池脇
本日はスタチン不耐に関する質問をいただきました。動脈硬化学会が2018年に「スタチン不耐に関する診療指針」を出しましたが、先生がその委員長をされていたということで、来ていただきました。
まず、スタチン不耐はどういう状況なのか、教えてください。
梶波
スタチン不耐というのは少し耳慣れない言葉ではないかなと思います。先ほどご紹介いただいた「診療指針2018」の中では、非常に堅苦しい言葉で表現されています。この指針は、日本動脈硬化学会のホームページからはどなたでもダウンロードができますので、いつでもお手元にとって参考にしていただければありがたいのですが、とにかくスタチンというコレステロール低下薬を服用することで、好ましくない変化が体に生じて、日常生活が影響を受け、その結果、継続できない。そういう状態を不耐、それがスタチンの内服によってもたらされた場合をスタチン不耐と呼びましょうと。言われてみれば、処方薬の中では重々ありうることなのですけど、いったい具体的に何なのだというのは、ちょっとぼんやりしているかもしれません。
池脇
スタチンも何種類かありますよね。1種類で内服継続が困難になれば、スタチン不耐と言っていいのでしょうか。
梶波
そこが一つ大事なポイントです。服薬とともにそのように好ましくないことが起きたとしても、それが本当に薬剤に起因するものかどうかというのはなかなか証明が難しいのが日常臨床だと思います。ですので、ある種類のスタチンで不具合が起きたときに、それが本当にスタチンのせいかどうかというのは、やはりスタチンという非常に重要な薬剤のことですので、できれば別の薬剤を試してみるという場面があったほうが患者さんにとっては有益になるのではないかなと。そういうことも指針には具体的に書かせていただきました。
池脇
スタチン不耐は、海外ではけっこう頻度が高くて、10~20%と書かれているものもあったのですけれども、日本での頻度はデータはあるのでしょうか。
梶波
すべての年齢層の患者さんを対象に分析した研究はないのですが、中高年、40~60代の人たちのレセプトデータを検討して、最初に処方されたスタチンが継続できず、その後、別のスタチンを繰り返し処方されたけれども、結局継続できなかった人の抽出を目指した研究があります。それによると日本人でもやはり10%あるいはそれ以上が、ある1種のスタチンの服用で具合が悪いからもうスタチンは飲めないということではなく、複数種のスタチン服用を試みても継続できないと言わざるを得ない人がいらっしゃるのではないかと思われます。年齢層別あるいは性別ごとの分析は今後の課題であると思います。
池脇
10%、あるいはそれ以上となると、本日お聞きの先生でも、必ず何人かそういう方がいらっしゃるというぐらいの頻度と考えてよいですね。
梶波
そう思います。一つ大事なことは、やはり継続服薬できない方というのはスタチンの持っているベネフィット、動脈硬化の心血管病を予防するという効果が明らかに低下するということは日本人でも報告されていますし、欧米でも繰り返し指摘されているので、その人たちにどう向き合うかという宿題があるということは重々認識していただきたいと思います。
池脇
継続困難になるような有害事象、具体的にどういうことが起こって継続できなくなるのでしょうか。
梶波
それについては、日本人と欧米人に大きな差はありません。代表的なものは肝機能異常と、もう一つは筋痛や筋力低下などの筋症状および筋酵素CKの上昇で、これら2つが重要と言われています。
池脇
確かに、肝障害は採血でAST、ALTが上昇することがあります。筋障害は、CKが上がってくると何らかの筋障害があるということになりますけれども、CKは正常で、筋症状を訴えられているときに、本当に副作用なのかどうなのか、判断に迷うときがありますね。
梶波
そうですね。筋痛とか筋力低下というのは非常にいろいろな場面で我々自身も経験することですので、そこがスタチンの服用困難理由を考えるときの大きな注意点、大きなハードルになっていることは事実です。
欧米で、どういう筋症状がスタチンとの関係性が高いかを点数化する試みもなされていますけれども、そういうことよりも、やはり患者さんがどんなふうに苦痛を感じていらっしゃるかをよくお聞きして、記録を残して、次の対策を考えるということが重要な出発点ではないかと思います。
