ドクターサロン

大西

COPDというテーマでいろいろうかがいたいと思います。

まず振り返ってみますと、私が研修医の頃は、COPDという概念はあまりなかったように思います。COPDの概念が確立されてきた経緯から教えていただけますか。

長瀬

先生がおっしゃるように、昭和の時代は、気管支喘息、肺気腫、慢性気管支炎、これらは閉塞性の病態を示す閉塞性肺疾患ということで3つがまとめられていた。そういう捉えられ方をしていたわけです。特に、肺気腫では肺が破壊される。肺というのは再生しない臓器なのですね。不可逆的に破壊されてしまう。慢性気管支炎もそうですけれども、肺気腫で壊れてしまった肺はどうすることもできない。当時はあまりいい薬もなかった。現実にはほとんど薬らしいものもなかった。そういう時代でした。ですから、病名宣告というのが、ある意味でいったら、もうしょうがないですよと。患者さんも諦める。そういう時代であったと思います。

ところが、昭和から平成になって、COPDを独自の病態として捉えるようになった。そもそもCOPDという概念は、肺気腫と慢性気管支炎の2つをいうわけでして、気管支喘息というのは病態の発症機序も異なりますので、これが外れたということです。

平成になって、大規模スタディ、いわゆるエビデンスの時代が始まりました。この大規模スタディによって、次々とデータが出てきました。そして、これは後ほど治療で申し上げますが、奏功する薬も出てきました。そうこうして現在、令和では、COPDに関してはある意味で最先端の治療も始まっています。ですので、COPDというのは治療可能な病気になったというふうに捉えられている。これが時代の流れかと思います。

大西

COPDの病態は、具体的に言うと、どういうことになるのでしょうか。

長瀬

まずCOPDの発症原因ですけれども、やはりタバコの煙を長期間吸うことによって、肺に生じる病気です。閉塞性の病態といいますけれども、気道閉塞が起こります。肺気腫という病変と末梢気道病変という病態がありまして、この2つが混在して、病態を作っていると考えられます。

大西

原因としては、喫煙がかなり関与していると思うのですけれども、それ以外にも何かあるのでしょうか。

長瀬

そうですね。わが国においてはほぼタバコの煙だと考えられますが、世界では、COPDというのは非常に症例数の多い病気です。例えば東南アジアなどでは、バイオマス・フューエルといいますが、例えば木を室内で燃料として使い、その煙を吸う。それによって起きるケースのほうが多いとうかがったこともあります。

大西

次に診断のことをうかがいたいのですけれども、そもそも症状は、初期はあまりはっきりしないこともあるかと思うのですが、症状の取っかかりはどのように考えたらよいでしょうか。

長瀬

COPDという病気は、そもそもすごく数が多いはずなのですね。日本中でおそらく500万人以上はいらっしゃるはず。ところが、保険の給付などの統計を見ると、どうも数十万人しか治療を受けていないらしいです。それはどうしてかというと、診断されていないからということなのですね。

ではどうやって診断をするかということですが、まず受診してもらうことが必要です。その受診の機会ですけれども、やはり慢性的な咳と痰、さらに症状が進行すると、息切れが出てきます。特に労作時、例えば階段を上ったときの息切れですね。こういった症状で受診します。ただ、残念ながらそのときにはかなり進行していることが多いです。

大西

検査の実際としましてはスパイロメトリーとかが重要なのでしょうか。

長瀬

おっしゃるとおりです。COPDというのは、スパイロメトリーで1秒率(1秒量を努力肺活量で割ったパーセント)が70%未満、さらに気管支喘息などが除外された場合に診断されます。ですから数字で決めることができる病気でもあり、非常にクリアに診断できるということになります。

