ドクターサロン

池田

坂本先生、吸入ステロイド薬の長期使用についての質問です。吸入ステロイド薬にはショートアクティング、ロングアクティング、あるいは合剤がありますが、これらはどういう使い分けをされているのでしょうか。

坂本

現在、吸入ステロイド薬は、フルチカゾンとブデソニドが頻用されているのですが、フルチカゾンは局所の抗炎症作用が非常に強いという特徴があります。一方で、少し全身に移行しやすいという半面も持っています。ブデソニドは比較的局所にとどまり、全身には移行しにくいといわれており、肺炎等のリスクもフルチカゾンよりも少ないといわれています。

患者さんに応じてデバイスの使いやすさや、吸気の強さなどからデバイスを選択し、薬を決定することが多いです。あとは比較的頻度の高い有害事象に嗄声(させい)があります。嗄声を起こす頻度はフルチカゾンのほうが少し高いといわれていますので、そういう方はブデソニドに変更したりします。

池田

吸入ステロイド薬といいますと、一般的には気管支喘息の方に使うことが多いと思うのですけれども、ほかにも使われるのでしょうか。

坂本

今はCOPDにも適応が通っているものがあります。COPDには主に合剤で、それらの薬剤はステロイド単剤ではなく、β2刺激剤と抗コリン薬と吸入ステロイドの合剤として使用することがほとんどです。

池田

骨粗鬆症の発生リスクについてですが、気管支喘息の方、あるいはCOPDの方の年齢も少々違いますよね。ブデソニドかフルチカゾンといったステロイドの組み合わせで骨粗鬆症のリスクは変わるものなのでしょうか。

坂本

COPDは高齢者に多い疾患ですので、今までの研究においても、COPDにおいては、吸入のステロイドを使うことで骨粗鬆症のリスクが少し上がるといわれています。ただ、有意な上昇はあるものの、すごくリスクが上がるというわけではなくて、1.2倍ぐらいリスクが上がるといった報告が多いです。

喘息の場合にはそこまでの有意な上昇は報告されていません。小児の場合には骨の成長遅延の報告もありますが、一方ではあまり有意ではないという、相反する報告もありますので、骨の成長を顕著に抑制することはなさそうです。

池田

ということは、比較的若い年齢の方たちはたいして心配しなくていいだろうということですが、COPDのような高齢の方、特に女性で閉経された方というのはやはりリスクは上がるのでしょうか。

坂本

そうですね。やはり高齢の方、女性の閉経後、COPDで全身性のステロイド投与を受けている方もリスクが高いといわれています。

池田

やはり高齢の方には注意が要るということで、そういう場合は少し調べながらということになるのでしょうか。

坂本

そうですね。ハイリスクの方は骨密度を年1回検査したほうがいいといわれてはいます。65歳以上で骨折の既往があったり、骨粗鬆症と診断されている方は年1回検査を行うことが推奨されています。

池田

ほかにステロイドの副作用として有名なもので副腎機能の抑制があります。これと吸入ステロイド剤というのは関係あるのでしょうか。

坂本

通常用量ではあまり報告はないですが、高用量で長期間使うと副腎抑制が少しかかるという報告があります。あとは薬剤の相互作用として、CYP3A4の代謝に関与するようなイトラコナゾールなどの薬剤との併用下で副腎抑制をきたしたという報告があります。

池田

そういった薬のコンビネーションでも副腎機能に影響があるということで、その辺を注意しながら患者さんに指導していくことになりますね。

それからまた気になるところが感染症ですが、感染症については何か所見が得られたのでしょうか。

坂本

局所の感染症としては口腔内カンジダ症が少し増えるということは知られています。肺炎の頻度は、COPDでは上昇するといわれています。

COPDに関しては吸入ステロイドの種類が肺炎の発症に影響するといわれていまして、フルチカゾンのほうが肺炎を発症させる頻度が少し高いのではないかと報告されています。