池脇
特にそういった筋障害のスタチン不耐に対してどう対処するかということが本日の質問になりますけれども、一般的には、スタチンを減量したり間隔を空けたり、そういうところから始まるのでしょうか。
梶波
そうですね。冒頭にご紹介いただいた診療指針では、投与量を減量するか、いったん中止するかは患者さんとよく相談して決めていただきたいと書かせていただいています。いったん中止するときは2週間ほど休薬し、症状がどう変化するのか日誌をつけていただき、その推移から薬剤とどの程度関係がありそうか吟味することが第一歩です。その次に、スタチンを再投与するのか、それとも別の治療の選択肢を考えるのかが次の段階かと思います。
池脇
確かにスタチンは、心血管疾患予防効果が確立されていますので、スタチンを諦めるよりも何とか継続できたらいいとは思いますが、スタチン以外の薬も考慮してもいいわけですね。
梶波
そうですね。最近開発されたスタチン以外のLDLコレステロール低下作用を持つ薬剤は、そのようにスタチン服用困難なスタチン不耐の症例に対しても臨床試験が行われ、心血管病予防効果が確認されていますので、スタチンの服用が難しい人に治療選択肢がしっかり提示できる時代となりました。決してスタチンの服用が難しいからといって、治療法がないわけではありません。そこはぜひ認識をしていただきたいなと思います。
池脇
具体的にスタチン以外では、エゼチミブや、PCSK9阻害薬は注射薬ですけれども、考慮してもいい薬ということでしょうか。
梶波
そうですね。エゼチミブは内服薬として良好なコンプライアンスが期待できます。また1剤のスタチンが継続できないときに、コレステロール低下作用の少し弱めの別のスタチンを選ぶ、あるいは連日投与ではなく1日おきに投与するということも有効であるとの比較研究もあります。私の臨床経験からも、やはりこれらは試す価値ありと思います。
その際には、やはり患者さんとしっかり話をして、いったん中断するに至っても、どういうふうにそれを受けとめるのが良いかという対話を積み重ねていくことをぜひご留意いただきたいと思います。
池脇
確かに、エゼチミブあるいはPCSK9阻害薬を使うにしても、スタチンとの併用で相乗効果があると言われていますので、スタチンを全面中止するよりも、ほんの少しでも、あるいは隔日でも、内服することによって、エゼチミブ、PCSK9阻害薬の効果を増大させるというメリットもあるわけですね。
梶波
そうですね。大事なことだと思います。
あともう一つ、欧米ではすでに市販されて、動脈硬化予防効果も確認されていますが、ベムペド酸という新しい薬剤が間もなく我々も処方できるようになります(2025年11月に販売開始)。その意味からも、スタチン不耐、スタチン継続困難な患者さんとどう向き合うかは今後一層重要な課題になると思います。
池脇
今先生が触れられたベムペド酸、本日の質問にも出てきますが、これはどうしてスタチン不耐に効果があるのか、その機序はわかっているのでしょうか。
梶波
ベムペド酸は作用点が筋細胞には影響しないという論理的な背景があるので、その結果、筋症状が起きにくいと考えられています。臨床開発のときのいろいろなデータを見ても、期待していいのではないかと思われます。日本人でどうかというのは今後の課題ではありますが、新しい選択肢として有望でしょう。
池脇
確かに、発現が肝臓限定ということは、筋肉で副作用を起こすという可能性は限りなく低くて、下げる機序は基本的にはスタチンと同じ、コレステロールの合成系のあるところをブロックするというのは共通しているわけですね。
梶波
そうですね。ブロックするのはスタチンのHMG-CoA還元酵素よりも一つ上流ですけれども、薬剤としては、肝臓で活性型に代謝され肝細胞内で作用する。筋にはその活性型への変換酵素活性がないということなので、スタチンと違う薬物動態を持つことになります。
池脇
スタチン不耐に対する新薬は、本日の収録は9月で、近々発売されると聞いていますけれども、それもオプションの一つと考えてよいですね(2025年11月21日発売されました)。
梶波
そうですね。
池脇
ありがとうございました。