ドクターサロン

山内

本日は少し質問の関係で紛らわしいのですが、ウイルス性の言葉があるのでウイルス性肝障害の話でいきたいと思います。ただ、最近出てきていますMASLD、これは非ウイルス性ですけれども、こちらのほうでの肝硬変の発症とウイルス性からの肝硬変の発症は機序的に分けて考えたほうがよいということでしょうか。

建石

そうですね。MASLD、最近出てきた新しい概念ですね。メタボリックシンドロームを合併している脂肪肝ですけれども、こちらからも肝がんが発生することがわかっています。この中でも肝炎を起こしているものを最近はMASH、脂肪肝炎と呼ぶのですけれども、同じ肝炎と名前は付いていますが、ウイルス性肝炎と病態はだいぶ異なります。ただ、こちらもやはり、炎症から発がんしてくるというプロセスは共通しているのかなと思います。

山内

本日はあまり話が広がらないようにということで、ウイルス性肝炎に絞ってお話をうかがいたいと思います。まず、ウイルス性肝炎で、ウイルス量を減らすことができるようになって、肝臓がんはかなり減少したのでしょうか。

建石

はい。ウイルス性肝炎で今、肝臓がんが関係しているものは2種類ありまして、B型肝炎ウイルスとC型肝炎ウイルスによるものがあります。それぞれ日本の肝がんの主な原因ですけれども、治療法とその後の経過が異なっていますので、分けて考える必要があると思います。

まず、先ほど質問がありましたように、B型肝炎ウイルスに関しては、内服を行うことによって肝炎ウイルス量を検出感度以下まで抑えることができます。ただ、残念ながら、これは飲んでいる間だけのことでして、飲むのをやめてしまうとウイルス量がまた増えてきますので、患者さんはある程度長い期間継続して飲んでいただく必要があります。

B型肝炎ウイルスの場合は、肝炎ウイルスが直接、宿主、我々の肝細胞のゲノムに組み込まれることがわかっていますので、肝炎を経ずに、B型肝炎ウイルスの感染のみで発がんをきたしてくるようなケースがあることが知られています。

山内

その場合、肝硬変を経ないことがあり得るということですね。

建石

はい。特に日本ではもう少ないですけれども、アフリカ諸国などでは小児で肝がんになるような方もいらっしゃると言われていますので、こういう方はほとんど肝硬変を経ずに肝臓がんになるといわれています。

山内

C型肝炎の場合も、最近はかなりウイルス量が、ほぼゼロと言っていいレベルまで抑えることができるようになっているようですが、このケースですと、あまり肝がんは発症しないのでしょうか。

建石

はい。C型肝炎ウイルスの場合は、B型肝炎ウイルスと違いまして、ウイルスを駆除することが可能です。特に昨今は2014年から、副作用がほとんどない飲み薬だけでほとんど100%の方が肝炎ウイルスを駆除することができるようになりました。おかげさまで私の外来などもウイルスが今現在、体にいる方はほとんどいなくなったのですけれども、そうなりますと、発がん率は大幅に低下してきます。

ただ、ウイルスが消える前に肝硬変か、あるいは肝硬変の一歩手前ぐらいの方の場合は、やはり長く診ていますと発がんすることがわかっていますので、注意をする必要があります。具体的に言いますと、内服終了後、もう飲むのをやめてもウイルスが出てくることはないわけですけれども、肝硬変だった方の場合、発がん率はおよそ年率1~2%といわれていますので、そういう方は継続して、肝臓の専門医の先生のところで診ていただいたほうがいいのではないかと思います。

山内

少しメカニズムのほうに目を向けていきたいのですが、肝炎から肝臓がんに行く、なぜがんが出てくるかというところなのですけれども、これはウイルスが肝細胞の中に取りついて、その肝細胞のDNAを変えて、がん化してしまう、これによるものと考えてよいのでしょうか。

建石

B型肝炎ウイルスは一種の発がんウイルスであって、それ自体が発がんを起こすということは知られているのですが、C型肝炎ウイルスの場合は、B型のようにゲノムに取り込まれるということはありません。主な機序は、まず肝炎ウイルスに感染した肝細胞をリンパ球が排除しようとします。次に、死んだ肝細胞を補うために周りの肝細胞が分裂をして再生する過程で、遺伝子にコピーエラーが生じて、それが長い年月、蓄積することによってがん化をしてくるというのが中心的なメカニズムだと考えられています。