池田

高齢の方に投与するということで、そういうことも影響があるかと思いますね。

あと、やはり心配なところが悪性新生物を起こさないかとのことですけど、この辺りはいかがですか。

坂本

悪性新生物に関しては、あまり大きな頻度の上昇はないと考えられています。

池田

そこは少し安心ですね。それから、特にCOPDの方は高齢者ですので、心血管系に対する影響はいかがですか。

坂本

心血管系イベントに関しては、大きなマスで見た場合には、ほんのわずかながらイベントの頻度が上昇するという報告はあります。ただ、400~500人に使って1人発症するかどうかというところで、頻度としてはまれに近いものではあります。あとは肺塞栓症もわずかにイベントが増加するという報告もあります。

池田

例えば1,000人に1人とか、そんなものですね。

坂本

そうですね。

池田

なかなか統計学的に差が出るかどうかというのは難しいところですね。

坂本

おっしゃるとおりです。

池田

今回の質問も吸入ステロイド薬の長期使用についてですが、何かのメルクマールがあって止める、あるいは減量していくということにしたいと思うのですが、指針のようなものはありますか。

坂本

原則として必要最低限の量でコントロールできるというところが理想になってくるかとは思いますが、症状が長期安定されている患者さんについては、吸入のステロイドの量を減らしていく、または1日おきにしていくといった形で減らすこともあります。

池田

その際に参考になるような検査値はありますか。

坂本

最近、臨床で使えるようになっている呼気の一酸化窒素を指標にすることもあります。末梢の好酸球数とか喀痰中の好酸球数も参考になるのですが、施設によって検査できない場合もあることや、採血を嫌がる患者さんもいらっしゃるので、呼気一酸化窒素を用いることが多いです。

池田

この濃度を測るには機械に息を吹き付けるぐらいでよいのでしょうか。

坂本

息をふーっと吹いていただいて、画面上に風船がふーっと上がってきて、そのまま上がった状態を保つような形で数秒息を保っていただくと、それで測定ができます。

池田

簡便ですね。

坂本

そうですよね。患者さんの負担も少ないです。

池田

吸入ステロイド薬はアレルギー性疾患も対象に吸入されますが、季節によっていろいろな環境要因がありますよね。例えば、スギ花粉や黄砂があります。そういった影響はそれぞれの患者さんにありますか。

坂本

そうですね。喘息の場合には非常にその影響は大きいと思います。やはり春の花粉、秋も最近は花粉が多いですし、温度差はけっこう患者さんの症状を悪くさせますので、季節の変わり目はしばしば症状が悪化することが多いです。

池田

その際に、この患者さんは落ち着いているかどうかというのはどのように判断されるのですか。

坂本

一番は、春とか秋の昼夜の温度差のある時期でも発作を起こさないで安定しているかというのがひとつ安定の指標にはなっています。真冬の寒い時期や夏の暑い時期は比較的安定されている方が多いので、その気温差のある時期に安定していて、なおかつ夜間や明け方にも症状がないということであれば、少し安定しているのかなということで減量を考えます。

池田

やはり喘息というのは、夜に悪くなるのですか。

坂本

そうですね。夜から明け方にかけて悪くなる方が多いですね。

池田

減量の仕方はどのようにされるのですか。

坂本

現在、ステロイドの吸入というのはだいたい2つぐらい用量設定がありますので、多い用量で使っている方は少ない用量にして、少ない用量を使っている方は1日おきにしたりという方法で減量していく方が多いです。

池田

減量のタイミングはどのぐらいを想定されていますか。

坂本

一般的には3か月程度で評価といわれていますが、私の場合は、半年おきに春と秋が来ますので、その時期の症状を見ながら減量していくことが多いですね。

池田

例えば200μgという量で、半年ぐらいして100μgぐらいにしてと。そんな感じなのでしょうか。

坂本

そうですね。100μgでまたさらに安定していたら、半年見て1日おきにするとか、そういうことが多いです。

池田

質問にもありますように、長期になりますとどうしても、患者さん自身もステロイドだからといって、なるべく止めたいという希望が出てくる場合が多いと思うのですけど、やはりそこは慎重に、環境の変化を見ながらということになりますかね。

坂本

そうですね。

池田

ありがとうございました。