ドクターサロン

齊藤

本日は、日本腎臓病協会の理事長として、日本のCKD対策をリードされている柏原先生のお話をうかがいます。

まずCKDの歴史ですが、昭和時代には、CKDや腎臓疾患はどのように考えられていたのでしょうか。

柏原

昭和の時代にはCKDという言葉すらありませんでした。その当時は、日本の腎臓病医学というのは非常に精緻な疾患体系をつくっていて、慢性糸球体腎炎症候群、急性糸球体腎炎症候群等々、まず症候群から始まって、基本的に腎生検による組織診断に基づいた診断名が非常に精緻に整備されてきたという流れがあります。ところが2000年代初頭になって、これは主に米国で、腎障害がどうも腎臓だけの問題ではなくて、心筋梗塞や心不全、脳卒中と関わりが深いという気づきがあって、慢性腎臓病、CKDという概念が生まれてきました。

当初は循環器内科医がこのことに気づいて、そういった患者さんはGFRが少し低かったり、検尿をすると蛋白尿が出ている患者さんが多かったりというところから慢性腎臓病という概念が生まれてきて、eGFR、推定GFRが60未満、あるいは検尿して、蛋白尿が1本プラス以上出ている、そういう状態のいずれかが3か月以上続く状態をすべて慢性腎臓病、CKDと呼ぶことになりました。ただ、従来の腎臓病の診断名とは随分趣が違って、我々もこれをすぐに受け入れるのには少し抵抗があったというのが2000年代初頭でした。

齊藤

2004年に日本高血圧学会の高血圧ガイドラインを作ったときに、そこでCKDがいきなり出てきて、少し戸惑った記憶がありますが、少し遅れて2007年にCKDのガイドができましたね。

柏原

そうですね。本来はガイドラインが先に出て、それを要約したものがガイドになるべきですが、まず学会としては、啓発を急ごうということで、最初にガイドから出したという経緯でした。

齊藤

厚生労働省もそこに注目して対応していくことになったわけですね。

柏原

そうですね。2007年に厚生労働省の健康局に腎疾患対策検討会という会議体が構成されて、向こう10年間の腎臓病対策の方針を決め、5つの柱を立てて、研究開発の促進や普及・啓発に取り組み始めました。

これが第1期で、2018年に第2期となる腎疾患対策検討会が構成されました。そこの座長を私が拝命して、関連する学会、糖尿病学会、循環器学会、透析学会、患者会、行政の代表の方々に参画いただいて、2018~27年末までの日本の腎臓病対策の方針をそこでディスカッションしました。

齊藤

国を挙げて取り組んでいくということで、メタボリックシンドロームも同じような時期に同じように動き出してきていますね。どちらも生活習慣と非常に関わりがありますし、患者数が多いということで、かなり並行してできる部分があるということですが、CKDの日本の疫学はどうなっているのでしょうか。

柏原

当初は1,300万人強と推計されていましたが、直近の推計では約2,000万人に上っています。だいたい日本の成人5人に1人がそれに該当し、決してこの10年間に減ってはいないというのが現実です。

一方で、透析患者さんの数は一貫して増え続けたのですが、2022年辺りを境として新規導入患者数は若干減少傾向にあります。現時点で32万~33万人の透析患者さんがいて、一時は毎年4万人近い新規透析導入患者さんがいたのが、今は減少しつつあるのは2018年以降取り組んできた対策が、少し奏効してきたのではないかなと受けとめています。

齊藤

少し戻りますが、CKD対策の基本は何でしょうか。

柏原

腎臓病やCKDは症状が全くありません。一方で、簡単な検査で簡単に見つけることができます。そのひとつは血液検査で、クレアチニンを測定することで、いまや日本の多くの医療機関で、クレアチニンからGFRを推算する式で推計eGFRは自動算出されます。

もうひとつは検尿で特に検尿の中の蛋白尿です。±以上であれば、尿中の蛋白とクレアチニンを測定して、その比が0.15グラム以上であれば、蛋白尿があると判断していいというのも、かかりつけ医にお伝えしています。

