池脇
本日はオーラルフレイルに関して、医師としてどのように関与、協力できるのかという質問です。医師目線でのオーラルフレイルという質問ですが、米永先生は医師と歯科医師、両方のキャリアをお持ちということで、今回の質問には先生が適任と思った次第です。
米永
本当にありがとうございます。
池脇
オーラルフレイルという言葉は日本で生まれた概念で、歯科のレベルでいろいろと啓発活動がされています。そして、2024年に日本老年歯科医学会、日本老年医学会、日本サルコペニア・フレイル学会の3学会が合同でオーラルフレイルに関するステートメントを発表されて、オーラルフレイルの概念、定義を定められました。まず、オーラルフレイルの概念と定義からお聞かせください。
米永
まずオーラルフレイルとは、一言でいうと、ささいな口の機能の衰えのことです。とはいっても、その中にどういった機能の衰えがあるかというと、話す機能や食べる機能、あとは表情を作ったりする機能など様々な機能のいずれもささいに衰えていきます。そういったものがオーラルフレイルになっていきます。
池脇
「ささい」というのが大事なことですね。口が健常な状況を「健口(けんこう)」とも表記され、口の機能が低下してしまうまでの間で、ささいな機能低下は、フレイルが起こる入口を表していると考えてよいですか。
米永
そうですね。おっしゃるとおりで、オーラルフレイルになってくると、そこからいわゆるフレイルや低栄養、そして要介護状態になりやすいということがわかってきました。最初にオーラルフレイルという症状が出てくるといったことが多く報告されたので、オーラルフレイルが今注目されています。
池脇
少し古い話になりますが、オーラルフレイルの重要な要素は自分の噛める歯が何本あるか、これが重要で、1989年に厚生労働省と日本歯科医師会が、80歳になっても自分の歯が20本以上あるようにしましょうという8020運動を始めました。そういう意味では、オーラルフレイルにつながる概念をだいぶ前からされていますね。
米永
おっしゃるとおりでして、歯科の強みとして、昔から予防というものを大事にしてきましたもので、そういったところで8020運動もうまくいっていて、今は80歳になっても20本以上歯がある方が50%を超えて当時からするとだいぶ増えてきました。
そういう意味においては、オーラルフレイルでも歯の本数は重要になってきますし、今はOF-5という指標があり、噛み合わせ、硬いものが食べられるかどうか、むせることがあるか、口の渇きがどうか、滑舌がどうかという5つを指標として、このうち2つ以上当てはまると機能が低下している、すなわちオーラルフレイルであると判断するようになっています。
池脇
確かにOF-5のチェック項目は非常にシンプルで、ご自身あるいは家族の方でも評価ができるという意味では、非常に簡単な立て付けになっていてとてもいいと思います。
一つ確認ですが、口腔機能は加齢現象で、自然と少しずつ衰えてくるのは防ぎようのないことだと思うのですが、オーラルフレイルの定義の一つに、改善が可能だとあります。老化によるものだとしたらなかなか改善は難しいので、老化以外の何かの要因に対して改善を目指すという理解でよいでしょうか。
米永
もちろんオーラルフレイルの全体の流れ、口腔機能全体の流れからすると、ほかの身体機能と一緒で徐々に衰えていくというのは防ぎようがないのですが、ただ口の機能は興味深くて、40歳代ぐらいから特に舌の機能が落ちてくるというデータが出ています。一方40歳代ぐらいから自分の加齢を意識して舌の介入をされている方というのは少ないかなと思います。
そういう意味においては、オーラルフレイルを予防するためには、いかに中年ぐらいからしっかりと介入していくかが重要となります。特に若い方々、中年の方々は、フィットネスジムなどで体を鍛えることをされている方が最近増えてきたと思いますが、一方で舌を鍛えたり、口の機能を鍛えているような方をジムで見かけることはないのですね。そういった意味において、こういったことを中年ぐらいからしっかりと認識して、口の機能を落とさないようにしようという意識づけがとても大事だといわれています。
池脇
オーラルフレイルは最終的には国民に啓発をして、早期に発見して予防あるいは改善を図るというのが最終的な目標だと思いますが、オーラルフレイルがいかに重要か、医学的なエビデンスも必要かと思いますが、そういった点に関してはいかがでしょう。
米永
