ということになります。
山内
確かに二次感染が起こると非常に重篤化する。これはもう間違いないし、そのデータはあるわけですよね。
藤友
そうですね。2009年にインフルエンザのH1N1が流行したときに、死亡例の2~5割ぐらいは細菌感染を伴ったといわれていますので、やはり重症化というのは念頭に置きたいと思います。
山内
再度ですが、抗菌薬が二次感染を予防している場合は実際にあるのではないかといった辺りに関してはいかがでしょう。
藤友
少し古い研究になりますが、イギリスの研究で、気道感染症のデータを用いて、重篤な合併症を発症するリスクを、抗菌薬を投与した群と投与していない群で比較した研究があります。中耳炎や咽頭炎、上気道感染症を診ているのですが、その後に重篤な合併症が続発することはほとんどまれで、抗菌薬を4,000症例ぐらいに投与して1例ぐらいで個々の合併症予防の効果があったという結果でした。
また別の研究では、抗菌薬を1万2,255回処方すれば、そのうち1回肺炎による入院を防げるというデータも出ています。
山内
そのようなものかもしれないということですね。
藤友
はい。ですので、感冒やインフルエンザの後の二次感染を予防する目的で抗菌薬を投与するというのは、二次感染を有意に防ぐということはなく、むしろ副作用や抗菌薬への耐性化が増してしまうので、あまり推奨されていません。
山内
確かに、副作用や先ほどのような有効率を考えますと、そちらの考えをもう少し患者さんにも徹底したほうがいいかもしれないですね。
藤友
そうですね。それぐらいしか抗菌薬の利益はないですと言われても、患者さんにとっては、自分にとって起こるか起こらないかですので、その辺りのリスクをきちんと説明するのも大事ですし、経過観察が大事になるかと思います。
山内
最後に、もし例外があれば少し紹介いただけますか。
藤友
例外は、やはり高齢者と免疫が低下している方だと思います。そのような方は、一般的な経過をとらないこともありますし、高齢者はそもそも風邪をひきにくいです。ですので、風邪の後に二次感染というよりは、そもそも細菌性の肺炎であるかもしれないですし、免疫が少し弱い方については、きちんと診断するほうがいいと思います。
山内
例えば鼻咽頭から細菌が分離されたといったようなケースでもあまり使わないということでよいのですか。
藤友
そうですね。それが本当に悪さをしているかどうかはわからないですし、自然に治っていくことは多々ありますので経過観察をきちんとすることが大切です。
山内
どうもありがとうございました。