大西
心筋梗塞について今までの進歩の状況や課題について教えてください。
最初にかいつまんで、最近の心筋梗塞治療の流れがどのように進歩してきたのか、簡単に教えていただけますか。
百村
私は1976年に医学部を卒業しましたけれども、その頃はまだ、東京大学病院に心筋梗塞で入院してくる方は本当に少なく、基本的にはとにかく安静にするしかない状況でした。それが1980年代にPTCAという詰まった血管をバルーンで広げるという技術が日本でもだいぶ採用されるようになって、その後、バルーンだけではなくてステントという金属のメッシュ状のものを入れて確実に広げるという手技が普及して大きく様変わりしたと思います。
昔は安静にさせるだけでしたが、最近では詰まった血管、心筋梗塞というのは冠動脈のどこかが完全閉塞して起きるわけですが、それを1分でも早く、バルーンカテーテルで広げてステントを入れてしまう方法、つまりPCIが基本になりつつあると思います。
それだけではなくて、薬物治療も非常に進歩しました。例えば血栓の予防の薬や、心臓を保護する薬、コレステロールを下げる薬などです。それと心臓リハビリテーションですね。心筋梗塞を患った方はなるべく早期から動かしていって、包括的な疾病管理プログラムである心臓リハビリテーションを行うことによって、むしろ予後が良くなるということもわかってきましたので、それもだんだん心筋梗塞の患者さんの予後を良くする要因にはなっていると思います。
大西
治療法も進歩して、心臓外科でも低侵襲な手術が出てきて、入院期間も短くなってきていると思いますが、心臓リハビリは急性期から介入していくのでしょうか。
百村
心臓リハビリテーションは「急性期(超急性期、急性期)」、それから退院してからの「回復期」と「維持期」というように進んでいきますが、急性期の心臓リハビリテーションはどこでも行っていると思います。入院してから、落ち着いていれば、24~48時間ぐらいの間に安静を解除してどんどん動かしていく。今、急性心筋梗塞の患者さんの入院期間は平均すると1週間ぐらいになっていると思いますが、1週間で200m程度の歩行をできるようにして退院していただくという流れになっています。
大事なのはそこから先なので、退院してから適切なリハビリテーションをすることによって、心筋梗塞の再発も予防できて予後も良くなるということが、米国を中心にエビデンスが構築されています。どういうことかというと、リハビリテーションは単に運動するだけではなくて、患者さんが週に1回か2回、退院後も病院に来て、有酸素運動あるいはレジスタンストレーニング、筋力トレーニングを行って、それと同時に、多職種が介入して生活指導と服薬指導、メンタル的なサポートも行っていく。それを続けることによって、心筋梗塞の再発を予防する、死亡率が下がるというエビデンスがかなり蓄積されています。
ただ、問題は、退院してからの心臓リハビリテーションができる施設がまだそれほど多くないことです。そういう恩恵に浴することのできる患者さんがまだ3割にも満たないというところが問題だと思います。
大西
一般の病院でもできることはあると思いますが、具体的にはどういったリハビリテーションを行うのですか。
百村
本格的には退院する前、あるいは退院直後に心肺運動負荷試験を行います。マスクを装着していただいて、自転車を漕いで最大酸素摂取量あるいは嫌気性代謝閾値を求めて、嫌気性代謝閾値レベルぐらいの強度の運動をずっと続けていただく。それと並行して様々な多職種による介入を行っていくのですが、そこまで本格的にできる病院はそんなに多くないですね。それに準ずるようなかたちで、例えば心拍数を目安にしたり、少し苦しい、つまり息切れ程度の運動をしていくということも可能です。
大西
生活習慣について具体的にどのように指導されていますか。
百村
いまだに喫煙している方が多いので、これは絶対やめていただかないといけません。アルコールは適量なら禁止する必要はありません。男性は、アルコール量にして1日30gぐらいまでを守っていただく。あと、再発を予防するために必須の薬物療法がありますので、そういう服薬指導をしっかりと行っていくことになると思います。