まずオーラルフレイルというのはまだ病気という診断ではなくて、あくまでも状態です。そういうなかにおいて、歯科領域にはオーラルフレイル関連を診断するということができまして、それが口腔機能低下症という病名になってきます。まずOF-5などを用いていただいて「オーラルフレイルかも」「オーラルフレイルだな」と判断したら、歯科で口腔機能低下症かどうかというのをしっかりと診断してもらうことが大事だと思います。
診断が決まったということは、それに対してはやはりエビデンスがあるから診断名ができてきたのですね。その理由が何かというと、例えばフレイルというのは有病率が70歳代前半で4%ぐらいになりますが、口腔機能低下症は70歳代前半で49%ぐらいといわれています。つまりオーラルフレイルが先にあってからフレイルになるような流れがどうもありそうだということがわかってきました。あとオーラルフレイルがあることによって、サルコペニア・フレイル、そして要介護状態、さらには総死亡率も上昇するということがわかってきました。
さらには、口腔機能低下症という診断をしたことによって、きちんと歯科医師が介入していくと、可逆的に改善傾向にあるということもわかってきました。つまり、診断からそれに対する介入といったことが歯科領域では今行われるようになってきています。
池脇
先生がおっしゃった、フレイルの有病率は70歳代で4%なのに対して、オーラルフレイルは50%近い。フレイルはオーラルフレイルから始まるということを如実に示しているという点では、その時点で介入することで改善の可能性が高くなるという意味で重要だということがわかりました。
歯科医師を中心にしてオーラルフレイルに対して、どういう予防や介入をされているのでしょうか。
米永
例えば日本歯科医師会のホームページ等を見ていただきますと、口腔機能低下症と診断された方に対してどういった介入をするかや、オーラルフレイルに対してこういった運動をしましょうとか、こういったことをするといいですよということがアナウンスメントされています。歯科では口腔リハビリテーションなどをされています。
ただ、現状、若干問題点もあります。口腔機能を改善させるすごくいい方法があるかというと、まだ開発途中でいろいろと調査が進んでいる途中なので、口腔機能低下症と診断される前にできるだけオーラルフレイルにならないような予防をしっかりとしていくということもすごく大事だと思っています。
池脇
オーラルフレイルの介入として、噛める歯を増やすのは歯科医師の本業ですから、一生懸命やっていただくわけですが、口腔機能は歯以外のファクター、例えば唇、舌や口の筋肉の機能を保つ、あるいは改善することもオーラルフレイルの対策なのでしょうか。
米永
おっしゃるとおりです。口腔機能というのは非常に複雑で、何か一つ、例えば噛み合わせだけを良くすればいいというわけではなくて、総合的に良くすることが大事になってきます。その中においても、いかに舌圧を落とさないようにしていくかということが非常に大事です。
体の中には、筋肉の塊というのは心臓と舌があります。心臓も生きる上で非常に大事な筋肉の塊ですが、舌も生きていくためにはものすごく大事です。舌圧がしっかりしないと、モグモグができたとしても、ゴックンができなくなってしまうのです。食べるため、栄養を維持させるためには、いかにゴックンができるか。そのためには舌圧が重要なので、舌の筋力を落とさないようなことをやっていく必要があると思っています。
池脇
そこで今回の質問に戻りたいのですが、医師としてどうオーラルフレイルに関与できるかということですが、どうでしょうか。
米永
今お話ししたように、OF-5というチェックリストがあります。口の渇きですとか、ちょっと滑舌が悪い、飲み込みが悪い、むせるという方もよくいらっしゃるかと思いますので、OF-5のチェックリストを活用いただいて、2項目以上当てはまる方がいれば、ぜひ歯科にご相談いただきたいなと思います。
また、そもそも医科で出されている内服薬が口腔乾燥を起こしやすかったり、飲み込みに悪影響を与えたりすることがありますので、本当に必要な投薬かどうかも含めて、口腔機能を落とすような医原的な因子がないかといったところも少し配慮いただけるといいなと思います。
池脇
確かに口腔機能を落とすような医原的な要素がないかをチェックして、OF-5でオーラルフレイルを拾い上げて、必要に応じて歯科医師に紹介するということでしょうか。
米永
おっしゃるとおりですね。さらに今回の話のポイントを言うと、やはり舌マッチョですね。舌をいかにマッチョな状態にするかですね。
ぜひ先生方自身も舌のマッチョを目指し、舌の筋力を落とさないようにされるのが、より健康寿命を延ばすという意味で非常に大事になるのではないかなと思っています。
池脇
私自身の舌を考えるいい機会になりました。ありがとうございました。