池田
中込先生、製材所の産業医から、製材時に出る木材紛によって呼吸器疾患の心配がないかという質問です。これは大きくじん肺による呼吸器疾患ですが、じん肺というのはどのようなものが含まれるのでしょうか。
中込
有機物質や無機物質の吸入によって起こる肺の疾患をじん肺といいます。生物由来の粉などの有機物が原因で起こる疾患としては気管支喘息と過敏性肺炎があります。特に木材では、気管支喘息の発症が起こるということが今までよく報告されています。
話は飛びますけれども、有機物質以外に無機物質といわれているような、アスベストやシリカ、鉄、コバルトなどで起こる粉じんというのもありまして、これは肺線維症を起こす粉じんになります。
池田
どちらかというと、有機はアレルギー的な反応が起こるということになるのでしょうか。
中込
今までの報告で多いのはそうです。アレルギーでいいますと今回は木材ですが、それ以外で今までいわれていたのは、例えばこんにゃくの粉とか、カキにくっ付いているホヤなど海産物の粉が原因で喘息を起こすということもいわれています。
一方、過敏性肺炎という病気は、鳥の毛や糞、カビで起こるということもわかっています。生物由来の粉じんを有機粉じんといいますが、これで起こるじん肺症というのは、喘息などのアレルギー疾患や、アレルギー性の間質性肺炎と考えられる過敏性肺炎、この辺が多いと報告されています。
池田
有機物質か、無機物質かでだいぶ出てくる疾患も違うということですが、産業医が心配されているのは、どうやってその粉じんを防ぐかということです。実際はどのような対策が行われるのでしょうか。
中込
例えば黄砂などは、喘息を持っている人にはそういう刺激だけでアレルギーと関係なく症状が悪くなるのですが、そういうものと違って、木材はアレルギー疾患を引き起こすといわれています。また、喘息の方では木材の粉じんの吸入でさらに症状が悪化します。なので、木材由来の粉じんを吸うとどのような人でも喘息を発症しうるのですが、もともと喘息がある人や刺激に反応しやすい症状がある人には、より強い配慮をしなくてはいけないと思います。
一般的には、もともと何のアレルギーもなく喘息の素因がない人でしたら、気をつけながら仕事を続けられるように、法律で決められている手順に従って、例えば防毒マスクや防じんマスクを使うなど、あとは排気装置を使って対応することはあると思います。しかし、喘息やアレルギーの素因がある方に対してはより強い配慮が必要です。職場の変更等も含めて対応すべきなのかなと思います。
池田
具体的にマスクの話になりますが、先ほどおっしゃったいわゆるアレルギーの有無、素因も含めて、例えば有機性の粉じんの場合と無機性のものというのは、よくN95とか使っていましたが、マスクの緻密度のレベルといいますか、ああいった差を指導されるのでしょうか。
中込
マスクは完璧ではないというところがあるので、やはりレベルによって、状況によって防じんマスク、さらには防毒マスクのほうが強いとは思うので、状況によって変えていきます。有機でも無機でも、マスクでは曝露は完全には抑えられないというのがあるので、それによる違いというよりは、患者さんの違いというか、そういう疾患になりやすい方となりにくい方での違いを配慮するということになります。
池田
症状が起きる前に、何とかモニターをして、疑いのある患者さんを選別していくということになると思いますが、一般的にはどのような検査スケジュールになっているのでしょうか。
中込
今回の木材の場合は、まずアレルギー素因や喘息の有無を評価することが大事だと思います。一般的に喘息はIgEが高くなって、ダニとかカビとか、そういうものに対する特異的IgE抗体があります。血液中では、白血球中の好酸球が増えてきたり、あとは最近測れる呼気NOという検査があって、この辺でアレルギー体質の、または喘息の有無を評価することができます。こういう体質がある方にはやはり要注意かなと思います。
あとは、こういう環境が喘息を起こしているか起こしていないかを評価するときには、もちろん症状と職場、仕事の関連を日記にしてもらうというのが大事です。あとはピークフローモニターといって、呼気流速を簡易的に測るものがあるのですが、それを使って、仕事中、平日と休日で差がないかを見たりします。粉じんが悪さをしている場合は、平日仕事をしているときには呼気流速が下がって、休みのときには回復しているなどというエピソードがあると、やはり粉じんが悪さをしている可能性があるということになります。