大西
薬物療法はスタチンでの治療が主なものなのでしょうか。
百村
スタチンは基本のひとつです。それと抗血栓薬ですね。急性心筋梗塞では、先ほどお話ししましたように、最近ではまずステントを入れてしまう。ステントは異物ですから、そのままにしておきますと、そこに血栓が付いてまた詰まってしまうということがありますので、抗血小板薬を一定期間使う必要があります。
最初は、急性心筋梗塞後はアスピリンの低用量、それともうひとつはチエノピリジン系の抗血小板薬。この2剤を一定期間続ける必要があります。急性心筋梗塞の場合は、その2剤を使う期間が6~12か月ぐらい。患者さんの出血のリスクと血栓性のリスクによって変わりますが、しっかり使ってその後は抗血小板薬1剤にしていく。昔は1剤残すのはアスピリンの低用量だったのですが、最近ではアスピリンよりももうひとつのチエノピリジン系、あるいはP2Y12阻害薬とも呼ばれるクロピドグレルやプラスグレルを残すケースが多くなっています。いずれにしても、抗血小板薬1剤はずっと続ける必要があります。
それと、今先生がおっしゃいましたスタチンはスタチンの中でも、強力にコレステロールを下げる作用があるロスバスタチンやアトルバスタチン、あるいはピタバスタチンを使います。心筋梗塞後の患者さんのLDLコレステロールの目標値は今70㎎/dLになっていますので、相当下げていかないといけない。そうすると、スタチンだけではなかなか下がりきらない方もいるので、吸収阻害薬のエゼチミブを追加したりします。
それでもなかなか70㎎/dLを達成できない場合は、最近ではPCSK9阻害薬を使います。非常に高価な注射薬です。それからsiRNA作動薬という新しい系統の薬も出てきました。それらを使うと、LDLコレステロールは一桁ぐらいになってしまうのですが、とにかく徹底的にコレステロールを下げます。
大西
そこまで下げても大丈夫なのでしょうか。
百村
はい。昔は、下げすぎるといろいろな悪影響があるだろうといわれたのですが、いろいろな臨床試験の積み重ねによって、下げすぎて困ることはあまりないということがわかってきましたので、積極的に下げています。
それと薬物療法について少し追加させていただくと、心筋梗塞後は、とにかく昔はβ遮断薬が必須だとされていましたが、最近の臨床試験では、心筋梗塞後、ステントを入れて短時間で再灌流ができて、心機能が全く落ちていないような患者さんにはあえてβ遮断薬がなくてもいいのではないかという方向に流れつつあります。
一方で、糖尿病を合併していたり、非常にリスクの高い患者さんにはACE阻害薬をまず使いましょうとなっています。ACE阻害薬が使えない場合には、ARBを追加していきます。
大西
抗血栓薬はずっと続けることになるのですか。
百村
1剤はずっと続ける必要があります。それと最近、高齢化によって心房細動が増えていますよね。心房細動のときの血栓の予防薬は、いわゆる抗凝固薬で別の種類になります。抗凝固薬も、昔はワーファリンしかありませんでしたが、最近はDOACが主流でわが国でも4種類使えます。安全性が高くてしかも血栓予防効果が着実である薬を、心房細動を合併している場合は加えていく必要があるのですが、その場合、出血のリスクが高い人では抗血小板薬を中止して抗凝固薬だけでいくことも最近はしばしばあるようですね。
大西
高齢者はどうですか。
百村
高齢の方で一番気になりますのはやはり出血リスクですね。転倒リスクもあるので、出血のリスクをきちんと評価した上で、先ほどの例えばステントを入れた後の抗血小板薬2剤の使用期間も適宜変えていく必要があります。
大西
二次予防でまた起こさないということが重要なわけですね。
百村
はい。そういう意味では心筋梗塞というのは生活習慣を見つめ直すいいチャンスだと思います。そして薬物療法をしっかり行う。再発すると、死亡率が非常に高くなりますし、ダメージも大きくなりますから、とにかく再発しないように基本の薬物療法、生活習慣の注意、禁煙も含めてしっかり指導していく。できれば心臓リハビリテーションもやっていくということは大事だと思いますね。
大西
ありがとうございました。