ドクターサロン

大西

福土先生、腸脳相関病について教えていただきたいと思います。

腸と脳の相関がいろいろな病気を引き起こすのだと思いますが、最近の知見を教えていただけますか。

福土

この疾患群は、以前は機能性消化管疾患、あるいは機能性消化管障害と呼ばれていましたが、それを一括して腸脳相関病というように国際的に名称が変わりました。ぜひ日本の臨床医も、今後は腸脳相関病と呼んでいただきたいと思っています。

これは慢性の消化器症状が続くのですが、癌や炎症性の病変が消化管には認められないという疾患群です。これまでは胃腸の機能が問題で症状が続くのだろうと信じられてきたのですが、脳がかなり絡んで症状が続くということがはっきりしてきました。研究の進歩によって腸脳相関病としようと、私も所属しているRome委員会という国際委員会で名称を変えました。

大西

機能性消化管疾患のガイドラインが2021年に出ていますが、将来的にそのような病名に変わっていくと考えてよいでしょうか。

福土

実は、このRome Ⅳという2016年に公表された機能性消化管疾患の体系があるのですが、これは『Gastroenterology』に公表されまして、その副タイトルで腸脳相関病(disorders of gut-brain interaction)という名前がすでに予告されていました。これが2026年にRome Vという国際的診断基準に切り替わるのですが、そこで完全に機能性消化管疾患という名称をやめてしまって、腸脳相関病と変えようと国際的に決まりました。日本も同じ名称にするべきだと考えています。

大西

腸と脳の相関で引き起こされるいろいろな病態には消化管疾患のほかにも、精神疾患も絡んでいるようなケースもあるかと思いますが、この概念は消化器に限定と考えてよいでしょうか。

福土

これから脳腸相関あるいは腸脳相関の概念が、様々な領域に使われていくようになると思います。

先生がおっしゃるとおり、腸脳相関を介する消化器の不調が、うつ病や不安症の源流にあることがすでにわかっています。もう一つは、そういう精神疾患だけではなくて、神経疾患のほうもかなり影響を受けることが明らかになってきています。特にパーキンソン病や認知症にも影響があることが科学的にはっきりしてきて、研究が進んでいるとご理解いただければありがたいと思います。

大西

広い概念を包括しているように思いますが、そういう疾患の方は非常に増えているのではないかと思います。

福土

全くそのとおりです。我々はRome委員会で腸脳相関病の国際的疫学調査を行いました。幸いなことに日本のデータもその中に含まれています。腸脳相関病の全世界的な有病率はなんと40%以上だということが解明されました。世界人口の10人中4人は確実に慢性の消化器症状が続いていることがわかりました。その中でも腸脳相関病の代表的な疾患が過敏性腸症候群で、全世界的な有病率は4.1%ということも解明されました。

実は32ぐらいの疾患群があり、その中の1つが4.1%ぐらいで、それらを全部積分すると40.何パーセントぐらいの有病率となり、そういう症状をお持ちの方が世界にいることがわかり、極めてインパクトのある疾患群だということがはっきりしたと思います。

大西

消化器領域では機能性ディスペプシアという概念が非常に有名になっていますが、その疾患もそこに包括されて、そのような病態に絡んでいると考えてよいでしょうか。

福土

下部消化管のほうが過敏性腸症候群、上部消化管のほうが機能性ディスペプシアという病態で、極めてありふれた病態だということも疫学研究によって明らかになっています。

日本の臨床医は、日常臨床でそれとあまり認識していなくても、実は日々多くの患者さんを診ていると思います。

特に便秘症は、国際的にいっても10%以上の有病率があることがわかりました。なので、そういった消化器症状があるかどうかは臨床医がチェックすると、患者さんの生活の質をより高めることになるのではないかと思っています。

大西

今、腸内細菌叢が非常に重要だといわれていますが、それと腸と脳の相関に対する腸内細菌の影響はどのようにわかっているのでしょうか。

福土

最近非常にわかってきまして、過敏性腸症候群の腸内では、有益菌であるビフィドバクテリウムや、フィーカリバクテリウムという菌は減少していることがわかりました。それからバクテロイデスやエンテロバクテリアセアエといったものは増加していることがわかりました。減少している菌と増加している菌がいて、健常者とはちょっと違った腸内細菌の組成(dysbiosis)になって、これがいろいろな問題を起こすことが明らかになっています。

興味深いことに、介入試験によってビフィドバクテリウムなどの有益菌を増やすと、脳機能でも不安をつかさどる扁桃体の機能が亢進している異常な状態から、機能が正常化してあまり不安を感じなくなるような脳機能に変化することも解明されてきました。腸を介して精神面まで影響が及んでいるのではないか、ストレス応答や応答の程度も腸内細菌を介した経路があるのではないかということが科学的にわかってきたので、かなりおもしろくなってきたのではないかと思っています。

大西

治療も難しい病態ではないかという気がしますが、最近の状況はいかがでしょうか。

福土

有益菌であるプロバイオティクスを使った治療がうまくいくことがわかりました。過敏性腸症候群はもちろん様々な腸機能を正常化するような薬物が、エビデンスが高い治療として成り立っています。5HT3受容体拮抗薬を使って下痢型の過敏性腸症候群を治療したり、あるいは便秘型の過敏性腸症候群に対しては上皮機能変容薬といったものを使って、消化管の働きを調整すると、たいへんエビデンスの高い治療ができます。

そして、それらがなかなか奏効しない場合の次の手段として、抗うつ薬を使います。これを抗うつ薬というのではなく、神経修飾薬といったほうがいいのではないかとRome委員会では提案しています。こういったものを、精神科の医師がお使いになるようなhigh doseではなくて、低用量でも十分に過敏性腸症候群とそれに伴う不安やうつの状態をコントロールできるという高い根拠水準のデータも発表されています。こういったものを使ってうまく治療ができるようになってきたと思います。

もう一つは、薬物以外の認知行動療法や、マインドフルネスのような精神面での治療も高い根拠水準でできるようになりました。こういったものをうまく使うことによって、患者さんに改善を届けられることができるようになっています。

大西

福土先生、本日は最新の情報を教えていただいてありがとうございました。