大西

治療の実際をうかがいたいのですけれども、標準的な治療はどのような状況になっているのでしょうか。

長瀬

薬物療法と非薬物療法がありますが、何といってもまずは禁煙です。これが疾患の進行を止めるという点では最重要になってきます。ですから、まず、タバコを吸っている人にはそれをやめてもらわなければいけないということです。それ以外にも例えばインフルエンザワクチンとか、そういった予防措置も重要です。

薬物療法となりますと、これが平成になってからの進歩なのですけれども、気管支拡張薬を吸入で使うということになります。特に長時間作用型の抗コリン薬(LAMA)と長時間作用型のβ2刺激薬(LABA)の2つが中心になります。

大西

LAというのは、いわゆるロングアクティング、長時間作用型の略と考えてよいですね。

長瀬

そのとおりです。この2つの薬剤は、個別に使うこともありますが、最近では合剤という形で使われることもあります。さらに増悪といいまして、COPDというのは急に悪くなることがあります。この増悪がCOPDの予後を非常に悪くするということがわかっていまして、この増悪を予防します。そのためには、増悪を頻回に繰り返す場合には吸入ステロイド(ICS)を使うこともあります。最近では、この3つの薬物が一緒になった、いわゆるトリプル合剤も使えるようになっています。

大西

その辺りが相当進歩してきましたので、だいぶ治療が可能になってきていると考えていいでしょうか。

長瀬

エビデンスとしては、増悪を予防するという点では、かなり有望であるということが示されてきていますね。

さらに、内服薬として喀痰調整薬を使うことがあります。日本が中心となって東アジアで行われた大規模研究(PEACE Study)でカルボシステインを使った場合に増悪を有意に抑制するといった結果が出ていますので、これもエビデンスとして認められています。

大西

実際、COPDの死亡率も改善してきているのではないかとは思うのですが、現状どういうふうになっているのでしょうか。

長瀬

死亡数としては、決して減っているわけではないですね。まず患者の数が増えているということもありますし、治療を行って、QOLの改善や運動耐容能、身体活動性の維持ということを目指しますけれども、究極には疾患の進行をなかなか止められないというのが現状です。

大西

合併症もいろいろ知られていると思うのですが、その辺りを教えていただけますか。

長瀬

COPDというのは、タバコ煙を吸うことによって起きるのですけれども、併存症も重要です。心血管疾患、糖尿病、骨粗しょう症といったものが代表的ですけれども、こういう病気で診られている患者がCOPDも持っている。それを見逃されているケースが多々あるというのが現状ですね。

大西

肺癌の合併も気をつけなければいけないということですね。

長瀬

そのとおりです。結局、COPDの死亡要因としては、呼吸不全ももちろんですが、肺癌と心血管疾患がメジャーな死因になっていますね。

大西

ガイドラインも新しく改訂されているとうかがっています。「健康日本21」ですか、COPDの死亡率の目標設定などもなされていますけれども、その辺りの現状はどうなっているのでしょうか。

長瀬

COPDというのは、昭和の時代にはガイドラインがなかったのですね。平成になって初めてガイドラインが作られ、第7版が出つつあるところです。目指す方向性としては健康寿命を延ばすということですね。単に長く生きるというよりは、健康な寿命が大事だというコンセプトです。

これは「健康日本21」の目標の一つでもあります。第二次で、COPDは初めて対象に入ったのですが、認知率の向上が目標とされました。ただ、第三次ではむしろ積極的に死亡率を下げるといったような目標を掲げています。

大西

臨床の現場では早期に発見することが非常に重要なのかなとうかがっていたのですけれども。

長瀬

そのとおりです。早期発見、早期介入。そのためにやはり現場の臨床の方、特にクリニックの方ですね、糖尿病や高血圧で診ている患者がCOPDも持っているかもしれないので、まずは疑ってみるということ。それから診断にはスパイロメトリーが必要ですから、ご自分の施設でできない場合には、一度病院へ紹介して確診をつける。COPDは病診連携の非常にいいモデルとなる疾患ですので、ぜひ病診連携を進めていただければと思います。

大西

ありがとうございました。