池田
簡易的なメーターがあるのですね。今度は、粉じんによる気管支喘息という診断がついた場合、治療はどのようにされるのでしょうか。
中込
今は吸入ステロイドを中心とした喘息の治療がかなり発達しています。それ以外にも生物学的製剤や治療がかなり発達していますが、それより大事なことは環境整備です。粉じんが悪さをして、喘息を起こしているわけですので、やはりこれをなるべく隔離、排除するということですね。患者さんの希望などによってマスクのみで対応をせざるを得ないという方がいる一方で、できれば職場の配置転換などをしていただいたほうが、トータルで見るとコントロールがよくなる人が多いと思います。万が一たばこを吸う方がいましたら、たばこは必ず喘息を悪くしますので、やめていただいたほうがいいかなと思います。
池田
生活指導も含めて指導されるのですけれども、万が一、進行していた場合、何かほかの合併症が出てくる可能性はあるのでしょうか。
中込
喘息に関していえば、進行するといわゆるCOPDという病態になります。肺活量が下がって、肺活量の中でも1秒量(1秒で早く吐く力)が落ちてきて、慢性閉塞性肺疾患といわれているようなCOPDになってしまいますので、吸入を中心とした治療と環境整備、これをなるべく早い時期からやることが重要かなと思います。
池田
たばこも交えて、もしCOPDになった場合は、治療は通常のCOPDと同様に行われるのでしょうか。
中込
COPDの治療も吸入を中心とした治療になるので、COPDの治療を続けながら、繰り返しになりますが、禁煙と環境整備を大事にします。
池田
職場を変えて、治療もやって、落ち着いてきたとしますよね。その際、また粉じんに曝露されるような仕事に戻ることが可能な症例はあるのでしょうか。
中込
もちろん可能な症例はありますが、それでも、アレルギー素因や喘息の素因というものは、基本はなくならないので、やはりリスクはあると思います。こればかりはなかなか、生活のためという理由で変えられない方がいないわけではないのですが、そうすると、病気のコントロールというのはなかなか難しいことが多いと思います。良くなれば、職場に戻り得ますが、アレルギーや喘息の素因はやはり残ってしまうので、悪化するリスク自体は多少下がる程度だと思います。
池田
ということは一度症状が出たり、あるいは、じん肺による呼吸器疾患の診断がついた場合は、産業医から見ると、このまま元の職場には戻れないかなというイメージを持って指導するということなのでしょうか。
中込
それがありがたいと思います。けっこう根深くて、やはり環境を変えられないと、なかなかよくならないということはよく経験します。職場の配置転換や完全に事務仕事だけしていただいたり、同じ会社の違う部署で働いてもらったりというかたちになります。とはいうものの、粉じんの症例を見ていると、事務所で曝露されるようなこともあるので、環境から離れていただくほどいいとは思うのですが、そこはもうバランスの問題になってしまうかなとは思います。
池田
難しいですね。
中込
そうですね。悪くなるということに関しては、わかっているものとわかっていないものがあるのでなかなか難しいのが現実です。我々も、昔の症例を見ながら、こういうことがあるのだと後でわかることのほうが多いので、初めからは決められないことがけっこう多いかなと思います。現在は明らかになっているたばこやアスベストでも当時はなかなかわからなかったと思うし、最近さらに新しい粉じんというか、例えば、インジウムスズ酸化物といわれているディスプレイとかにあるようなものが原因になることもわかってきたり、医薬品や化粧品の製造のときに作られてくる架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物といわれているようなもの、こういう粉じんが最近わかってきているので、昔に比べると予期できない粉じんが増えてきているというのが臨床での実感です。
池田
科学が進めば、また新しいタイプの粉じんが出てくるのですね。
中込
そうですね。それもわかったときはやっぱり患者さんの「変な感じがする」というところから、複数の患者さんで同じ症状があってそれからという経緯なので、想定できない粉じんというのがたくさんあって、そこに対してまた新しく対策を立てていくということをしていくということになろうかなと思います。
池田
どうもありがとうございました。