山内

肝細胞はそんなに再生能力が高いのですか。

建石

よく知られていることですけれども、肝臓という臓器自体は、他臓器にない、再生するという能力を持っていまして、例えば移植のドナーになられた方は肝臓を半分切り取っても、2週間ぐらいでかなり再生することが知られています。肝細胞自体も旺盛な再生能力を持っているのですが、やはり限界がありまして、何十年にもわたる肝炎が続いていますと、肝細胞自体の再生能力も落ちてきますし、創傷治癒過程で一般的に見られる線維化というのは起きてきますので、それによって肝機能も落ちてくるというようなことが見られます。

山内

その線維化が肝硬変ということだと思いますけれども、その場合、増えてくるのが線維芽細胞ですね。線維芽細胞のほうの遺伝子が狂って、あるいはその線維芽細胞が新生を繰り返す間にがんになっていく、こういう可能性はないのでしょうか。

建石

線維芽細胞から出てきたがんであれば、線維芽細胞の特徴を備えていると思うのですけれども、肝細胞がんというのは、顕微鏡で見ますと相当肝細胞によく似ているのですね。なので、肝細胞がんのオリジンは肝細胞で間違いないのだと思います。

ただ、線維芽細胞の増生が肝細胞のがん化を促進しているという基礎的な研究もありますので、いくらかそういう関係はあるかもしれませんが、主なメカニズムはやはり、先ほど申しましたように再生の過程でコピーエラーが生じてくるというのが中心ではないかなと思います。

山内

線維芽細胞はその場合、あまり悪いことはしていないということですか。

建石

例えばウイルスが消えた後に発がんが起きにくくなるわけで、そういう過程を見ますと、多少は関係がある可能性はあります。一方で、線維が寛解した後でも発がんは起きてきますので、線維そのものが発がんを促進している割合というのはかなり少ないのではないかなと思います。

山内

線維化が非常に進んできて線維だらけになっていくと、もうこれはだめだなというイメージが我々はあるのですが、必ずしもそうでもなくて、肝臓にたまった線維は場合によっては消えていくこともあると考えてよいでしょうか。

建石

これは20年以上前から知られていることですけれども、C型肝炎患者さんにおいて、ウイルスを駆除することができると肝炎も治まりまして、線維はだんだん溶けていきます。肝硬変であったような方も、10年ぐらいすると正常に近いところまで戻ることが知られています。

ただ一方で、あまりに線維化が進んでしまうと、今度は門脈圧亢進症と申しまして、肝臓の血流自体が異常になってきますので、そこまでいってしまうと、線維の寛解が追いつかないといいますか、門脈圧亢進症のせいでウイルス駆除後も病気が進んでしまうということはみられています。

山内

ちょっと肝硬変のイメージが狂いますが、肝硬変というのはなくなってしまうことがあるということですね。

建石

そうですね。かなり期待できると思います。病気の原因にもよると思いますけれども、比較的軽症の肝硬変は相当な率で寛解すると思います。

山内

最後に、肝硬変になりやすいタイプ、なりにくいタイプ、この辺りいかがでしょうか。

建石

ウイルス肝炎の場合と、先ほど少し出ました脂肪肝の場合ではまた異なると思うのですけれども、幾つかの先天的な遺伝子のバリアントといいますか組み合わせによって、やっぱり進みやすい方、進みにくい方というのがいらっしゃると思います。実はお酒などでもそうです。ですので、同じように感染して、あるいは同じような時期に診断された方でも、進みが早い方と進みが遅い方というのは相当いらっしゃるというふうに経験しています。

山内

やはりアルコールとか、年齢とか性別、そういったものの違いはあるのでしょうか。

建石

はい。肝炎全体でいいますと、一部の自己免疫性肝炎を除けば、男性のほうが少し進みは早いと思います。アルコールは全般に、例えばC型とかB型肝炎がある方、脂肪肝がある方でも、飲めばそれだけ病気の進みが早くなることがわかっています。

山内

いずれにしても、感染後、非常に長い経過をたどっているのは大きなことだということですね。

建石

はい。発がんのプロセスにとっては、長い経過というのが一番重要で、かつ、我々は長い経過の中で年を取っていきますので、加齢というのがすべてのがんにおいてリスク因子になります。そういう意味でも経過が長い方は注意が必要だと思います。

山内

C型肝炎の場合は肝臓の細胞の中に入ってもあまり悪さをしない。この理由は何かあるのでしょうか。

建石

一つはRNAウイルスであるということだと思います。ウイルスが作る蛋白が実は発がんを促進するという研究もありますので、全くの悪さはないとは言えないと思うのですが、例えば、かつてC型肝炎ウイルスに感染して30年40年たっているけれども、肝臓が正常な方というのはよく見かけました。そういう意味では、肝炎というのはあくまでも免疫応答によって起こってくるものですので、ずっと共存といいますか、長い年月あまり免疫応答が起きずに過ごされているような方は発がんしないこともあるのかなと思います。

山内

ありがとうございました。