ドクターサロン

山内

本日の質問なのですが、こういった病気、病態について先生方はどう考えられますか。

渡辺

情報があまり多くないのでなかなか難しいところですが、この質問内容を見ていますと、仕事でだんだん頸椎に加齢性変化である頸椎症が起きて、頸椎の可動性、動きが悪くなった状態ではないかと思います。

おそらく包丁を握るというところで、片方を向いている時間が長いとは思います。例えば野球のピッチャーの肘の変形性変化ですと本当に右だけ投げているからということがありますが、首の場合には右を向いたり左を向いたりしていますので、この仕事だけで片方を向けなくなるというのはあまり多くはないかなと思いますが、決してないことではないかなと思います。

山内

確かに24時間仕事だけやっているわけではないので、日常生活で首はあちこちグルグル回しますよね。

渡辺

そうですね。

山内

この方の場合、正面に向けるのが困難になりましたということで、ほかには向けるのか、どの程度制限があるのかといった辺りの記載がないですね。

渡辺

そうですね。特に「向ける」というのがどういった状況をおっしゃっているのかわかりませんが、首が傾いているいわゆる斜頸という状況と、右や左に振り向く動作というのは、主に頸椎でも1番と2番の環椎、軸椎というところで60~70%行われています。

下の部分、第3頸椎から第7頸椎というのは、前屈、後屈、側屈、そういったものを主に担っています。この方は厨房で20~30年働いているそうなので、50~60歳ぐらいの年齢だとすると、中下位頸椎、3番から7番ぐらいはそのぐらいの年齢でだんだん加齢による変形が出てきます。上位頸椎である環椎と軸椎は、年齢による変形は中下位頸椎ほどは受けません。加齢性の変形がもう少し先になるので、本当にこの方が振り向けないのであれば変形の関わりがどうなのかというところが少し疑問点にもなります。

山内

例えば、こういった姿勢を長く続けていて、何となく首が傾いてきて、これがずっと脳にこびりついた、一種の心因性の反応ということはあり得るのでしょうか。

渡辺

なかなか難しいのですが、心因反応やパーキンソン病みたいな脳の疾患、あと、私が経験した患者さんでは、お年を召して、首が少し傾いてきて、首を左右に動かす振戦が止まらないような方もいらっしゃいました。基本的には心因反応も含めた脳の問題でこういった症状を呈することもあるので、その辺も一つ、鑑別としては考えておかなければいけないのかなと思います。

山内

ありがとうございました。

ここからは頸椎症の一般論としてお話をうかがいたいと思います。まず、頸椎症は加齢変化ということでよいでしょうか。

渡辺

はい。加齢変化です。もともとすべての加齢変化がそうですけれども、持って生まれた素因とそれまでの歴史といいますか、経年的に加わるストレスによって起きます。ただ、そのストレスに強い方もいらっしゃるので、主には持って生まれた素質と今まで積み上げたストレスの2つによって、加齢現象が起きている。頸椎もそれがいえるのではないかということです。

山内

ということはやはり姿勢は関係しますか。

渡辺

はい。ただ、あまりメカニズムがわかっていないのも事実です。特に若い女性は後ろの筋肉である傍脊柱筋や背筋が弱いので、少し後弯気味の方、首が前にちょっと下がっている方もいらっしゃいます。しかし、そういった方がお年を取ったら変形してくるかというと、必ずしもそういうわけでもありません。

ただ、もちろんバランス的には、頸椎が前弯をして、胸椎が後弯をして、腰椎が前弯するというのは、私たちは二本足で歩いている以上非常に大事なことですので、変形に関わる関わらないは別としても、しっかりと筋肉を鍛えていただいて、頸椎の前弯を保つように、腕立てをしていただくよう私はお勧めしています。

山内

スマートフォンやパソコンはよく話題になりますが、これらの関与はいかがでしょうか。

渡辺

まだわかっていないのですが、やはりずっと下を向いていると、その姿勢になってきますので、定期的に休憩をして、傍脊柱筋、僧帽筋辺りの筋肉を収縮させて、前弯をしっかりと守っていくように、若い方にもそういった指導をいただければよいと思います。

山内

特定の職業等にあまり結びつかないと考えてよいですね。

渡辺

はい。ただ、ラグビーや柔道選手などコンタクトスポーツをしている方の頸椎は首にストレスがかかるので、かなり若くても変形していますから、もちろん職業が必ずしも関係ないということはいえません。その職業の中でも頸椎にストレスがどのぐらい繰り返しかかり、どのぐらい経年的であるかといったことも大事かなと思っています。

山内

早期症状としては、どういったことで気付くのでしょうか。

渡辺

やはり頸部の痛みですね。ただ、我々のところを受診するのは、変形することによって骨が出っ張ったりしてきている方です。それによって神経根や頸椎の脊髄などに骨が当たってといいますか圧迫されて、上肢のしびれが出現します。脊髄へ行くと上下肢になりますが、そういった麻痺症状や痛みで受診される方は多いですね。

山内

痛みがあれば早めに受診したほうがいいのですね。

渡辺

そうですね。加齢現象なので、変形は少しずつ時間をかけて起こります。神経根も脊髄も、急速な圧迫に関しては悲鳴をあげますが、じわじわ来たものに関しては意外と寛容といいますか、頑張ってくれるのです。ですから、知らず知らずのうちに脊柱管が狭窄されていて、ちょっとお年を取った方が転倒して首が後ろにガーンと後屈して、それで麻痺してしまったりするケースもありますから、痛みがあれば早めに1回チェックしていただいて、神経の圧迫等に関してはしっかり診ていただいたほうがいいのではないかなと思います。

山内

こういった方々がやってはいけないことはありますか。例えばストレッチやマッサージはいかがでしょうか。

渡辺

自分でストレッチすることは問題ないと思いますが、先ほど申しあげた、症状を出していない脊柱管、脊髄の圧迫があった場合に麻痺を生じるケースは私も数例経験していますので、マニピュレーションのような強い力でのマッサージは避けていただいたほうがいいでしょう。特にご高齢の方は避けていただいたほうがいいと思いますね。

山内

例えば寝ているときの枕はいかがですか。

渡辺

もちろん脊柱管狭窄等があれば、自ら伸展するようなことは避けられますし、ご自分で気持ちのいい、楽な姿勢であればそれが一番だと思います。ただ、枕の高さも本当に個々に頸椎のアライメントといって、並びといいますか、前弯とか後弯がありますから、ご自分の気持ちのいい高さの枕をご使用いただくのがいいのではないかなと思います。

山内

スポーツも激しいものでなければまず大丈夫ということでしょうね。

渡辺

そうですね。繰り返し申し訳ないのですけど、激しく転倒したりしますと、知らず知らずの脊柱管狭窄があるときには麻痺が起こりますから、やはりコンタクトスポーツや不意な転倒が起こるスポーツをするのであれば頸椎の状態をチェックしたほうがよいでしょう。お年をとっても全然問題ない方もたくさんいらっしゃいますから、その辺のことはしっかりと見ていただければと思います。

山内

治療ですが、加齢や首ということでなかなか難しいでしょうか。

渡辺

そうですね。基本的に加齢現象なので、もちろん痛みに関しては痛みを治めるような薬を使ったりしますが、先ほど申し上げた神経症状があり、ここの神経を圧迫しているからこの方はこういったつらい思いをされているとか、今後こうなってしまうといったときに手術などの治療になりますので、通常の加齢現象に対して手術あるいは特別な治療法はないというのが現状かと思います。

山内

どうもありがとうございました。