齊藤

まずCKDを発見したら次はどのような対策になりますか。

柏原

次は生活習慣の適正化で、まず肥満が非常に大きな腎臓病の進行因子になりますので、体重を適正化していただきます。2点目は、血圧も独立して腎臓病の発症と進行の危険因子になることがわかっていますので、すでにCKDであれば、家庭血圧を125/75未満ぐらいに厳格に管理していただく。血圧との関わりが深いのが食塩ですので、理想は1日6グラムといいますが、まずは8グラム、9グラム未満ぐらいに抑えていく減塩が大事です。

次に、これも間違いなくやっていただきたいのは禁煙です。喫煙も独立して腎臓病の発症、進行に関わりがありますので、たばこをお吸いの方はぜひ、CKDと診断された時点で禁煙をしていただく。そういうことになろうかと思います。

齊藤

生活習慣改善、これは本当に基本的なことで、メタボ対策の特定保健指導もやっています。そこで少し違うのが減塩です。減塩については、どうですか。

柏原

減塩はもちろん保健師の方々や管理栄養士の方にご指導いただくわけですが、その効果の評価方法がまだ普及していません。以前は24時間蓄尿して、尿中のナトリウム、NaCl量を測定していましたが、最近はほとんど蓄尿という方法を採らなくなりました。尿中のナトリウム/カリウム比を測定したりということも普及し始めていますが、まだ一般化はしていません。減塩が大事なことは皆さん100%同意しますが、その評価方法についてはまだ普及できていません。

齊藤

尿中の電解質測定はそんなに費用がかからないので、随時尿でよければ、比較的簡単なことですね。

柏原

そうですね。随時尿でかまわないということです。

齊藤

薬物療法が進歩してきていますね。

柏原

そうですね。腎臓病の薬というのは、2001年当時は、レニン-アンジオテンシン系阻害薬、ACE阻害薬やARBと考えていました。ところが、こういった薬が本当の腎保護効果を発揮できるのは、実は2型糖尿病で蛋白尿がけっこう出ているような患者さんだということもその後わかってきました。以来、約20年間薬を求めてきたわけですが、2019年、2020年ぐらいに新しい糖尿病の薬、SGLT2阻害薬が腎臓にも有効だとわかったということが非常に大きな出来事でした。

2020年に非糖尿病の腎臓病にも有効だということが示されて、今我々はCKD全般に有効な薬を数種類手にしています。

さらに糖尿病が合併した場合には、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬やGLP-1受容体作動薬も有効だということがわかってきていて、以前は薬のない領域といわれていましたが、今は逆に複数の薬を手にしたということで、たいへん希望が持てるのではないかなと思います。

齊藤

副作用が比較的少ないので、開業医も使用可能ですね。どういった基準で使っていくか、いかがでしょうか。

柏原

一言でいうと、その方の、平均寿命の間に透析になるかどうかです。eGFRが15~10未満になるかどうかということを予測して使います。一つ有効な方法は、eGFRの傾きを描けば、あと20年ぐらい寿命はあるよねということで予測できます。それが非常に有効ですが、それがなければ、おおまかには、eGFR45未満の方、蛋白尿が1本プラス以上出ている方というのは使用を考えていいのではないかなと思います。

齊藤

健診でeGFRが50ぐらいの人もかなりいますから、そこの人たちについては、傾きを今ネットで計算することが可能ですね。

柏原

簡単にグラフに描くことができます。

齊藤

それで将来を予測して、先ほどおっしゃったようにeGFR15になるのが、平均寿命よりも前ならば、治療もお勧めするというということですね。

柏原

そうです。

齊藤

そうすると非常にシンプルで、腎臓専門医でなくともいけるということですね。

柏原

そうですね。かかりつけ医に自信を持って使っていただけるような薬ですし、治療していただける疾患だろうと思います。

齊藤

それでも難渋する場合には専門医に紹介するとよいですね。

どうもありがとうございました。