池脇
本日はCKDの運動療法で質問をいただきました。CKDは、以前は運動制限だったのが、運動療法へと大きく転換されたと。そもそも、腎臓病の患者は、以前は寝かせておけと言われていましたが、どういう理由でそういうふうになったのでしょうか。
星野
おっしゃるとおり、90年代、私が研修医の頃も腎臓病の治療は安静にして、ステロイドで治療する形だったと思いますが、2000年代に入りまして、運動習慣がある方はむしろ透析の導入が遅く、死亡リスクも低いというエビデンスが次々と示されるようになりました。そういった背景から、2011年に腎臓リハビリテーション学会が世界に先駆けて日本に発足し、CKDと運動について科学的に検証していく機運が高まってきました。
池脇
腎機能そのものに対する運動の作用もあるのでしょうけれども、CKDは心血管疾患、サルコペニア、フレイルのハイリスクでもありますので、運動療法はプラスに働くと考えるようになってきたようですが、それを裏付けるようなデータが出てきたということですね。
星野
おっしゃるとおりです。運動後に蛋白尿が増える現象があったことから昔は運動が敬遠されていました。一方でこの現象は一過性のものであることがわかりました。さらにCKD患者さんは蛋白異化亢進で筋肉が萎縮しやすく、ミトコンドリア機能が低下しているため運動耐容能も落ちています。またステロイド等を使えば筋肉が萎縮し、フレイルにつながります。特に高齢化社会を迎えて、CKD患者のフレイルリスクが非常に問題になってきたことも、腎臓リハビリテーションが注目されるようになった背景にあります。
池脇
腎臓病の患者では、異化亢進、消耗の方向に働いていて、運動はそれを抑制するわけですか。
星野
おっしゃるとおり、CKD患者は蛋白異化が亢進しています。CKD患者は運動をしますと、筋肉の量は増えなくても筋力はきちんと回復してきます。それ以外にも、循環、呼吸、筋肉ミトコンドリアの総和としての運動耐容能も改善してくるということが、近年我々が行ったメタ解析で判明し、ガイドラインにも取り上げられました。
池脇
安静よりむしろ動かす、運動が腎臓病の患者にとっていいということで、早速、腎臓リハビリテーション学会が発足したのも素晴らしい展開だと思います。先生はそこで活動されてきたわけですけれども、腎臓リハビリテーションの中に運動療法を含むという理解でよいですか。
星野
そうですね。まさにおっしゃるとおりでして、もともと心臓リハビリテーションという考え方が先にありまして、運動は機能回復に効果的である事実があります。血管の塊である腎臓の場合も全く同じことが言えますが、腎臓リハビリテーションでは運動のほかに栄養、腎不全看護、オーラルフレイルなどCKDに伴う全身の諸症状を多面的に回復を図るといった面もかなり大切な要素です。したがって腎臓リハビリテーションといいますと運動をイメージしやすいですが、それだけでなく、栄養管理や貧血管理、腎不全に伴う様々な合併症を包括的に良くしていこうという考え方になります(図)。
池脇
腎臓病の患者に対しての運動療法を含む多面的で包括的なケアですから、腎臓専門医の方だけではなく、リハビリテーション、理学療法士、栄養士など多職種の学会なのでしょうか。
星野
はい。医者だけではなく、看護師や理学療法士、栄養士、社会福祉の方々、薬剤師など多職種の集合体になります。
池脇
次に、運動療法について具体的に教えてください。
星野
まずWHOが定義する運動習慣は、1回30分以上を週2回、1年間継続して運動している人を指しています。ただ、実際に今から腎臓リハビリテーションを始める場合、ガイドラインでは週2~3回、1回30分を目安に運動することを推奨しています。
池脇
運動も、有酸素運動やレジスタンス運動など、いろいろありますが、学会の推奨などはありますか。
星野
運動の要素には4つありまして、ウォーキング等の有酸素運動、筋トレなどのレジスタンス運動、さらにバランス運動と柔軟運動があります。ジムに行くと、この4種類はイメージしやすいと思います。最初に体操をして、走って、その後にマシンと柔軟をやる。その4つの要素を組み合わせたほうが効果的と言われています。
池脇
CKD患者の運動療法のメニューは先生方が提案されるのか、あるいは患者に任せるのか、どうされていますか。
星野
患者個々によって性格も体力も違いますので、個別医療が必要なところになり、画一化が難しい部分です。そこには理学療法士の役割が非常に大きく、事前に専門的に個々の身体能力を測定し、先に述べた運動メニューを個別処方するということを行っています。例えば有酸素運動を15分以上、ゴムバンドを使用したレジスタンス運動を10回数セットを週何回以上やりましょうという指導を行います。大事なことは患者に習慣化して持続的に行っていただくことですので、過度な負担にならないように、外来でも定期的にチェックしながらやるようにしています。
池脇
確かに、患者の基礎体力や年齢によって、最初から負荷の強いもので、「もう嫌だ」と言われてしまうとそれで終わってしまうので、長続きするように、うまく段階的に負荷を上げていくようなメニューを、理学療法士を含めて、先生方が包括的にやっているわけですね。
星野
そうですね。あと大事なのは、最初に運動の禁忌がないことを確認することです。特に腎臓が悪い方は心血管合併症も多いので、事前に慎重に評価した上で指導するようにしています。
池脇
変な言い方ですけれども、そういうことを指導するけれども、診療報酬に反映されないと、先生方もやる気がちょっとという感じがするのですが、診療報酬の面でも指導加算ができるようになったということで、国もサポートしていると考えてよいでしょうか。
星野
はい。令和4年から透析患者に対して、3か月限定ではありますが、透析中の運動指導に保険加算が付くようになりました。期間限定で1回20分以上行うという、条件が比較的厳しい制度ではありますが、世界に先駆けて日本が始めたユニークな制度として世界からも注目されています。
池脇
大きな一歩で評価できますが、できれば透析にならないように、その前の段階のCKD患者にも適用できるようになればいいのですが、先生方も動いているのでしょうか。
星野
はい。おっしゃるとおり、なるべく早い段階で、透析にならない、もしくはフレイルになる前に始めるのが理想的です。そこに保険も十分に付けば良いですが、現在は一部の糖尿病関連腎臓病に限定されており、エビデンスもまだまだ不足していますので、今は学会として前向きのレジストリを構築している段階です。
池脇
先ほど先生から、透析の患者に診療報酬が適用されたと聞きました。運動療法は軽症のCKDの方たちが対象かなと思ったのですが、透析の患者も含めて、すべての患者に適用されるという時代になってきたのでしょうか。
星野
そうですね。なるべく患者に元気に長く暮らしていただくというのが、我々医療者にとっても結果的にはプラスになりますし、当然患者にもプラスになりますので、そういう方向が少しずつ進んできていると考えています。
池脇
運動制限から運動療法への解説、そしてどのような運動かまで幅広く解説をしていただきました。お聞きの先生方もCKDの患者にはぜひ運動を推奨していただくという方向で進むことを期待しています。
星野
ありがとうございます。運動だけでなく栄養も両輪として、ぜひご指導いただければありがたいと思っています。
池脇
どうもありがとうございました。